スズキが新型「eスカイ」発表! 試乗してわかった、スズキの意外な軽EV戦略とは?【試乗レビュー】
スズキが新型軽EV「e Sky(eスカイ)」を初公開。スズキ初となる軽乗用EVは、どんな特徴を持ち、どんなユーザーをターゲットにしたモデルなのか? 自動車ライターのハシモトタカシが、ひと足早くプロトタイプに試乗し、その実力を確かめた。
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スズキの軽自動車EVコンセプトがついに「eスカイ」として登場!
スズキは8月24日、軽EVの「eスカイ」を初公開した。小型SUVの「eビターラ」や商用車の「eエブリイ」という2つのEVをラインアップするスズキだが、他社と比べEVへの足取りは緩やかだ。
コンパクトカーが主力のスズキは、自動車メーカーとして無理にEVにこだわらなくても、車両そのものが小さく、CO2排出量を抑えやすいというアドバンテージがある。さらにEV化による価格の上昇は、コンパクトカーのメリットを失いかねない。
そこでスズキはカーボンニュートラルの実現へ向け、EVに加えて、ハイブリッド車、CNG車、バイオ燃料車、さらには水素も使い、各地域・市場に合わせ組み合わせながら進める「マルチパスウェイ戦略」を取っている。牛糞からCNG車用のバイオガスを作るプラントをインドで稼働させたのも、インドで高いシェアを誇るスズキならではの取り組みだ。
しかし、世界戦略車として登場したeビターラも世界的には後発であり、eエブリイはトヨタ・ダイハツ・スズキ3社で共同開発したBEVシステムを採用する。「エブリイ」の名が付くが、実質的にはダイハツからのOEMモデルである。
そんな状況のなか、eスカイはスズキ初の軽乗用EVとして誕生した。日産「サクラ」と三菱「eKクロス EV」の登場は2022年であり、ホンダ「N-ONE e:」は2025年。軽乗用EVとしてはこちらも後発だ。
しかし、単純に他社に後れを取っているわけではない。スズキはこれまで、「ジャパンモビリティショー2023」で「eWX」を、「ジャパンモビリティショー2025」ではeスカイのコンセプトモデルである「ビジョンe-SKY」を披露するなど、着実にステップを重ねてきた。
スズキ eスカイ|Suzuki e Sky
今回、市販モデルとして発表されたeスカイのコンセプトは「Easy to Switch!」で、普段使っている軽自動車から生活スタイルを変えずに無理なくEVへと乗り換えることを目指している。企画担当者によると「ユーザーの生活に馴染むクルマ」という意味を込めて、いろいろな表情(色)を見せる「スカイ(空)」という名を取り入れたそうだ。
eWXは“ハスラーみ”を感じる個性的なデザインだったが、eスカイの実車を前にすると、ベーシックなキャラクターだと感じる。
「コ」の字型LEDライトなどにスズキらしい“アイコンっぽさ”や先進性を感じるが、全体のシルエットはシンプルな軽ハイトワゴン系。プロトタイプのボディサイズは、全長3395×全幅1475×全高1625mm、ホイールベース2460mm。全高が25mm低いだけで、ほかはすべて「ワゴンR」と同じだ。
デザインからもサイズからも、軽EVという“色眼鏡”で見られるのではなく、“普通の軽自動車の1つ”としてガソリン車と比較されることを望んでいるようだ。
eスカイのシルエットには、見慣れた親しみやすさがある。一方で、電卓やデジタル時計を思わせる“デジタル数字”のようなLEDライトが、先進的な雰囲気を演出している
eスカイ プロトタイプに試乗! どんな走り心地?
「Easy to Switch!」のコンセプトは、インテリアだけでなく走りにも貫かれている。
乗り込んで最初に目に飛び込んできたのが、ゲート式のシフトレバーだ。大きくフラットなディスプレイと陶器のような器を融合したダッシュボードには先進性や温かみを感じるが、そこにシフトレバーがニョキッと生えているのは、先進技術を積極的に取り入れがちなEVとしては懐かしさがある。
開発陣も散々議論したらしいが、やはりボタン操作ではなく、ユーザーが使い慣れたレバー操作のほうが安心感につながるということで採用したそうだ。個人的にはボタン操作で良いと思うが、初めてEVを買うユーザーをターゲットとするならこちらでもアリだ。「Easy to Switch!」のコンセプトを体現するエピソードと言える。
10.1インチの大型ディスプレイを搭載。シフト操作はゲート式で少々困惑したが、実はこれも狙いがあってのことだという
走り出すと、いい意味で過敏さがないのもeスカイの特徴だ。そっと踏めば優しく加速し、グッと踏み込めば力強さが増すキャラクターで、これなら初めてのEVとして乗っても違和感が少ない。
EVのドンッとした加速感を期待するとやや肩透かしを食らうが、アクセルを踏み込めばしっかりと加速してくれるので、慣れればこちらの方が運転しやすい。
EVらしさはある意味“塩味”のようなものだ。口に入れた瞬間は美味しいと感じても、食べ進めるとだんだんと飽きてくる。アーリーアダプターにとっては塩味が強い方がいいかもしれないが、アーリーマジョリティをターゲットとするeスカイは、“塩味”よりも“旨味”を感じさせる丁寧な味付けだった。
EVらしいパワフルな走りの演出はあえて控えたたというスズキ。従来の軽自動車オーナーでも違和感なく運転できることを目指し開発された
しかし、EVとしての特徴がないかといえば、そんなことはない。eスカイは、軽EV専用に新開発したという「ハーテクトe」プラットフォームを採用する。
今回はフラットなサーフェイスの袖ヶ浦フォレストレースウェイでの試乗だったので、実際の使用環境では評価はまた変わってくるかもしれないが、床下バッテリーのおかげで重心が低く速度を上げてもフラフラ感は皆無。バッテリーが剛体としてボディの剛性アップに効いているのかもしれない。
試乗会では、ブルー系に加えて、イエロー系とオレンジ系のボディカラーも用意された
さらに、ワゴンRより100kg以上重い1030kgという車重だが、タイヤサイズが少し幅広の165/65R14と余裕があり、乗り心地も軽自動車とは思えないレベル。ワンランク上のコンパクトカーに近い乗り味だと感じた。
そして、EVにありがちな床面が高く後席で体育座りのような体勢にならないのもポイント。空気抵抗を抑えるために全高を低くしながらも、室内は身長172cmの筆者が乗っても、頭上や膝回りにはゆとりがあった。シートも安っぽくなく、クッションもたっぷりしている。
床下にバッテリーを搭載しているとは思えないほど、後席の足元には余裕があった
EVなのに先進感を抑えた、スズキらしい考え
冒頭で触れたように、スズキとして初の軽EVなので、もう少し先進感をアピールしてくるかと思ったが、こちらの予想に反し、長年軽自動車を作り続けてきたスズキらしい、軽自動車のど真ん中を狙ったモデルだった。
企画担当者によると「できるだけ違和感なく、だけどEVの良さは感じてもらえるようにした」という。
今回乗ったモデルの一充電走行距離は310km。サクラの180km、N-ONE e:の295kmを上回り、BYDラッコ(300Plus)の320kmと同等という、ちょっとした遠出もカバーできる距離だ。搭載するバッテリーは、サクラやN-ONE e:が使用する三元系ではなく、ラッコと同じリン酸鉄リチウムイオンを使用している。
リン酸鉄系はエネルギー密度が低く、重量もかさむ一方で、発火リスクが低く長寿命。電池設計部の担当者は「安心安全を第一に、長く乗っていただきたいということで選定した」と話してくれた。さらにモーター、インバーター、減速機を一体化した駆動ユニット「eAxle」の小型化や、軽自動車トップレベルの空力性能、軽量化など、細かな積み重ねによって電力消費量は97Wh/kmまで抑え、国産EVの中でも最小クラスだという。
なお、商品企画からの当初の要望は「エアコンを使用した状態で実走200km」だったそうだが、開発陣の頑張りにより300kmを超えたという。限られた電池容量をいかに無駄なく効率的に使うかを突き詰める姿勢は、まさにスズキの行動理念である「小・少・軽・短・美」を体現している。
ボンネットを開くと、新開発のeAxleを確認できる
eスカイ成功のカギを握るものは?
スズキはeスカイの開発にあたり、ライバルモデルを50台ほど購入して社員で乗り比べを行い、軽EVの課題を洗い出し、ひとつずつ解消したという。
そうした中で出てきたコンセプトが冒頭の「Easy to Switch!」。アシスタントチーフエンジニアからは「EVである前に、軽自動車である」という言葉も聞かれた。
多くの人が違和感なく普通に使える“軽自動車”を目指したeスカイは、逆にいえばユーザーの心のスイッチを押すような個性が薄いようにも感じる。
eスカイはかつての「アルト」や「ワゴンR」のように、軽自動車市場に革命をもたらす可能性を秘めているが、その鍵を握るのは、結局のところ現時点で未発表の「価格」なのかもしれない。eスカイの発売は今秋を予定している。
スズキ eスカイ|Suzuki e Sky
SPECIFICATIONS
スズキ eスカイ|Suzuki e Sky(プロトタイプ)
ボディサイズ:全長3395×全幅1475×全高1625mm
ホイールベース:2460mm
最小回転半径:4.4m
車両重量:1030kg
駆動方式:FWD
モーター最高出力:47kW(64PS)
モーター最大トルク:133Nm(13.6kgf-m)
電池容量:26kWh
一充電走行距離(WLTCモード):310km
交流電力量消費率(WLTCモード):97Wh/km
※諸元値はプロトタイプのもの
スズキは2025年9月に平面的なデザインの新エンブレムを発表したが、その初採用モデルが、このeスカイになるらしい




