ポルシェは911の空力性能をどう磨いてきたのか?——河村康彦の「ポルシェは凄い!」#17 | KURU KURA(くるくら)

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公開日:2026.09.02

ポルシェは911の空力性能をどう磨いてきたのか?——河村康彦の「ポルシェは凄い!」#17

ポルシェ911 GT3 RS(992.1型)|Porsche 911 GT3 RS (type 992.1)

いつの時代もスポーツカーファンから一目置かれているブランドと言っていいポルシェ。ではポルシェのいったい何が凄いのか。ポルシェ愛好家のモータージャーナリスト河村康彦の連載コラム、17回目は911のエアロダイナミクスにフォーカス!

ポルシェ911 GT3 RS(992.1型)|Porsche 911 GT3 RS (type 992.1)

文=河村康彦

写真=ポルシェ

編集=細田 靖

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自動車のエアロダイナミクスは見た目から始まった⁉︎

高くそびえたフロントフェンダーの先端に垂直近くに立った大きなヘッドライトをレイアウトし、独特の猫背型シルエットのボディを備えた往年のポルシェ911。一見して流線形にはほど遠いそんなルックスの持ち主であるがゆえに、かつて口さがない人々からは「後ろ向きに走った方が速そう」などといった酷い陰口まで叩かれたというのがこのモデルでもある。

実際には今を遡ること60年以上も前の1960年代後半には、ポルシェはすでにスケールモデルを風洞に持ち込んでの開発を行っていたと言われるものの、それでも初代の発表が1963年という歴史を持つモデルだけあって、誕生当初には空力性能などはさほど重視されていなかったというのが事実であることは間違いないだろう。

もっともそうした史実が生まれるのも無理のないハナシで、なんとなれば現在では空力性能のわずかな優劣が勝敗に重大な影響をおよぼすことで知られているF1マシンでさえ、1960年代半ばまでは特段の空力対策は施されていなかった。だから“エアロダイナミクス”というテクノロジーは、911はもとより、かつてのすべての一般市販車にはほぼ無縁な事柄であったと紹介しても、あながち過言には当たらないはずなのだ。

それでも、見た目の流麗さやボディの滑らかさなどが生み出すデザインの雰囲気は、特に走行性能が注目されるスポーツモデルにとっては早い時期から販売成績にも直結するポイントではあったはず。そうした面からすると「自動車のエアロダイナミクスは、まずは見た目から始まった」と表現をしても、これもまた間違いには当たらないだろう。

ところが、実際に空力的に洗練させるために自動車の開発に風洞という設備が用いられるようになってくると、もはやエアロダイナミクスは「見た目の印象」などとは言っていられなくなる。

最初の課題として注目されるようになったのは、正面から風を受けた際の抵抗力。何しろそれは最高速度の向上や燃費の低減、風切り音の低減等々と誰もが分かりやすい効果に直結し、風洞によって計測されたデータが抗力係数=Cd値として数値化できるようになったこともあって、本来ならば異なる風洞間でのデータの比較には補正という作業が不可欠であるにも関わらず、一時は世界の各メーカーが自社データによるCd値を競い合うようにさえなった。

さらに厄介だったのは、エアロダイナミクス性能は単純に空気抵抗力の大小だけでは決まらないということ。すなわちCd値の低さだけを競い合っても必ずしも良い結果には結びつかず、時には車体を持ち上げようとする力=揚力が高速走行時に転倒事故を引き起こす要因として取り上げられたことも。またレーシングマシンの世界では負の揚力=ダウンフォースが車体を路面に押し付け、コーナリングスピードが飛躍的に高まることでラップタイムの短縮が可能になることが明らかになり、前後のスポイラーやサイドスカート、サイドポンツーン等々とあの手この手の採用によって最大限のダウンフォースを得ようとするようになったことはご存じのとおりである。

RSモデルでは巨大リヤウイングを筆頭に最大限のダウンフォースを獲得

ポルシェ911 GT3ツーリングパッケージ(992.2型)|Porsche 911 GT3 with Touring Package (type 992.2)

ポルシェ911 GT3ツーリングパッケージ(992.2型)|Porsche 911 GT3 with Touring Package (type 992.2)

かくして、ポルシェ911の場合にも「公道走行が可能なレーシングバージョン」とも紹介できる“RS”の記号が与えられたモデルでは、巨大なリヤウイングを筆頭にホイールアーチ・ベントやワイドなサイドスカート、低く前方にせり出したチンスポイラーなど様々な空力付加物を各部に採用し、最大限のダウンフォース獲得を目論むことに。同時に、見た目にも派手なそうしたアイテムは、スピードの象徴として一部の愛好者からは熱狂的な支持を得ることになっている。

その一方で、高い走りのパフォーマンスには興味津々でありながらも、逆にそうした「これみよがし」のアイテムを良しとしないユーザー層が一定数存在することも否定のしようがない事実。

それを端的に証明することになったのが、2016年に限定わずか991台という特別なモデルとしてローンチされた「911R」を経て、基本性能はGT3と同等でありながらその外観上で最大のシンボルとも言えるリヤウイングを取り去ってしまった「GT3ツーリングパッケージ」というモデル。

そもそもカレラ系の911やボクスター/ケイマンなど、重量やコストがかさむのを承知のうえで可動式のスポイラーを採用するのは、「通常時にはベースボディのシルエットを生かしながら、高速域では空力性能にも配慮する」というのがその理由。ポルシェは空力性能の面でもそうした様々なユーザーの声を拾い上げながら、その両者を満足させる策を打ち出しているということになる。

こうして、そもそもエアロダイナミクスなど問題とされない時代に誕生し、その基本スタイリングが今へと続く重要なアイコンとして定着していながら、それを崩すことなくいち早いタイミングで床下の整流を行ったり、デザイナーの思いと最新の空力性能に折り合いをつける可動式のスポイラーを採用するなどして、現在でも空力のトップランナーの座を確保しているというのは並大抵の努力ではなかったはず。だからこそ、“旧い革袋”を今に生き永らえさせている911というモデルには、改めて畏敬の念を覚えるのである。

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