僕の愛したポルシェたち【964型911カレラ4編】——河村康彦の「ポルシェは凄い!」#19
いつの時代もスポーツカーファンから一目置かれているブランドと言っていいポルシェ。ではポルシェのいったい何が凄いのか。ポルシェ愛好家のモータージャーナリスト河村康彦の連載コラム、今回は筆者が過去に所有した「964型911カレラ4」を振り返る。
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たちまち打ちのめされてしまった!
中立的・公益的な立場から自動車に関する試験研究に取り組み、日本の自動車産業の発展と安全・安心なモビリティ社会の実現に貢献する、と謳う「日本自動車研究所」という名の一般財団法人が設立されたのは1969年のこと。多くの人にとっては馴染みの薄い存在であろうが、現在は市町村合併によってつくば市となったかつての茨城県谷田部町に、この組織が最大45度のバンク角を持つ全長5.5kmの高速周回路=通称“ヤタベ”と呼ばれていたコースを有していた……と耳にすれば、一時は盛んに最高速競争などが行われたことから「あ、あれか」と思い当たる人も少なくないだろう。
そんなこのコースを舞台に確か1989年に開催されたのが、「すべてのコンポーネンツの85%が新開発」と銘打って登場したコードネームが964となる新型911の報道向け試乗会。
1964年デビューの初代から数えて3代目となるこのモデルは、当初は量販型911として初の4WDシャシーを持つ「カレラ4」のみのラインナップ。シリーズの本命たるRWD仕様のカレラ2がやはり911史上で初のAT「ティプトロニック」を大きな売り物にデビューしたのは翌年のことで、まだドイツ本社の日本法人であるポルシェジャパンが誕生する以前の輸入代理店主催による試乗会に供されたのは、クーペボディのこの初代カレラ4のみであった。
“85%が新開発”で空力に拘った形状のパンパーの採用などによって空気抵抗係数=Cd値も当時の歴代最良0.32が謳われたモデルとはいえ、相変わらず垂直に近いヘッドライトや角度が立ったウインドシールドを備え、ボディもコンパクトな“カローラサイズ”を踏襲したことでパッと見の雰囲気はそれ以前の911からさほどドラスティックには変わらず。
けれどもその内容は、4WD化を筆頭にサスペンションのスプリングがトーションバーからコイルへと刷新されたり、新たにパワーステアリングやABSが装備されたり、クーラーがエアコンへとアップデートされたり等々と、まさに古い革袋に新酒を詰め込んだと言える911でもあった。
で、すでにフリーランスとなり、どこかの媒体の依頼でそんな試乗会へと参上した自分は……そんなカレラ4にたちまち打ちのめされてしまった!
想像していたとおり走りは超ゴキゲン
ポルシェ911カレラ4(964型)|当時のカタログより
全高が5cmほど低いことを除けば、前述のように全長と全幅は当時のカローラとほとんど同等の5ナンバーサイズというコンパクトさ。にも関わらず、3.6リッターのフラット6空冷ユニットがもたらす加速感が素晴らしく力強いのと同時に、その音と振動がもたらす独特の鼓動の強さが「944S」とは別次元で圧倒的。加えて、前回紹介の“高速道路大得意”な944Sと比較しても、高速周回路を走行した際のスタビリティが確かに同様のテイストをキープしながらさらに一段上をいって、「リヤエンジンは安定性に欠ける」などといった一般常識化(?)していたフレーズを完全に忘れさせる、すこぶるハイレベルなものであることに驚嘆させられた。
このテストコースにはハンドリング路が存在しなかっためコーナリングのチェックには難儀したが、広い総合試験路でスラロームの真似事をしたりする限りではスピンする気配などもまるでなく、これもまた「リヤエンジン車はハンドリングがナーバス」というよからぬ先入観を覆してくれるには十分な第一印象でもあった。
こうして、944Sとはエンジン搭載位置や駆動方式がまったく異なるにも関わらず、同じ走りの香りを醸し出すポルシェというメーカーに畏敬の念を感じるのとともに、これまで944Sで体験したトラブルのことなどはたちまち忘れてしまい、どうにもこのカレラ4が欲しくなってしまったのだ!
とは言ってももちろん、その新車価格は当時の自身には天文学的にすら映るもので、おいそれと手に入るものではないことは当然。それでも、これほど“小さいのに凄い”クルマなど他にはまったく思い浮かばず、募る思いは日に日に増すばかりとなっていった。
かくして「こうなったら、もう悩んでいても仕方がない」とばかりに中古のモデルを探し出し、超長期のローンを組んで当初輸入された真っ赤なカレラ4の50台のうちの1台が手元にやってきたのはこの試乗会の翌年。
想像していたとおりその走りは超ゴキゲンだった。一方で、長くキャリーオーバーを続ける小さなボディに当初は予想すらされなかった“ハイテク装備”を(無理矢理に!)次々と詰め込んだり、(もともと優れていない⁉︎)空力性能向上のため、床下に貼られたフラットパネルを外すところからスタートするなどの整備性の悪さがもたらす点検時のコストの高さを教えられるようになるのは、幸せに浮かれていたこのタイミングからはまだまだ先のことなのであった。
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