新GI鋼板「GI JAZ」の性能は高級EGプレフォス鋼板並みに
車に使われる鉄には、GA鋼板、GI鋼板、EG鋼板の3種類があり、 特徴も異なるし、実は日本メーカーと外国車メーカーの好みも違う。 JFEスチールの新製品「GI JAZ」を中心に、鉄の種類から車を考えてみた。
金属にとっての難敵といえば酸化してしまうこと、つまりサビだ。クルマは直接雨にさらされ、地域によっては塩分が付着する可能性もあることから、特に外装部品は防錆(ぼうせい)表面処理の性能が重要だ。そうした防錆処理として馴染みのあるめっき処理は、クルマ用の鋼板では主に3種類が用いられる。合金化溶融亜鉛めっき(GA)鋼板、非合金化溶融亜鉛めっき(GI)鋼板、電気亜鉛めっき(EG)鋼板だ。
国内メーカーはGA鋼板が好み
国内鉄鋼メーカーの大手であるJFEスチールによれば、自動車メーカーによって防錆に対する考え方が異なり、使用する鋼板に違いがあるという。ちなみに国内メーカーの多くが使用するのがGA鋼板だ。GA鋼板は、溶融亜鉛めっきを施した後に再加熱し、めっきと金属を合金化した鋼板のことで、塗装後の耐食性や溶接性に優れるのが特徴である。
そしてJFEスチールが2006年から量産を開始したのが、GA鋼板の溶融亜鉛めっき表面に独自の処理を施した「JAZ」(JFE Advanced Zinc)だ。同製品は、溶融亜鉛めっきを厚さナノメートルレベルの表面改質処理被膜で覆うことで高潤滑性能を持たせた鋼板である。潤滑性能が高くなると、金型と溶融亜鉛めっき層の凝着を抑制できるというメリットがある。現在、多くの国内メーカーが「JAZ」を採用しているという。
欧米のメーカーはEG鋼板やGI鋼板が好み
一方、欧米の自動車メーカーの多くが好むのが、EG鋼板、もしくはGI鋼板だ。EG鋼板は電気溶融亜鉛めっきを行った鋼板で、プレス成形性に優れる。中でも、そのEG鋼板の表層をリン酸亜鉛被膜で被覆して高潤滑性能を与えたプレフォスフェイトEG鋼板(以下、EGプレフォス)が広く利用されているという。しかし、EGプレフォスは電気めっきおよびリン酸亜鉛被膜での被覆処理が高コストであるという課題があった。
そしてGI鋼板は非合金化の言葉が示すとおり、GA鋼板とは異なって溶融亜鉛めっきを施しても再加熱を行わず、合金化しない。それにより、EG鋼板の電気亜鉛めっきに比べて厚くめっきを施すことが可能で、また特徴として耐食性に優れている。しかも、製造コストが低いという大きなメリットもある。ただし短所も存在し、クルマの外板に適用するためには表面品質の問題や摩擦係数が高くてプレス加工性の面で課題があった。
低コストのGI鋼板で高性能なEGプレフォスレベルを実現
そこで今回JFEスチールでは、GI鋼板に「JAZ」で培った溶融亜鉛めっきの表面にナノメートルレベルでの表面改質処理被膜を施す技術を応用。被膜によって摩擦係数を低減し、プレス金型と溶融亜鉛めっきの凝着を抑制できる新製品「GI JAZ」の開発に成功し、西日本製鉄所で営業生産を開始したことが11月15日に発表された。
「GI JAZ」を拡大した模式図。下地鋼板の上に溶融亜鉛めっきがあり、その表面にナノメートルの厚さの表面改質処理被膜がある。これによって摩擦係数が大きく下がり、金型と溶融亜鉛めっきとの凝着が発生しにくくなった。画像提供:JFEスチール
同社の従来GI鋼板、「GI JAZ」、同社のEGプレフォスの摩擦係数の比較。従来GI鋼板が0.275位の間であるのに対し、「GI JAZ」はEGプレフォスと同等の0.10に近い値となっている。つまりそれだけ表面が滑らかということ。詳細な摩擦係数の数値は未発表。画像提供:JFEスチール
また、成形性もEGプレフォスと同等であることが確認されたという。プレス成形試験でフェンダーが製造され、割れやしわが発生せず、良好にプレス成形できるしわ押さえ荷重の範囲(成形可能範囲)が、従来のGI鋼板と比較して約2倍になったことが判明した。
プレス成形試験で製造されたフェンダー。割れやしわなどが確認されなかったという。画像提供:JFEスチール
従来GI鋼板が110~130トンなのに対し、「GI JAZ」は130~170トンに。必要な荷重は上がっているが、幅が広がっているので、それだけ扱いやすくなった。画像提供:JFEスチール
ちなみに表面改質処理被膜はナノメートルレベルであることから、さまざまなクルマ用防錆鋼板としての基本性能を損なうことがないという。同社の調査では、従来のGI鋼板と同等の溶接性、接着性、化成処理性、塗装性を有しているとした。
JFEスチールでは、今後「GI JAZ」の供給体制の整備を進めるとしている。
2018年11月28日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)
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