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最終更新日:2020.12.28 公開日:2020.12.28

勝田貴元が2021年から日本人初のWRCフル参戦

2021年のWRC(世界ラリー選手権)に、日本人ドライバーの勝田貴元がフル参戦することが決定。勝田はトヨタの育成ドライバーで、2020年にWRCへスポット参戦した時の成績が認められ、今回フル参戦への切符を手に入れた。なおWRCのトップカテゴリーにフル参戦する初の日本人ドライバーとなる。勝田のWRCフル参戦までの道のりを、モータースポーツライター入江大輔が紹介。

文・入江大輔(モータースポーツライター)

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日本人ドライバー初のWRCフル参戦となる勝田貴元

2021年WRCフル参戦が決定した勝田貴元(写真は2020年ラリー・スウェーデン) 写真トヨタ

 12月18日、TOYOTA GAZOO Racing WRCチャレンジプログラムの育成ドライバー、勝田貴元(かつたたかもと)の2021年シーズンWRC全戦エントリーが発表された。勝田は2020年シーズンにセバスチャン・オジエがWRCドライバーズタイトルを獲得したチャンピオンマシン、トヨタ・ヤリスWRCで全てのWRCイベントを走ることになる。

 トップカテゴリーマシンでのWRCフル参戦は、日本人唯一のWRC勝利経験を持つ篠塚建次郎や、PWRC(プロダクションカー世界ラリー選手権)を2度制した新井敏弘ら、日本のラリーレジェンドたちも叶えられなかった、正に夢のビッグチャレンジとなる。

ラリー界のサラブレットながらレースデビューはサーキットだった

 1993年、愛知県に生まれた勝田貴元は、現在27歳。父親は全日本ラリー選手権王者の勝田範彦、祖父もこれまた全日本王者の勝田照夫を持つ生粋のサラブレッドだ。しかし、彼自身がモータースポーツのキャリアをスタートさせたのはラリーではなくサーキットだった。2012年には全日本F3で勝利も手にしている。そんな勝田が本格的にラリーの道を選んだのは2015年。前述のトヨタによる若手育成オーディション合格がきっかけである。

 こちらも父に新井敏弘を持つ新井大輝と共に、フィンランドへと渡り、さまざまなラリートレーニングをこなしながら、フィンランド国内選手権やWRCで経験を積み上げていく。そして、2018年にWRCの下部カテゴリーであるWRC2で初勝利(スウェーデン)、翌2019年には初めてヤリスWRCドライブのチャンスを得た。

2020年のスポット参戦で「速さ」を証明

2020年ラリー・モンツァではチャンピオンを上回る走りをみせた勝田貴元 写真トヨタ

 当初、勝田はヤリスWRC2020年のWRC7戦へのエントリーを予定していた。しかし、ご存知のとおり新型コロナウイルス感染拡大により、カレンダーが大幅な変更を受け、5戦のみの出走にとどまった。リザルトだけを見れば、開幕戦モンテカルロでの7位が最高位。しかし、最終戦として行われたラリー・モンツァにおいて、勝田は日本人ドライバーが誰も成し遂げたことのない偉業を刻んでいる。

 現在のWRCでは最終日に「パワーステージ」と呼ばれる、スペシャルステージ(SS)が設定されている。多くの場合が最終SSに設けられ、ここでベストタイムを記録すると5点のボーナスポイントが与えられるシステムだ。ラリー優勝の獲得ポイントが25点であることを考えると、このパワーステージの重要性を理解できるだろう。

 このラリー、勝田は初日に行われたSS1でコースオフを喫してリタイアしてしまう。それでも、現在のWRCはタイムペナルティを受けてリスタートすることができるため、翌日以降も走行。降雪などにより非常に難しいコンディションとなったこのラリーで、徐々にペースを上げていく。そして、迎えた最終SS、昨年の王者オィット・タナック(ヒュンダイ)に1.4秒差をつけて、ベストタイムを叩きだした。

 WRCにおける日本人のベストタイムは、篠塚建次郎が1992年のアイボリーコーストで記録している。しかし、当時と現在ではドライバーのエントリー状況が大きく異なる上に、勝田がベストを刻んだのはボーナスポイントが与えられるパワーステージだ。「自分以上に周囲が喜んでいた」と勝田は振り返るが、並みいるトップワークスドライバーがフルアタックを仕掛ける中で、彼はスピードで彼らに勝ち切った。

 リザルトという形でこそ残っていないものの、シーズン中盤のエストニアでもトップに互するスピードを見せており、フル参戦が実現した2021年、勝田への期待は大きく膨らんでいる。そして、新たに元トヨタのワークスドライバ、ユホ・ハンニネンが勝田のインストラクターとして帯同することになっている。ハンニネンはヤリスWRCのテストドライバーも務めてきたほか、 WRCでの参戦経験も豊富。以前から勝田のペースノートクルーも担当しており、彼にとってはこれ以上にない援軍となるだろう。

2020年ラリー・イタリアでの勝田貴元 写真トヨタ

2021ラリージャパンでは勝田に刮目せよ!

 2021年には、母国イベント「ラリージャパン」がシーズン最終戦として開催される。ラリージャパンは勝田の地元愛知県が舞台。さらにトップドライバーでは唯一、テストイベントとして開催された2019年の「セントラルラリー」への参戦経験も持つ。本人は「シーズン中の舗装イベントで経験を積み、ラリージャパンでは表彰台を狙いたい」と謙虚に語っているが、日本の道を知っているアドバンテージは決して小さくない。

 27歳という若さでWRCフル参戦を果たす勝田貴元。これまでも結果が残せない時期もあったが、着実に障害を乗り越えてきた。下部カテゴリーからトップカテゴリーへとコマを進め、そしてSSベストタイムも記録した。そのスピードをコンスタントに刻み続けられれば初優勝もあり得る。篠塚以来の日本人によるWRC優勝、そんな夢を見たくなるような可能性を彼は秘めている。


勝田貴元プロフィール

生年月日:1993317日生まれ
出身地:愛知県出身
レーシングキャリア概要:
2005
12歳でカートデビュー
2011
18歳でFCJ(フォーミュラチャレンジ・ジャパン)チャンピオン獲得
2013
20歳でF3シリーズ2
2014
年 全日本ラリー選手権第8戦でJNクラス初優勝
2017
FIA世界ラリー選手権第7戦イタリア、WRC2クラス3
2018
FIA世界ラリー選手権第2戦スウェーデンでWRC2クラス初優勝
2019
FIA世界ラリー選手権第6戦チリWRC2クラスで優勝ヤリスWRCで参戦したフィンランドラリー選手権で2勝、WRCラリー・ドイチェランドとラリー・スペインにはヤリスWRCでトップカテゴリーへ参戦
2020
年 ヤリスWRCでトップカテゴリーへ5戦出場。最終戦のラリー・モンツァではパワーステージを制し、初めてベストタイムを記録


勝田貴元の2020年WRCでの写真は、
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