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クルマ最終更新日:2018.01.04 公開日:2018.01.04

クルマが人を襲う!B級ホラーの「クリスティーン」を、今見直してみると面白すぎる!

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主人公のクリスティーン(1958年型プリムス・フューリー)。© 1983 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

 クルマの映画や名シーンにクルマが登場する映画は数々あれど、クルマが主人公のホラー映画というのは少ない。最も有名なのは1983年に公開された「クリスティーン」だろう。

B級ホラーの名手ジョン・カーペンター

 スプラッターホラー映画のカルト的な一作「ハロウィン(1978年)」を監督したジョン・カーペンターは、SFやホラーをローバジェットで撮影するB級映画の監督としても有名だ。その独特のセンスを愛する熱烈的なファンも多く、「ニューヨーク1997(1981年)」や「遊星からの物体X(1982年)」などB級の枠を超えたヒット作を生み出している。
 また、ジョン・カーペンターはミュージシャンでもあり、自作のほとんどの音楽を自ら作曲している。

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『クリスティーン』発売中。 Blu-ray 2,381円(税別)/ DVD 1,280円(税別)。 発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

 「クリスティーン」が制作された1982年当時、カーペンターは「ニューヨーク1997」や子どもの頃からの念願の作品「遊星からの物体X」のリメイクが世界的にヒットし、監督としてもっとも脂の乗った時期だった。しかし「クリスティーン」の興行は振るわず、2週間で打ち切りの映画館もあったという。

 理由の1つには、「クリスティーン」という呪われた車が人間を殺害していくという設定に少々無理があり、テーマは面白いが、怖さとしてもスプラッター的にもインパクトが少ない宙ぶらりんな作品になってしまった点とも指摘できよう。スティーブン・キング原作の精神的恐怖の領域を十分に映像化しきれなかった感がある。

 しかし30年後の今、改めて映画を観てみると現代社会とはまるで違う当時のアメリカの社会や文化がクルマに象徴された演出がなされておりカーペンターの並々ならぬ才能を感じる。

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ひとりの高校生が買ったのは普通のクルマではなかった

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メガネの高校生アーニー(左)は、なぜだか廃車同然のクルマに惹かれその場で買い取ることから物語ははじまる。オーナーはクルマの名前が「クリスティーン」であることを告げる。© 1983 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

古き良きアメリカの70年代

 物語の舞台は1978年のカリフォルニア。いじめられっこの高校生アーニーがボロボロの廃車同然のクルマ、真っ赤な1958年型プリムス・フューリーに一目ぼれして買い取る。彼はクリスティーンと呼ばれていたクルマを整備し可愛がり、新車同様に修理する。実はクリスティーンは邪悪な意志を持った”生きたクルマ”で、内気なアーニーを凶悪な殺人者へと変えていく。完全に支配されたアーニーはクリスティーンに乗り、自分をいじめた同級生ひとりひとりを狙っていく……。

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クリスティーンはアーニーのガールフレンドに嫉妬し、クルマに閉じ込め窒息死させようとする。© 1983 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

 70年代アメリカの古き良き時代、高校生はアメフトやチアリーダーそして女の子とのデートにいそしみ、クルマは通学の足として必需品だった。アーニーが購入するフューリーは、1956年から1968年までクライスラー社のプリムス部門によって販売されたもので、大流行したテールフィンが特徴的なアメ車の全盛期を象徴するような存在である。

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不良グループに母親が作ってくれたランチを奪われいじめを受けるアーニー。© 1983 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

 そういったアメリカの高校生活に必ず存在するのが、ステレオタイプな不良グループとスポーツ万能なサニーボーイ、そしていじめられ役という勧善懲悪的世界観である。アーニー役を演じるキース・ゴードンがいじめられっこ役のキャラをみごとに演じている。
 キース・ゴードンは、1980年にアメリカで封切られたブライアン・デ・パルマの「殺しのドレス」で、ひょろりとしたメカに強いオタッキーな青年役を好演した。本映画のアーニーはまさにその延長線上にある役柄で、彼の心の中にある闇や孤独にクリスティーンが入り込むのである。

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アメリカンポップを逆手に取ったみごとなラスト

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不良グループによりボロボロにされたクリスティーンにショックを受けるアーニー(キース・ゴードン)。この時アーニーの心は既にガールフレンドよりもクリスティーンにのめり込んでいる。© 1983 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

 クリスティーンとアーニーが狂気の中で愛し合い人を殺めていく過程の中で、クリスティーンはクルマではなくまさに生き物、それも女性となっていく。
 アーニーが不良グループによってこなごなにされたクリスティーンに「さぁ君の力を見せてくれ!」と言うと自分で再生するシーンや、ラジオがひとりでに作動して人を恐怖に陥れるシーンなどは、AIを搭載しドライバーの意志を汲み取って作動する最新技術車のようにも思えてくる。

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アーニーをいじめた同級生を袋小路に追い詰めるクリスティーン。© 1983 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

 不良グループのひとりを袋小路に追い詰めて殺す前の、プルプルという震えるようなエンジン音がじわじわと恐怖感を煽ると共にクリスティーンがまるで生きているかのように効果的に使われている。
 またアーニーが死んだ時に、クリスティーンが彼のためにカーラジオから流す「永遠に愛す」という陽気なオールディーズは、アメリカの善良さの裏に潜む闇を浮き彫りにするかのようだ。映画の全編を貫く音の使い方にミュージシャンとしての監督のセンスのよさが光る。

 ホラー映画としてはB級かもしれないが、クルマとそれにとりまくカルチャーを通して、70年代のアメリカの甘く切ない夢の残り香を味わうことができる秀作である。

2017年1月6日(JAFメディアワークス IT Media部 荒井 剛)

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