JR横須賀線に新型車両が登場。2020年、総武線快速に
横須賀線・総武線快速仕様の「E235」系のイメージCG。配色は、伝統の「横須賀(スカ)色」を踏襲。塗装(厳密にはラッピング)の仕方は同じ「E235」系でも山手線仕様とは異なる。山手線仕様は、ボディ中央のラインがホームドアで隠れてしまうため、車両のドア部分が縦方向に山手線カラーのウグイス色に染められている。横須賀線・総武線快速仕様は現行の「E217」系を踏襲しており、車両上端にもツートンカラーのラインが入るため、ドア部分を縦方向には塗装しない模様。
JR東日本の横須賀線と総武線快速は、東京駅を挟んで相互直通運転しており、神奈川(三浦半島)~東京~千葉(成田空港・房総半島方面)を結ぶ首都圏の大動脈のひとつだ。
同路線で現在活躍している「E217」系は国鉄時代後期の近郊型車両として名を馳せた「113」系の後を引き継ぎ、1994年12月にデビュー。ステンレス製のボディ、VVVFインバータ制御方式回生ブレーキなど、当時としては先進車両だったが、登場して早くも四半世紀となっている。そこで9月4日にJR東日本から、2020年に新型車両を登場させることが発表された。
今回投入されるのは「E235」系。製造はJR東日本系列の総合車両製作所(J-TREC)だ。「E235」系は現在、山手線のみに導入されていることから通勤型のイメージが強いが、近年のJR東日本の車両は通勤型も近郊型も、仕様変更を加えた同じ名称の車両を走らせることが多い。今回も、近郊型としての機能・装備を追加した上で横須賀線・総武線快速仕様として投入される。
1994年12月にJR東日本がデビューさせた「E217」系。横須賀線と総武線快速の現行車両。国鉄が分割民営化され、JR東日本となって初めて新造された横須賀線・総武線快速用車両として、四半世紀にわたって活躍している。「E217」系はかつて、これまた伝統の湘南色カラーが東海道線を走っていたが、すでに引退している。
山手線の「E235」系。横須賀線・総武線快速は、これを伝統の”横須賀色”で塗装した車両が走る。”顔”などを初め、全体的な形状や多数の機能が同一であることから「E235」系の車両名となっている。顔の塗装パターンは、山手線と同じでグラデーションを用いたものになる。
導入車両数は? いつ導入される?
11両編成を51編成分、4両編成を46編成分として、合計で745両が製造される(横須賀線・総武線快速は首都圏では11両編成に4両編成を増結した15両編成で運行し、途中で切り離して異なる目的地へ向かうことなどが多い)。2020年度より順次導入される予定で、「E217」系とすべてが置き換わるのは2023年度の予定だ(「E217」系は廃棄処分となる)。
運用区間は現行の「E217」系と同じで、以下の通り。
・横須賀線(東京~久里浜)
・総武線快速(東京~千葉)
・外房線(千葉~上総一ノ宮)
・内房線(蘇我~君津)
・総武本線(千葉~成東)
・成田線(佐倉~香取、成田~成田空港)
・鹿島線(香取~鹿島神宮)
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「E235」系横須賀線・総武線快速仕様の特徴!
JR東日本初の新機能も搭載!
非常用走行用電源装置の搭載イメージ。画像は、2017年にデビューし、JR東日本初の交流蓄電池車で「ACCUMU(アキュム)」の通称を持つ「EV-801」系の主回路用電池装置。「EV-801」系は男鹿線に1編成が導入されており、非電化区間を大容量バッテリーの電力で走行できる車両だ。
同じ「E235」系ではあるが、山手線仕様にはない機能が追加される計画だ。JR東日本の車両としては初めて、停電などの異常事態が発生して駅間に停車してしまった場合に備えた、非常走行用電源装置が搭載される。
これによってバッテリーに蓄えた電力でモーターを駆動することで、最寄り駅または乗客が降車避難しやすい場所まで走行できるようになる。横須賀線や総武線快速などは駅間の距離が長いため、これにより長時間にわたって乗客が車内に閉じ込められてしまうリスクに備えている。
また、近郊用であることから一部の車両にはトイレが設置される。トイレは車いすに対応した大型洋式トイレだ。
グリーン車にはさまざまなサービスを用意!
「E235」系横須賀線・総武線快速仕様に導入されるグリーン車の側面からのイメージCG。通勤型の山手線には存在しないグリーン車が、横須賀線・総武線快速仕様には用意される。「E217」系から引き続き、車両中央部は2階建てとなる。
横須賀線・総武線快速は近郊型という位置付けのため、グリーン車も製造される。グリーン車には以下のサービスが用意されている。
・公衆無線LANサービス(JR-EAST FREE Wi-Fi)
・液晶ディスプレイの案内画面
・各座席のコンセント
・客室内防犯カメラ
このうち、公衆無線LANサービス、液晶ディスプレイの案内画面、各座席へのコンセントの装備は、JR東日本の普通列車用グリーン車としては初めてとなる。防犯カメラは、グリーン車だけでなく、各車両にも設置される計画だ。
「E217」系よりも輸送力が強化される!
「E235」系の車内(山手線)。現行の「E217」系も多くの車両でロングシートだが、近郊型として一部の車両にセミクロスシートがある。しかし、「E235」系ではセミクロスシートは廃止となり、すべてがロングシートとなる。これにより、乗客数を増やすことができ、混雑率の緩和につながるものと思われる。
その一方で、「E217」系では一部の車両に用意されていた、2人ずつ向かい合えるセミクロスシート(ボックスシート)は完全になくなり、グリーン車を除いた普通車両はすべてロングシートとなる。これはロングシートのみにして乗車人数が増やし、輸送力を強化するためと思われる。ちなみに「E217」系と比較して座席幅は10mm拡大しており、容量の大きな空調装置を搭載するようにしたという。
余談だが、横須賀線も総武線快速も、東京圏の鉄道としては混雑率が180%を超える11路線に入っている。国土交通省が2018年7月17日に発表した、2017年に調査が行われた通勤通学時間帯の「都市鉄道の混雑率調査結果」によると、横須賀線(武蔵小杉→西大井、7:26~8:26)は196%で第3位、総武線快速(新小岩→錦糸町、7:34~8:34)も181%で第11位。
乗車率の目安は、180%だと折り畳むなどの無理をすれば新聞を読める程度、200%になると身体が触れ合ってかなりの圧迫感があるが、週刊誌程度なら何とか読めるという具合だ。
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「E235」系の特徴にさらに迫る!
「E235」系の特徴はまだまだある!
ドア上部の21インチ液晶モニターによるデジタルサイネージと、防犯カメラ(モニター右側)。
山手線仕様と同じとなるが、サービス面、安全・安定面、環境性能面の3点に分類して、「E235」系のそのほかの特徴を紹介しよう。
【サービス面】
・空気清浄装置
・車内温度保持用半自動機能
・フリースペース(各車両)
・フルカラー行き先表示器(前面・側面)
・デジタルサイネージ(ドア上部に21インチ、荷棚上部など)
・多言語による情報提供
【安全・安定面】
・状態監視機能
・主要機器の二重系統化
・オイルフリーコンプレッサー
【環境性能面】
・次世代半導体素子SiC採用の主回路機器
・LED照明
各種装置の状況を遠隔監視する仕組みが導入され、主要機器の二重系統化と合わせて、より故障に強い車両となる。
補足しておくと、まず「状態監視機能」とは、車両搭載機器や線路、電力設備の状態監視を行うことで故障の予兆を把握し、事前に対処するというもの。「主要機器の二重系統化」も故障に強い車両とするための仕組みだ。
そして「次世代半導体素子SiC採用の主回路機器」について。SiCとは「シリコンカーバイド(炭化ケイ素)」のことで、シリコン(Si)と炭素(C)が1対1で共有結合した化合物のこと。特徴として、発熱量が少ない、熱伝導率が高い、耐熱性・耐酸化性に優れるなど、従来のシリコンよりも優れた半導体を作れるのである。
車いすでも利用しやすいフリースペースが各車両に用意されていることも「E235」系の特徴。車いすの利用者も乗りやすくなる。
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「E235」系のスペックを掲載!
「E217」系と「E235」系のスペック比較
「E235」系横須賀線・総武線快速仕様先頭車両と中間車両を真横から見たイメージCG。「E217」系と同じ4ドアなので乗降位置は変わらず、総武線快速内の駅では先行して2018年10月から東京都葛飾区の新小岩駅でホームドアが稼働するが、問題ないという。
最後は、「E235」系のスペック表だ。「E217」系と比較できるようにした。スラッシュ(/)の左が「E235」系で、右が「E217」系。
最高速度:ともに時速120km
車体:ともにステンレス製
座席:ロングシート(普通車)/セミクロスおよびロングシート(普通車)
制御方式:ともにVVVFインバータ制御方式回生ブレーキ
制御方式に用いられている素子:SiC/IGBT(※1)
ユニット構成:独立M車方式(※2)/2両ユニット方式(※3)
主電動機(誘導電動機):全閉外扇型/開放型
主電動機の冷却方式:熱交換/外気
補助電源装置:ともに静止形インバータ装置
補助電源装置系統数:二重系/一重系
コンプレッサー:オイルフリー/油潤滑式
列車情報管理装置:INTEROS(※4)/モニター装置
戸閉装置:改良型電気式(ラック式)/電気式(スクリュー式)
照明装置:LED/蛍光灯
情報提供装置:LEDデジタルサイネージ(液晶ディスプレイ)/LED
車両状態監視機能:あり/なし
地上設備状態監視機能:ともにあり
※1 IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)。電力制御用途で使用される、半導体素子の1種類。
※2 1両に1台の制御装置
※3 2両に1台の制御装置
※4 INTEROS(Ntegrated Train communication networks for Evolvable Railway Operation System:進化する鉄道システムのための列車制御統合ネットワーク)。JR東日本が開発した次世代車両制御システム。