なぜホンダは赤字に転落したのか? 再起のカギを握るのは、2028年発売予定のあのモデルだ!【国沢光宏がクルマ業界にモノ申す!】第12回
上場以来初の赤字決算に陥ったホンダ。強固な財務体質で知られた名門メーカーに、いま何が起きているのか。EV戦略の迷走、中国勢の台頭、そして二輪事業にも迫る電動化の波。巨額赤字の背景と、ホンダが抱える構造的課題を、自動車評論家・国沢光宏氏が読み解く!
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ホンダが上場以来初の赤字決算。4239億円の衝撃
ホンダが上場以来初めての赤字決算を発表した。しかも4239億円という巨額である。ホンダといえば財務体制が強固なことで知られており、リーマンショックや新型コロナすら黒字決算だった。ホンダを創業した本田宗一郎さんは生粋の技術者であり、理想を追い求めるため開発予算や生産機械の購入に糸目を付けなかった。そんな宗一郎さんを財務面で支えたのが藤沢武夫さんである。
ホンダは技術系の企業であり、今でも宗一郎さんの教訓が生きている。意外かもしれないけれど。同じくらい藤沢さんに薫陶を受けた“財務命”の赤字嫌いなホンダ社員も多い。そんなホンダが赤字を出したのだから、OBを含めたステークホルダーに与えたインパクトは大きい。
ホンダの資料「四輪電動化の見直しに伴う損失の発生および今後の方向性について」より、四輪事業を取り巻く環境変化の説明
投資の失敗と経営責任への疑問
赤字の理由と言えば簡単だ。2021年に社長となった三部さんが就任以来、大失策を重ねてきたからである。
三部さんは就任直後に2兆円という巨額損失を計上した(2026年3月期に1兆5千億円。2027年3月期5000億円)、電気自動車への投資を決定。「ソニーホンダモビリティの立ち上げ」や「カナダの大規模電気自動車工場&電池工場」、「ハイブリッド車の開発縮小」「GMと電気自動車を共同開発」なども決め、これら全てで挫折するか損失を出しての撤退となってしまった。
自動車産業に限らず、1人の社長がこれほど多くの失策を続け(収益を生んでいる三部さん立案の事業は皆無)、2兆円の損害を与えた例など聞いたことない。驚いたことに赤字決算の記者会見の場で三部さんは「アメリカ市場で予測不能の変化が起きたための損失」と釈明したけれど、これほどの損害を出したのはホンダしかないという点については触れなかった。
さらにホンダ失策は取締役でもない小澤常務執行役1人によるものだとして退任させている。2兆円の損失による人事はこの件だけ。ホンダ経営陣は小澤常務執行役に全ての責任があるということにした。確かに2年くらい前から社内に於ける小澤常務執行役の評価は驚くほどネガティブだった。私のような外部の人間まで「酷い」という声が伝わってくるほど。
一方、小澤常務執行役の退任を受けたホンダ社内の評価は「なんで1人だけで済ませるのか?」。三部さんを含めた経営責任を問う声が大きい。このあたりは株主や、社員といった自分の財産や収益に関わる人が問題提起する件であり、外部の人間からすれば静観するしかない。むしろ6月の株主総会で現在の経営陣の続投を認めるのであれば、以後は株主の責任である。
参考までに書いておくと、小澤常務執行役の後任は四竈真人(しかままさと)氏と発表された。一部メディアで「開発のエース」と報じられているものの、専門分野はソフトウェア。市販車の開発から遠い部署である。自動車業界でホンダのソフトウェアが優れているという評価も無いため、社内的にはポジティブじゃない意味で「三部人事」と言われているようだ。
5月14日、都内で電動化戦略の見直しを具体化した「2026 ビジネスアップデート」が開催された。左から藤村 英司氏、三部敏宏氏、貝原 典也氏
「売れるクルマ」を作れるか。N-BOX EVと中国市場の課題
閑話休題。小澤常務執行役の退任でホンダは持ち直すだろうか?
大きな課題が少なくとも3つある。1つは「売れるクルマの開発」。好例が決算発表に続いて行われた『2026ビジネスアップデート』で発表された日本市場向けのN-BOX EVだ。今やホンダの日本市場は軽自動車メーカーと言う位置づけ。次期型N-BOXで失敗したら後がない。N-BOX EVは2028年発売となっている。
2026年4月末時点で国内累計販売台数300万台を突破したN-BOXシリーズ
御存知の通り東京都は2030年から電動車でないと新車登録出来なくなる。軽自動車の場合、電気自動車かストロングハイブリッドしかない。ダイハツを見ると安価なストロングハイブリッドを開発中だ。ホンダは電気自動車しか考えていなかったらしく、軽自動車用ハイブリッドの開発をしていない。それなら電気自動車で勝負出来るかとなれば、BYDが圧倒的な価格競争力を持つと思う。
中国市場も厳しい。ホンダが優秀な技術者を中国に赴任させて開発した電気自動車は、年間500台しか売れなかった。現在進行形で圧倒的に出遅れてしまっている。今や技術的にも中国勢が圧倒的に強い。2023年から開発戦略を「中国式」に変えたトヨタと日産すらギリギリ勝負出来ている状況。ホンダがこれから巻き返そうとすれば、圧倒的に早い中国スピードの2倍の開発速度が必要だろう。
ホンダの「2026 ビジネスアップデート」発表会でサプライズ公開された、新型ハイブリッド セダン プロトタイプ
こちらも「2026 ビジネスアップデート」で発表された「アキュラSUV プロトタイプ」
好調な2輪事業にも迫る電動化の波
最大の危機はホンダの全収益を担っている2輪部門である。2026年3月期決算では7319億円の過去最高の収益を出すなど絶好調。そんな2輪市場は電動化が急伸中だ。ホンダ2輪の最重要市場となるベトナムではビンファストに代表される電動2輪メーカーが急速にシェアを増やしている。他の新興国もビンファストを見て2輪産業の育成&強化を始めた。中国だって参入し拡大中。
この動きにホンダは全く追いつけていない。オセロで言えば今のところ半分近く「ホンダ色」になっているが、電動2輪という次のゲームに限って言えば、すでに4隅を2つは取られてしまった。ホンダは1つも取れていない。ホンダの収益は健全であっても4輪と2輪と4輪の金融(アメリカ市場のローンやリースから発生する)で利益構成は3分の1ずつ。今や2輪でしか利益を上げていない。
現在のホンダに求められるのは、抜本的な改革だと思われる。経営陣が1人変わっただけで大改革出来た企業など過去にない。しかもホンダ側の経営責任を取らなくて済むよう、自動車産業を専門としない社外取締役を半数以上にした。泥沼に落ちていく過程の日産と同じことをやっている。繰り返すけれど今のホンダに必要なのは抜本的な改革だ。ボールは現在株主の側にある。
ホンダが3月に発売した電動スクーター「アイコンe:」は、税込価格22万円で、航続距離は81kmと実用性バッチリ。




