富山~長野を最短直結!? 飛騨山脈を長大トンネルで貫く「北アルプス横断道路」構想の全貌とは。20km超の大事業はどう動くのか【いま気になる道路計画】
飛騨山脈(北アルプス)によって隔てられた富山県と長野県を道路で直結する「北アルプス横断道路」の整備構想が、水面下で進められている。その構想の概要やメリット、現在の状況を見ていこう。
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直結道路のない富山~長野を結ぶ「北アルプス横断道路」
北アルプス横断道路の概要。実際は3つの構想ルートが示されている。
日本有数の急峻な山岳地帯「飛騨山脈(北アルプス)」は、富山・長野・新潟・岐阜の4県にまたがっている。立山連峰をはじめ、標高3000m級の山々が連なっており、その広大さと険しさから、富山県と長野県を直接結ぶ一般的な道路は存在せず、両県は道路交通網で分断された状態にある。
唯一の例外が、バス、ケーブルカー、ロープウェイなどを乗り継いで立山と大町を結ぶ観光ルート「立山黒部アルペンルート」だ。ただし、一般の自動車が通行できるルートではない。
そのため、富山県と長野県をクルマで行き来するには、糸魚川や松本を経由して大きく迂回する必要がある。しかも、両ルートとも高規格道路の整備はまだ発展途上だ。
こうした状況を変えるべく、壮大な「北アルプス横断道路」の構想が水面下で進められている。
飛騨山脈を貫く「3つの構想ルート」とは
富山県の道路計画で明記された「北アルプス横断道路」(右下ピンク色)
「北アルプス横断道路」は、飛騨山脈を貫通して富山・長野両県を直結する構想だ。実現すれば、富山市から長野市や上信越道方面への移動距離が80km圏内に短縮されると試算されており、東日本と北陸地方の距離をさらに縮める「ミッシングリンク」となる可能性がある。北陸新幹線とともに東西の移動を支える、新たな移動ルートとして期待されている。
この構想自体は古くから存在するものの、具体的にどの地点を結ぶのかは決まっておらず、現状ではまだ構想段階にとどまっている。
ただし、2021年に富山県が策定した「富山県新広域道路交通計画」を見ると、おおよその想定ルートとみられる連続した丸印が記されている。
そのルートは、立山黒部アルペンルートの富山県側の最終地点にあたる室堂付近から長野県側へ伸びている。その先には黒部ダムがあり、さらにアルペンルートでは構想の対象外となる区間を経て、長野県側の最終地点・扇沢へ至る想定だ。
富山県は、このルートについて「10kmの長大トンネルが必要となる」としている。ただし、山麓から山麓までを一本のトンネルで貫く場合、必要な延長は10kmでは収まらない。ここで示されている10kmとは、最終的な到達可能地点同士の距離を指し、アルペンルートでいう「道路断絶区間」、つまり室堂~扇沢の距離に相当すると考えられる。
逆にいえば、室堂~扇沢の区間すべてを一本のトンネルで結ぶのではなく、橋梁や土工、必要最小限のトンネルなどを組み合わせて結ぶことを想定している可能性がある。
こうした点を踏まえ、富山県などの資料から読み取れる「3つのルート候補」を見てみよう。
●立山ルート
室堂~扇沢を結ぶルートが想定され、前後の区間では立山黒部アルペンルートの道路を活用・改良したり、必要に応じてバイパスを整備したりすることになりそうだ。富山市街から南東へ約20kmの地点に位置する。
●上市ルート
魚津付近に河口を持つ「早月川」の源流部まで進むルートだ。出発地点の最寄りには北陸道「上市スマートIC」があり、県道333号剱岳公園線が山地の奥深くまで延びている。剱岳への登山客にとっても、山岳部へのアクセス拠点となるルートだ。
一方、最上流部から扇沢方面へ抜ける場合でも約17kmのトンネルが必要となり、さらに東へ進み、白馬村方面へ抜ける場合には、トンネル延長が累計20kmに達する可能性がある点が課題となる。
●新川・大北ルート
黒部市の約10km北東に位置する朝日町を起点とし、南東へ進んで白馬岳付近を抜け、長野県の白馬村へ至るルートだ。トンネル延長は26kmに達するとの試算もあり、3ルートのなかでも大規模なトンネル整備が必要となる可能性がある。また、富山市や富山空港方面から距離があることも課題といえる。
土木史に残る大事業、実現に向けた進捗は?
長野県の道路計画で示された移動軸構想。北アルプスを貫く方向は想定されていない。
気になる現在の状況だが、まず最初にクリアすべき課題は、富山県だけでなく長野県もこの構想に積極的になることだろう。それを象徴するのが、長野県側の「新広域道路交通計画」には、北アルプス横断道路の記載が一切ないことだ。
長野県は、本州中央部における広域交流圏の構築を目指し、広い県土をつなぐ「東西軸・南北軸」の整備に力点を置いている。東西軸としては北陸新幹線、リニア中央新幹線、中央自動車道や上信越自動車道などが、南北軸としては中部縦貫自動車道、中部横断自動車道、三遠南信自動車道や松本糸魚川連絡道路などが位置付けられている。
また、沿線の関係団体は、富山高山連絡道路、中部縦貫自動車道、松本糸魚川連絡道路、北陸自動車道などをつなぎ、4県を結ぶ「北アルプスゴールデンルート」を標榜して要望活動を続けている。山岳地帯を新たな道路で横断する北アルプス横断道路と比べれば、既存道路の整備を軸とした、より現実的な構想といえる。
一方、富山県側では構想実現に向けた動きが続いている。富山県議会の2024年6月定例会において新田知事は「北アルプス横断道路構想推進会議」との連携協力を継続する方針を示した。富山県と長野県、両県の市町村間における交流が深まるよう、国土交通省や長野県、関係市町村とも意見交換を重ねながら、「夢のある構想の実現に向けて取り組んでいきたい」と答弁している。
さらに直近では、2026年7月10日に「北アルプス横断道路構想推進会議」の2026年度総会が開催された。具体的な事業化には至っていないものの、構想実現に向けた活動は継続している。
では、国はどう考えているのか。
2024年2月の衆議院予算委員会では、国土交通省が北アルプス横断道路について、「世界水準の山岳観光地を周遊するルートとして期待されるものと認識しております」と答弁している。一方で、実現には「トンネルの総延長が約25キロと見込まれるような大規模なプロジェクト」であることから、両県の連携に加えて「国民のコンセンサスが得られることが重要」との認識も示している。
では、この「国民のコンセンサス」とは、具体的に何を意味するのだろうか。
まず土台となるのは、地元自治体が構想を推進する姿勢を示しているかどうかだろう。自治体側の機運が高まらなければ、国を巻き込んだ議論へと発展させることは難しい。
そして、もう一つ重要なのが国会議員の動きだ。国会議員は国民の信託を受けて選ばれ、国家予算の決定にも関わる。こうしたことから、地域や国全体で大きな支持が形成されるかどうかは、巨大プロジェクトの実現を左右する重要な要素となるといえる。
つまり、特定のプロジェクトに対する賛否だけではない。北アルプス横断道路のような「壮大な構想」についても、巨額の費用を投じて交通インフラを整備することに社会全体が意義を見いだせるかどうか。そうした「巨大土木事業への理解」が、その時代にどれだけ広がっているかが本質なのだろう。
とはいえ、近年は「青崩峠トンネル」をはじめ、「新湾岸道路」「下関北九州道路」など、従来の交通ネットワークを大きく変える大型プロジェクトが相次いで進展している。リニア中央新幹線でも、そのカギを握る難所「南アルプストンネル」の工事が進められている。
こうした時代の波に、北アルプス横断道路も乗っていくことができるのか。
その最初の一歩となるのは、富山・長野両県や国による調査・検討の本格化だ。まだ具体的な事業化には至っていない構想だが、その動向を引き続き注視していきたい。
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