なぜ680ps・2710kgの怪物は、こんなにも上品なのか?——ボルボ新型SUV「EX90」に試乗した
ボルボの新時代を告げるフラッグシップSUV「EX90」が、ついに日本にやってきた。最高出力はなんと680ps。0-100km/h加速は4.2秒を誇る。なのに、この上品さは一体何なんだろう。モータージャーナリストの今尾直樹が都心を中心にドライブし、その魅力を確かめた。
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ボルボの新時代の幕開けを告げるEV、それがEX90
ボルボのオール・ニューBEV(電池式電気自動車)の旗艦SUV「EX90」のプレス向け試乗会が、東京・南青山のVolvo Studio Tokyoをベースに開かれた。レインボーブリッジを渡ってお台場方面まで往復する、というのが推奨試乗コースだったけれど、その前に丸の内・日本橋あたりで撮影しよう、と行ってみたら道が混んでいて、一般道をウロウロしている間に終わってしまった……。日本一の繁華街なのだから、当たり前である。だけど、そういうぶらりトーキョー・サファリにボルボEX90はピッタリだった。
基本的にEX90は、XC90のBEV版である。3列7人乗りの大型SUVで、2985mmのホイールベースも同寸だ。ただし、中身はプラットフォームからして別物で、「SPA2」なるスケボー・タイプのBEV専用プラットフォームも、800VのEVシステムも、NVIDIAのチップを使ったコア・コンピューターとソフトウェアもボルボが独力で開発している。ボルボの新時代の幕開けを告げるEV、それがEX90なのである。
ボディ・サイズはXC90より80mm長くて、5mm幅広い。全高が35mm低いのは、スタイリッシュであることと同時に、空力性能の向上を狙ったものだと考えられる。それというのも、BEVの航続距離は空気との付き合い方で大きく変わるからだ。空気抵抗は速度の二乗に比例する。そもそもEVは高速巡航の効率がよろしくないという弱点がある。
日本仕様は前後輪をそれぞれ1基のモーターで駆動するツイン・モーターのAWDのみで、標準仕様の456psと「パフォーマンス」の680psの2タイプがある。前者は0-100km/h加速5.5秒、後者は同4.2秒を誇る。4.2秒というと、ポルシェ・カイエン・エレクトリックの0-100km/h4.8秒より、そうとう速い。
ボルボ EX90 ウルトラ ツインモーター パフォーマンス|Volvo EX90 Ultra Twin Motor Performance
装備の違いで、プラスとウルトラ、2つのグレードが設けられており、上級グレードのウルトラはナッパ・レザーのシート表皮とエア・サスペンション、英国の高級オーディオ、バウワース&ウィルキンスを標準装備する。
スピーカー25個を用いて、かのアビー・ロード・スタジオの音響的特徴を車内空間で再現するというサウンド・モードなんてのも付いている。ビートルズ・ファンならずとも、カム・トゥゲザー!
価格は次のとおり。
プラス・ツイン・モーター 1199万円
ウルトラ・ツイン・モーター 1349万円
ウルトラ・ツイン・モーター・パフォーマンス 1399万円
この価格差だと、みなさん、いちばん高いのを注文されるのではなかろうか。
ボルボ EX90 ウルトラ ツインモーター パフォーマンス|Volvo EX90 Ultra Twin Motor Performance
ボルボ EX90 ウルトラ ツインモーター パフォーマンス|Volvo EX90 Ultra Twin Motor Performance
EX90は極めてエレガントで静かな怪物だ
さて、われわれの試乗車は、EX90の最強バージョン、ウルトラ・ツイン・モーター・パフォーマンスである。フロントのモーターは最高出力299psと最大トルク390Nm、リアはそれぞれ381psと480Nmを発揮する。つまり、前後モーターのパワーで判断すると、後輪駆動ベースというべきAWDで、システム最高出力は680psもある。
電池容量は106kWhで、一充電走行距離はWLTCモードで650kmの長い足を持つ。でもって、800VのEVアーキテクチャーにより、充電時間は充電機の能力にもよるけれど、世界最速レベルを誇る。
全長5m超、全幅はドア・ミラーを入れれば2mちょっとで、全高は日本人男性の平均身長の172cmを超える。車重は2710kg、最高出力680psもあるのだからして、一頭の怪物と呼ぶべきである。
ボルボ EX90 ウルトラ ツインモーター パフォーマンス|Volvo EX90 Ultra Twin Motor Performance
その怪物の運転席に着く。インテリアはヘッドルームも含め広々しており、スウェディッシュ・モダン・デザインで統一された空間は、夏は涼しげ、冬は暖かそうな上質なリヴィング・ルームを思わせ、怪物性は微塵も感じさせない。
最近のBEV同様、スタートのスイッチというものはない。カードキーを持って乗り込めば、その時点でスイッチオンとなる。ブレーキを踏んで、ステアリングコラムの右から突き出たシフトレバーを下げてDに入れ、アクセル・ペダルに右足の力を込めれば、しずしずと発進する。
この発進具合が絶妙で、まずはそのことに感心する。870Nmもの最大トルクが完璧に制御されている。EX90は極めてエレガントに、いささかもためらうことなくスタートする。
国道246号に出て、銀座方面に向かう。エア・サスペンションによる乗り心地は極上で、22インチの巨大なホイールに、前265/40、後295/35という前後異サイズの超極太扁平タイヤを組み合わせているのに、バネ下の重さを意識させない。フワフワではまったくない。しっとりしている。それでいて、サラッとしている。
しかも、驚くべき静かさである。タウン・スピードだから風切り音がしないのは当然としても、ロード・ノイズが極めて低い。この静かさを、ノイズ・キャンセリングのような人工的なシステムではなく、徹底した遮音によって実現しているという。大都会にあって、深い森のなかにいるような静けさである。
BEV特有のモーター、もしくはインバーターの音も聞こえてこない。ひゅううううん、というようなBEVらしいサウンドも発しない。近頃流行りのICE(内燃機関)を模した人工音も採用しておらず、「し〜ん」というオノマトペが浮かぶような、瞑想的静粛性がつくられている。禅的、といってもよいかもしれない。
ボルボ EX90 ウルトラ ツインモーター パフォーマンス|Volvo EX90 Ultra Twin Motor Performance
ボルボ EX90 ウルトラ ツインモーター パフォーマンス|Volvo EX90 Ultra Twin Motor Performance
VOLVOとはラテン語で「私は廻る」という意味だそうで、禅とはなにか? 筆者はよく知らないで書いているのですけれど、永遠の真理が込められている、という感じがする名前だとはいえるのではあるまいか。
いわゆるドライブモードには、「スタンダード」のほか、距離を最大限延ばす「レインジ」、走行性能優先の「パフォーマンス」、それに「オフロード」がある。試しに「パフォーマンス」に切り替えてみると、首が後ろにぐわしと持っていかれる。ただし、最高出力&最大トルク自体が変わるわけではない。「スタンダード」のほうが出力特性に伸び感があって、筆者的にはドラマチックで爽快感があるように思う。
ブレーキもエネルギー回生の気配を感じさせることなく、自然な制動力を発揮する。アクセルオフ時により回生を効かせる、いわゆるワンペダルにスイッチひとつで切り替えることもできる。
テスラに次ぐ2位! レクサスやドイツ勢より多くのEVを売っている
EX90の発表は、じつは2022年にさかのぼる。日本での発売が遅くなったのは、ボルボ・カー・ジャパンのBEV戦略による。2021年秋発表のC40を皮切りに、EX40、EX30と、まずは小型EVを導入し、しかるのちに真打登場というスケジュールを組んだのだ。小型EVのほうが当然、低価格で、数を売りやすいからだ。
この戦略により、国内のプレミアムBEV市場で、ボルボはテスラに次ぐ2位の座を得ている。テスラとは販売台数で10倍の開きがあるとはいえ、レクサスやドイツ勢より多くのEVを売っている、という事実は注目に値する。
なお、3列めも、頭上空間はちょっと狭いものの、おとな2名が乗れる、しっかりしたシートと空間が用意されている。荷室も広く、リアのゲートがガバッと開いて、使い勝手もよさげだ。
BEVの大型SUVたるEX90は、これまでのボルボの伝統を守りつつ、ソフトウェアが鍵を握るSDV(Software Defined Vehicle)時代に備えた革新性を備えてもいる。マンダロリアンではないけれど、これこそ、“This is the Way.” であろう。これはいい。そうとういい! と思った。
ボルボ EX90 ウルトラ ツインモーター パフォーマンス|Volvo EX90 Ultra Twin Motor Performance
SPECIFICATIONS
ボルボEX90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス|Volvo EX90 Ultra Twin Motor Performance
ボディサイズ:全長5035×全幅1965×全高1740mm
ホイールベース:2985mm
最低地上高:210mm(社内測定値)
最小回転半径:5.9m(社内測定値)
乗車定員:7人
車両重量:2710kg
モーター最高出力:前220kW(299ps)/後280kW(381ps)
モーター最大トルク:前390Nm(39.8kgf-m)/480Nm(48.9kgf-m)
システム最高出力:500kW(680ps)
システム最大トルク:870Nm(88.7kgf-m)
トランスミッション:1速固定式
駆動方式:AWD
バッテリー総電力量:106kWh
WLTCモード一充電航続距離:650km/L
WLTCモード交流電力量消費率:180Wh/km
0-100km/h加速:4.2秒
サスペンション:前ダブル・ウィッシュボーン(エア・サスペンション)/後インテグラル・リンク(エア・サスペンション)
タイヤ:前265/40R22 9.0J×22/後295/35R22 10.0J×22(Pirelli Scorpion)
最高速度:180km/h
車両価格:1399万円(税込)




