なぜドイツのタクシーはトヨタ車だらけになったのか? ではニューヨークは? ロンドンは?【クルマの経済学】
ドイツのタクシーといえば、メルセデス・ベンツというイメージが強い。ところがフランクフルトやベルリンでは、トヨタ車をベースとしたタクシーが目立つという。なぜそのような傾向にあるのだろう? 自動車ジャーナリストの山崎明氏が、現地で目にした光景からその理由を考察する。
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目次
ドイツのタクシー=メルセデス・ベンツではなくなった?
2024年にパリを訪れたときに、とても驚いたことがある。パリのタクシーといえばちょっと前まではプジョーやシトロエンといったフランス車がほとんどだったのだが、なんと大半がトヨタ車になっていたのだ。
トヨタ車が選ばれている理由、それはもちろんハイブリッドだ。さらにパリにはMIRAIのタクシーも多いが(世界で最も多くのMIRAIを目撃できる街はパリだと思う)、これは2024年のパリオリンピックの際、500台のMIRAIが公用車として提供され、その後はそのままタクシーに転用されているからだ。
2026年8月、私はベルリンを夫婦旅行の目的地とした。ベルリンには現在直行便はないので、フランクフルトから国内線に乗り換えてベルリンへ向かうというルートである。ドイツのタクシーがどうなっているか非常に興味があったので、まずはフランクフルト空港のタクシー乗り場を覗いてみた。
ドイツのタクシーといえば20世紀の間はメルセデス・ベンツのEクラスがほとんどで、他の車種を見る機会は稀だった。しかしメルセデス・ベンツは1995年発売のW210世代で品質・耐久性が大きく低下し、その次のW211世代ではブレーキや電装品でトラブルが相次ぎ、「ドイツのタクシー=メルセデス・ベンツ」という公式が徐々に崩れていった。
2000年代、メルセデス・ベンツのかわりに多く選ばれたのはフォルクスワーゲンで、車種としてはトゥーランやパサートが多かった。
2026年、ドイツのタクシー事情を現地で確認
それでは今回、フランクフルト空港のタクシー乗り場で見かけた車種はどうだったか。
ターミナル3のタクシー乗り場には9台並んでいたが、メルセデス・ベンツが4台(Eクラスセダンが2台、Eクラスステーションが2台)、フォルクスワーゲンが4台(トゥーランが2台、キャディが2台)、トヨタが1台(bZ4X)という構成だった。少なくなったとはいえメルセデス・ベンツは依然として多く、そして1台を除いてすべてドイツ車である。さすがはドイツ最大の玄関口、フランクフルト空港はまさにドイツ車の天下だった。
フランクフルト空港のタクシー乗り場にて。メルセデス・ベンツとフォルクスワーゲンの車両をたくさん目にすることができた。
続いてベルリンである。ベルリン空港では市内に電車で向かってしまったため、タクシー乗り場はチェックできなかったが、街中のタクシースタンドではフランクフルト空港とは全く異なる車種ラインアップを目にすることとなった。
なんと、待機していた4台すべてがトヨタ車だったのである! 内訳はプリウス+(日本ではプリウスα)が1台、カローラツーリングが2台、bZ4Xが1台である。
ベルリン市内では、トヨタ車ベースのタクシーが多いことに驚かされた。
ベルリンでは他の場所でもプリウス+とカローラツーリングが多いように見受けられた。プリウス+は室内が広く、荷物も積めるのでタクシーに向いているが、2021年に販売終了となった。後継モデルがないため、その後は積載力があるカローラツーリングが選ばれているということだろう。
パリではRAV4のタクシーが最も多く走っていた印象だが、やはりアウトバーンを走ることもあるドイツでは高速燃費に優れ、空気抵抗が少なさそうなモデルが選ばれるということだろう。ベルリンではメルセデス・ベンツのタクシーはもはや少数派といっても良い印象だ。
電気自動車(BEV)のタクシーはテスラも見かけたが、bZ4Xの方が多い印象だった。またドアに“Uber”と明示された車両も目についたが、こちらもほとんどがカローラツーリングだった。
欧州仕様のbZ4X 画像=トヨタ
ドイツタクシー事情、メルセデスが減り、トヨタが増えた理由とは
そもそもドイツのタクシーはなぜメルセデス・ベンツが主流だったのか。
タクシーとして使う以上、耐久性があること、信頼性があること、燃費が良いことが条件となるはずだ。1980年代までのメルセデス・ベンツ、特にそのディーゼルモデルはまさにこの条件に当てはまっていたのだ。通常のメンテナンスだけで、100万kmを優に超えて走ることができたらしい(メルセデス・ベンツ博物館に展示されているタクシーは460万km走行したとのこと)。購入時は高価であっても、結果的にそれが一番安上がりな選択だったのだ。
しかし前述の通り、1990年代後半以降のメルセデス・ベンツ車は、この条件に当てはまらなくなり、最新モデルに至っては電装系が複雑化したことで、細かなトラブルがさらに増えているようで、タクシー用途にふさわしいモデルではなくなってきていると考えられる。
そのかわり、耐久性/信頼性/低燃費という条件を満たす存在として注目されるようになったのがトヨタのハイブリッド車ということなのだろう。
世界のタクシー事情に目を向けてわかった、今後の主役
こうなると、他の主要都市の状況にも興味が湧いてくる。
ニューヨークはどうだろう。ニューヨークのタクシーといえばイエローキャブ。私が最後にニューヨークを訪れたのは2008年だが、フォードのクラウン・ヴィクトリアがメイン車種だった。しかしフォードはクラウン・ヴィクトリアの製造を2011年に終了、その後は日産NV200が増えたりしたが、やはり最近ではトヨタのハイブリッド車が勢力を伸ばし、カムリやRAV4がメインとなっているようだ。
ロンドンはどうだろう。ロンドンは特殊な街で、伝統的にタクシーには専用車が使われている。これはロンドンの狭い道でもUターンが可能など、特別な条件を満たす必要があるために専用モデルが必要となるからだ。
現在使われているのはロンドンEV社(LEVC)が作るTXというモデルである。このモデルは電気モーターで走行し、発電用のエンジンを搭載したPHEVである。問題はこのLEVCという会社で、なんと中国の吉利汽車が100%所有している。開発も吉利が主導し、生産はイギリスで行われているものの、部品の3分の1は中国製ということだ。
ちなみに最新の2階建てロンドンバスもBYD製となっており、イギリスは中国勢に席巻されているといってよい状況だ。
ロンドンバスの最新モデルはBYD製のBEVバスだ。今後はBYDバスが目立つようになるはずだ。
世界的に見ると、タクシーに占めるトヨタのハイブリッド車の割合はさらに高まっていくだろう。トヨタはもともと信頼性や維持費の低さで定評がある上に、トヨタハイブリッドシステムはハイブリッドシステムの中で最も低燃費なだけでなく、構造が比較的単純で、クラッチなど消耗部品もないシステムなので、耐久性・信頼性が高く維持費もかからない。
ガソリンを入れて走り続けることができ、燃料費を抑えられて、ガソリンスタンドに行く頻度も少なくて済む。まさにタクシーとして理想的な特性を持っているのだ。BEVは車両価格が高価なことと充電に時間がかかることがタクシーとして使うにはネックとなる。
このように考えると、タクシーに限らず自動車はしばらくの間ハイブリッドが主役となる時代が続くだろう。
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