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最終更新日:2019.05.30 公開日:2019.05.30

大滝詠一のカルト的アルバム「Niagara Moon」のユニークな中身とは

 後に日本のポップス史に残る名盤「A LONG VACATION」を生み出すことになる大滝詠一が、個人レーベルから初めて自身の作品としてリリースしたのが「Niagara Moon」。その内容は実にユニークで、彼の試行錯誤が詰まった異色な1枚となっている。「A LONG VACATION」で大滝を知った世代が耳にしたら、きっと驚くことだろう。

44年前の今日、発売された「Niagara Moon」のジャケット。レトロなアメリカンポップアートを彷彿させるこのデザインの元ネタは意外なところに!

 大滝詠一(1948~2013)は1969年に細野晴臣、松本隆、鈴木茂とともに日本語ロックを構築したと言われる伝説的バンド「はっぴいえんど」に参加。1972年のバンド解散後はソロとなり、CMソングの制作、楽曲提供、プロデュース、エンジニアとして活動する。自身で「ナイアガラ・レーベル」を創立しさまざまな楽曲制作を試みていた。

大滝詠一の不思議な世界

 「Niagara Moon」は、アルバム全体がノベルティ・ソングと呼ばれるパロディ要素でできた曲で構成されている。タイトルをみるだけでも「三文ソング」「論寒牛男」「シャックリ・ママさん」といった具合。スタイリッシュなシティーポップアルバム「A LONG VACATION」のイメージで、このアルバムを耳するとあまりのギャップに戸惑うことだろう。

 かく言う筆者も後追い世代。「A LONG VACATION」の洗練されたサウンドに魅了された後に「Niagara Moon」を耳にしたのだが、世界観のあまりの落差にあっけにとられてしまった口だ。だが、逆に「これは何なんだろう」という興味が湧いてしまい、結果的に繰り返し聴くことに。まんまと大滝の術中にはまってしまった。

「Niagara Moon」の魅力とは?

「Niagara Moon」収録曲は、細野晴臣、松任谷正隆ら当時、新進気鋭のミュージシャンを起用してハイレベルなテクニックに彩られた楽曲が収録されている。当時の大滝はデビュー前の山下達郎らとともにニューオリンズサウンドを研究しており、アルバム全体からもそうした雰囲気が漂っている。この不思議なアルバムの世界に首をかしげながらも、ついついリピートしてしまう魔力はまさにここにある。歌のコミカルさを洗練された演奏がしっかりと底支えしているのだ。大滝自身もリマスター版をリリースした際のライナーノーツで「このアルバムが成功した理由は、ひとえにバック・ミュージシャンの力によるところが大きい」と述べている。

 また、アルバム後半には、大滝が当時手がけたサイダーのCM曲も収録されており、後のスタイリッシュなサウンドの原型として聴いてみるのも一興だ。

カルト的な人気で、数々のリイシュー盤が存在

 聴けば聴くほど味わい深いこのアルバム。すでに発売から40年以上が経過しているが、未発表音源などを追加収録したリイシュー盤などが度々リリースされ、今でもディープなファンを楽しませてくれている。

 これから「Niagara Moon」を聴こうと思っている方にオススメしたいのは税抜1500円のCD選書版。リーズナブルに手にすることができ、レコードの原盤同等の内容にボーナストラックがプラスされ、なじみやすい内容になっている。30周年記念盤、40周年記念盤といったバージョンもあるが、これらはオリジナルと曲順が違ったり、曲によっては別演奏バージョンが収録されていたりとかなり通好みな構成なので「Niagara Moon」の世界にどっぷりはまってから耳にすることをオススメしたい。

ジャケットの表裏にも注目!

 最後に「Niagara Moon」のジャケットのエピソードについて触れてみたい。「Niagara Moon」のアルバムジャケットは、レトロなアメリカンポップアートを彷彿させるスタイリッシュなデザイン。当時の輸入盤レコードのような雰囲気を醸し出しているが、実はこれ「Niagara」という名称の洗剤のパッケージがモチーフになっており、ほぼ同デザインの洗剤パッケージが実際に存在する。

 また、裏ジャケットは大滝の写真が使われているが、盤が代わるたびに撮り直されておりファンを喜ばせてきた(1986年の初CD化を除く)。なお、裏ジャケットで大滝が着用しているシャツは、この撮影のためだけに当時のまま保存していたとのこと。テレビなどにはほとんど出演することのなかった貴重な彼の表情を見ることができるので、ぜひこちらも盤ごとに手に取って楽しんでみてほしい。

「Niagara Moon」をはじめとするノベルティ・タイプのアルバムから、超名盤「A LONG VACATION」のような洗練されたサウンドまで、幅広い世界観が堪能できるのも大滝詠一作品の魅力。「Niagara Moon」は一度耳にしただけだと、正直取っつきにくい1枚かもしれないが、はまると抜けられない魔力のある1枚だ。これを読んで興味が湧いた方はぜひチェックしてみてほしい。

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