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公開日:2026.06.08

『イタリア発 大矢アキオ ロレンツォの今日もクルマでアンディアーモ!』第66回【Movie】──なぜ「不鮮明」がトレンドに? 若者たちがレトロモビルに熱視線を注ぐ理由

2026年1月28日から2月1日にパリで開催された「レトロモビル」で。左から来場者のマティスさん、リュカさん、そして彼らの友達。初代「ルノー・クリオ(日本名ルーテシア)」とともに。

デジタルやAIが全盛のいま、不完全なものや不明瞭なものに安らぎを感じる若者たちが確実に増えている。大矢アキオ ロレンツォの連載コラム第66回は、激変したフランス・パリの「レトロモビル」と、その人気を支える若者たちの価値観の変化を追う。

2026年1月28日から2月1日にパリで開催された「レトロモビル」で。左から来場者のマティスさん、リュカさん、そして彼らの友達。初代「ルノー・クリオ(日本名ルーテシア)」とともに。

文・写真・動画=大矢アキオ ロレンツォ(Akio Lorenzo OYA)

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ひと粒で二度おいしいショー

フランス・パリの「レトロモビル」が激変していた、というのが今回の話題である。

レトロモビルの始まりは、1976年に旧バスティーユ駅跡で有志たちが開いた小さな自動車部品交換会だった。年を追うごとに知名度を上げ、欧州の代表的ヒストリックカー・ショーのひとつに成長した。

2026年は記念すべき第50回。会場は例年通りポルト・ド・ヴェルサイユ見本市会場だが、今回は従来の平屋棟から、新たな大型3階建てパビリオンへと移された。

来場者数は前年比25%増の18万1500人を記録し、過去最高となった。週末に訪れると、簡単に前に進めない通路ができていた。メーカー出展の減少とマンネリ化で人々の関心が薄くなり、来場者数が7万人台まで落ち込んだ2011年頃と比べると、めざましい回復ぶりだ。

その人気を支えていたのは、明らかに従来とは異なる来場者、すなわち若者であった。

マツダ「コスモスポーツ」とアニスさん(左)。

動画の中でマツダ・ブースを訪れたアニス君が話すように「近年のモーターショーは電気自動車ばかりで面白くない。対してレトロモビルは古いクルマをたくさん楽しめる」という意見が、複数の若い人々から聞かれた。

近年、自動車メーカーは歴史車両だけでなく、最新モデルやフランス初公開のコンセプトカーもレトロモビルに持ち込む。つまり来場者にとっては“ひと粒で二度おいしい”ショーなのである。

ルノーは歴代クリオとそのスポーツ仕様を展示するとともに、2025年9月に発表した6代目をアピールした。

ルノーは歴代クリオとそのスポーツ仕様を展示するとともに、2025年9月に発表した6代目をアピールした。

プジョーは「205」の回顧を展開した。これは当時ベルギーのチューニング&カスタマイズ業者によるワイドボディ・パネルをまとった「ディマー」というモデル。

プジョーは「205」の回顧を展開した。これは当時ベルギーのチューニング&カスタマイズ業者によるワイドボディ・パネルをまとった「ディマー」というモデル。

傑作205に対する好印象を最新型の「e-208GTI」にも投げかけてほしい、というのがプジョーの意図だったことがわかる。

傑作205に対する好印象を最新型の「e-208GTI」にも投げかけてほしい、というのがプジョーの意図だったことがわかる。

ポルシェはモータースポーツ活動の75周年を祝った。これは2014年以降、耐久レースで輝かしい戦績を残してきた「919ハイブリッド」。

ポルシェはモータースポーツ活動の75周年を祝った。これは2014年以降、耐久レースで輝かしい戦績を残してきた「919ハイブリッド」。

日本ブランドではホンダが久々に復帰。フランスにある愛好家クラブの協力を得て、初代(写真)をはじめ3台の「プレリュード」を展示した。

日本ブランドではホンダが久々に復帰。フランスにある愛好家クラブの協力を得て、初代(写真)をはじめ3台の「プレリュード」を展示した。

新型プレリュードも、クーペモデルに飢えたフランスの若者たちから熱い視線を浴びていた。

新型プレリュードも、クーペモデルに飢えたフランスの若者たちから熱い視線を浴びていた。

2025年に続いて参加したマツダ。今回はル・マン24時間レース優勝35年を記念して「787B」を中央に据えた。

2025年に続いて参加したマツダ。今回はル・マン24時間レース優勝35年を記念して「787B」を中央に据えた。

クルマにそこまで詳しくなさそうな若者の姿も数多く見られた。明らかにデート目的のカップルや女子同士も少なくない。彼らの多くは、視覚的にスタイリッシュ、もしくは可愛いクルマの前で自撮りを楽しんでいる。

ある女性は「今のクルマは白かグレーばかり。昔のクルマはもっとカラフルだし、デザインも多彩で見ていて楽しい」と、来場の理由を語ってくれた。

レトロモビル50周年記念展示から。世界恐慌で販売が低迷したブガッティの超高級車「ロワイアル」のエンジンを搭載した気動車。1933年に1号車両が納入された。

レトロモビル50周年記念展示から。世界恐慌で販売が低迷したブガッティの超高級車「ロワイアル」のエンジンを搭載した気動車。1933年に1号車両が納入された。

伝説の映画俳優スティーヴ・マックイーンにまつわる乗り物特集も組まれた。手前は1968年の映画『ブリット』の名脇役である「ダッジ・シャージャーRT440」。

伝説の映画俳優スティーヴ・マックイーンにまつわる乗り物特集も組まれた。手前は1968年の映画『ブリット』の名脇役である「ダッジ・シャージャーRT440」。

公式オークションは従来のアールキュリアル社に代わってグッディング-クリスティーズが今回から担当することになった。2021年「フェラーリ・モンツァSP1」は248万ユーロ(約4億5400万円)で落札された。

公式オークションは従来のアールキュリアル社に代わってグッディング-クリスティーズが今回から担当することになった。2021年「フェラーリ・モンツァSP1」は248万ユーロ(約4億5400万円)で落札された。

英国の高級・希少ヒストリックカー専門ガレージ「フィスケンス」のブースで。2006年「アストン・マーティンDBR9/3」が展示された一角。

英国の高級・希少ヒストリックカー専門ガレージ「フィスケンス」のブースで。2006年「アストン・マーティンDBR9/3」が展示された一角。

版ズレが心地よい時代

クルマの時代に合わせた懐かしい小物も彼らの関心を誘う。最もそれを象徴していたのは、レースイベント・オーガナイザー「ペーター・オート」のブースだった。懐かしいソニーの「プロフィール・スター」などブラウン管式ディスプレイやテレビを重ねたうえで、荒い走査線の古いレース記録を流していた。

テレビのひとつは、付近に据え付けられたビデオカメラの映像を映し出している。そのため、自分の姿が映る不鮮明な画面をスマートフォンで撮影して楽しむ若者も少なくなかった。

そうした「不鮮明」がトレンドであることは会場外でも確信できた。パリ市庁舎前にあるデパートに貼られたスイスの時計ブランドの広告だ。写真は、どれも意図的に4色カラーの「版ズレ」を起こしたものが使われていた。かつての雑誌だったら編集者が印刷会社に怒鳴り込んでいた、いやそれ以前に刷り直しとなるレベルの版ずれである。

1996年に世界スポーツカー選手権のため造られた「リレー&スコット・マークⅢ」。脇にはブラウン管式テレビやディスプレイが積み上げられていた。

1996年に世界スポーツカー選手権のため造られた「リレー&スコット・マークⅢ」。脇にはブラウン管式テレビやディスプレイが積み上げられていた。

パリ市内におけるデパートの時計売り場で。今日、写真の「版ズレ」は、ネガティヴなイメージとは限らない。

パリ市内におけるデパートの時計売り場で。今日、写真の「版ズレ」は、ネガティヴなイメージとは限らない。

新聞雑誌スタンドで。「1976年: 50年前の幸せなフランス」というムックも並んでいた。

新聞雑誌スタンドで。「1976年: 50年前の幸せなフランス」というムックも並んでいた。

動画内で2代にわたる自動車への情熱を語ってくれたブノワ(左)&ディディエ(右)父子。

動画内で2代にわたる自動車への情熱を語ってくれたブノワ(左)&ディディエ(右)父子。

デジタルやAIが全盛となったいま、不完全なもの・不明瞭なものに若者が安らぎを感じる時代が確実に押し寄せている。たとえばZ世代のSNS疲れは、米国や欧州のメディアで数々伝えられるようになっている。

英国で1293人の若者を対象にした2025年の調査では、約半数にあたる46%の回答者が「インターネットがまったくない世界に身を置きたい」と答えている。AI疲れについても、さまざまな報告が寄せられている。

2019年「ブガッティ・チェントディエチ」。「シロン」をベースに1980-90年代の「EB110」のイメージを投影した車で、僅か10台が生産された。

2019年「ブガッティ・チェントディエチ」。「シロン」をベースに1980-90年代の「EB110」のイメージを投影した車で、僅か10台が生産された。

毎年出展している雑誌「ヤングタイマー」のブース。今回はフランスで古典車登録が可能なデビュー後30年のモデルを特集した。これは「ルノー・メガーヌ・クーペ16V」。後方でポーズを決めているのは、取材当日に担当していたセバスティアンさん。彼の解説は動画参照。

毎年出展している雑誌「ヤングタイマー」のブース。今回はフランスで古典車登録が可能なデビュー後30年のモデルを特集した。これは「ルノー・メガーヌ・クーペ16V」。後方でポーズを決めているのは、取材当日に担当していたセバスティアンさん。彼の解説は動画参照。

戦前のブガッティ風2トーンカラーと高級内装が施された初代「ルノー・トゥインゴ」。1996年に名門ボディ修復業者「ルコック」が手がけたものだが、今や「3万ユーロ以下の中古車コーナー」で売りに出されていた。

戦前のブガッティ風2トーンカラーと高級内装が施された初代「ルノー・トゥインゴ」。1996年に名門ボディ修復業者「ルコック」が手がけたものだが、今や「3万ユーロ以下の中古車コーナー」で売りに出されていた。

パリの街では、LPレコードやフィルム式カメラを扱う店が数々みられるようになった。ポンピドー・センターの脇で週末繰り広げられる蚤の市にも、そうしたものを扱う人々が数多く並ぶ。

新聞雑誌スタンドには、雑誌「パリ・マッチ」の別冊が目立つ位置に並んでいた。タイトルは「1976年: 50年前の幸せなフランス」だ。たとえ後ろ向きという批判はあろうとも、2026年の現実なのである。

電気掃除機にあらず。旧西ドイツで造られた軽便車「ブリュッチュ」は1957年製で、2万2000ユーロ(約403万円)。

電気掃除機にあらず。旧西ドイツで造られた軽便車「ブリュッチュ」は1957年製で、2万2000ユーロ(約403万円)。

カスタムメイドのボディカバーを得意とする、その名も「カーカバー」社のスタンド。これはプジョー205のオーナー垂涎の1枚であろう。

カスタムメイドのボディカバーを得意とする、その名も「カーカバー」社のスタンド。これはプジョー205のオーナー垂涎の1枚であろう。

アナログではないが、ちょっと前の低画質コンパクト・デジタルカメラでクルマを撮影する若者もレトロモビル会場で見かけた。疲れる最先端技術とは別次元の、古いクルマが醸し出す安らぎ。それこそが、ヨーロッパ屈指の大都市であるパリの若者に、2026年のレトロモビルがしっかりと“刺さった”理由に違いない。日本のヒストリックカー・イベントでも同様のことが起きたら面白いのだが。

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