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公開日:2026.06.02

ポルシェは911の“リヤヘビー”にどう向き合ってきたのか?——河村康彦の「ポルシェは凄い!」♯14

901型ポルシェ911 2.0(初代)|初代901型ではフロントバンパーの左右に計11kgの重りを仕込み、リヤヘビーのネガティブな挙動を抑え込んだ

いつの時代もスポーツカーファンから一目置かれているブランドと言っていいポルシェ。ではポルシェのいったい何が凄いのか。ポルシェ愛好家のモータージャーナリスト河村康彦の連載コラム、14回目は911の“リヤヘビー”という特性にフォーカス!

901型ポルシェ911 2.0(初代)|初代901型ではフロントバンパーの左右に計11kgの重りを仕込み、リヤヘビーのネガティブな挙動を抑え込んだ

文=河村康彦

写真=ポルシェ

編集=細田 靖

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メリットは高いトラクション能力

1964年に初代モデルが発売されて以来、60年以上にわたり第一級のスポーツカーというポジションを守り続けているポルシェ911。そんな時の間にはもちろん幾度とないモデルチェンジを経験してはいるものの、丸型ヘッドライトをフロントフードよりも高い位置に置いた猫背型の2ドアボディ、水平対向デザインの6気筒エンジンなど、他のモデルには見られない独創的な特徴が当初から変わることのない911ならではアイデンティティとなっている。

それらとともに、やはり当初から変わることのない大きな特徴が、エンジンをボディ後端の低い位置にマウントし、その前方にトランスミッションを置くというパワートレインのレイアウト。

「プロペラシャフトなどが不要でスペース効率に優れる」といった理由から、古くはVWビートルやルノー4CV、スバル360等と、小型車を中心に同様レイアウトを採用するモデルは多かったものの、舵を切る前輪に無理なく駆動力を伝えるメカニズム(等速ジョイント)が実用化されると、よりスペース効率に優れたフロントエンジン・フロントドライブ(FF)レイアウトが全盛に。置き換わるようにリヤエンジンのレイアウトは急速に姿を消し、現在ではポルシェ911が“孤軍奮闘”という状況なのはご存じのとおりだ。

もっとも、VWビートルと“同じ家系”ゆえにリヤエンジン方式をごく当たり前に採用したスポーツカーである911の場合、このレイアウトが持つスペース効率とは別のメリットとして脚光を浴びたのが、駆動輪である後輪の上に大きな荷重が掛かることで生まれる「高いトラクション能力」というポイント。特に加速時には荷重が後輪側へと移動することでタイヤを路面へと押し付ける力はさらに増すことになり、高出力エンジンと組み合わせた際のリヤエンジン車の有利さは決定的と言えることになる。

同時に見逃せないのが、前述の加速時とは逆に荷重が前輪側へと移動をする減速時にも大きなメリットがあるという点。

そもそもフロント側が重いクルマの場合には減速に伴ってさらに前輪へと荷重が集中するため、“つんのめる”姿勢となって後輪が発生できる制動力は大きく減少してしまうのに対し、もともとリヤヘビーなリヤエンジン車では制動時に前後の荷重バランスが適正化。十分な荷重の残った後輪も効率良く制動力を生み出すことが可能になり、安定したブレーキングができるようになるというわけだ。

デメリットは当初“重り”で解消⁉︎

964型ポルシェ911カレラ4(3代目)|3代目の964型で同車発となる4WDモデル「カレラ4」が登場。リヤヘビーの緩和にも寄与した

964型ポルシェ911カレラ4(3代目)|3代目の964型で同車発となる4WDモデル「カレラ4」が登場。リヤヘビーの緩和にも寄与した

このように、良いことづくめのようにも思えるリヤエンジンレイアウトだが、一方で相対的に前輪の荷重が小さいために直進性が劣りがちになり、限界コーナリング時には後輪側の遠心力が過大となってオーバーステアからスピンモードへと陥りがち……等と挙動のナーバスさが指摘されてきたのも事実。

そこで、そうしたリヤエンジン車にまつわるデメリットを解消するべく、涙ぐましい手当を続けてきたというのもまた歴代のポルシェ911というモデルが歩んできた史実でもある。

初代モデルのデビュー後、早々に実行されたのが「リヤヘビーを少しでも和らげる」という目的から、何とボディの前端に“重り”を仕込むという方法。ポルシェのやり方としては何とも荒業で、当時の技術陣も忸怩たる思いで行ったであろうことは想像に難くないが、11kgもある鉄の重りをフロントバンパー内のそれぞれ左右へと取り付けることで、前述のナーバスな挙動を何とか抑えこもうとしたことが記録に残されている。

いわば付け焼刃で、本末転倒にも思えるそうした方法に対して、より抜本的な手術が行われたのが1969年モデル。この型ではホイールベースを60mmほど延長するという大改造が施されたと同時に、リヤヘビーの度合いを改善するべくエンジンブロックの素材を変更して軽量化するなどの策を実施。開発陣にとっては大いに目障りな存在であったであろうフロントバンパー内の重りをようやく取り去る一方で、従来型を2分割した形状のバッテリーをそこへと置くなど、現在へと続く技術者集団であることを想起させる解決法へと変更したことは今でも興味深い。

991型ポルシェ911ターボS(7代目)|Porsche 911 Turbo S(type 991)

991型ポルシェ911ターボS(7代目)|Porsche 911 Turbo S(type 991)

その後、「80%のパーツを刷新」と謳いつつ1989年にデビューした964型(3代目)には4WDモデル「カレラ4」が設定され、さらに2011年発表の991型(7代目)では、軽量こそを善とするモデルでありながらも「重量ハンデを補って余りある効用を得ることができる」としてリヤアクスルステアリング(4WS)が設定されるという、その後の911シリーズにも受け継がれることになるエポックメイキングな出来事も発生。突き詰めれば、これらもリヤヘビーゆえのデメリットを解消させる特効薬としての役割を担っていると見ることができる。

実際、最近のモデルではリヤヘビーであることのメリットは確実に残しながらも、デメリットを感じさせられることはまずあり得ないというのがポルシェ911シリーズの走りの実力。

リヤエンジンレイアウトというこのモデルの稀有な構造上の特徴は、単なる記号性に留まらず、こうして911ならではと言える走りの個性を決定づける原動力にもなっているのである。

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