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最終更新日:2024.11.25 公開日:2024.11.22

なぜ12気筒エンジンは魂を揺さぶるのか? アストンマーティン新型「ヴァンキッシュ」は快感以外のなにものでもない。【試乗レビュー】

これぞアストンマーティン! と叫ばずにはいられない。新開発12気筒エンジンをフロントミドに搭載した新型GT、「ヴァンキッシュ」にモータージャーナリストの小川フミオが試乗した。

文=小川フミオ

写真=Aston Martin Lagonda

アストンマーティン ヴァンキッシュ|Aston Martin Vanquish

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スーパーカーにおける新たなベンチマーク

アストンマーティンが、新型「ヴァンキッシュ」を2024年9月に発表。10月にイタリア・サルディニア島でメディア向け試乗会を開催した。最大のトピックスは、なんていっても、12気筒を新開発して搭載したことだ。

なんでいまわざわざ12気筒?と、何千回も訊かれたであろう質問を投げかけると、アストンマーティンでディレクター・オブ・ストラテジー&プロダクトを務めるアレックス・ロング氏は、「私たちの方針は、ハイパースポーツカーも出しますが、12気筒搭載のGTを、可能なかぎり作り続けることです」と答えてくれた。

「スーパーカーにおける新たなベンチマーク」とアストンマーティンが誇らしげにプレス向け資料に記す新型ヴァンキッシュに搭載されるのは、5204ccのV型12気筒。614kW(835ps)の最高出力と1000Nmの最大トルクを発生する。

カーボン製エンジンカバーに誇らしげに輝く「V12 TWIN TURBO」の文字。

5.2リッターV12ツインターボエンジンをフロントミドに搭載する新型ヴァンキッシュ。最高出力835PS(614kW)、最大トルク1000Nmを発生する。

ベースは、ヴァンキッシュと入れ替わるようにディスコン(生産中止)になったDBSの5.2リッターV12。

ただし、シリンダーブロックとコンロッドはさらに強化。さらに、シリンダーヘッド、インテーク、エグゾーストのポートを再設計。スパークプラグの位置を見直し、プロファイルを最適化したカムシャフトと、性能アップしたインジェクターを入れている。

加えて、2基のターボチャージャーも、新型ヴァンキッシュのためにチューニング。タービンの慣性を抑えることで、アクセルペダルを踏み込んだときのスロットルレスポンスが向上したという。以前のものより15パーセント回転速度が上がっているそうだ。

だが、顧客が多気筒エンジンを欲しがっているのと同時に、燃費や騒音といった規制への対応は避けては通れない。これが12気筒エンジンを再設計した理由だ。

ではこのエンジンでもって、ここから12気筒アストンマーティンの新しい時代が始まるのか。そう確認すると、ロング氏は首を横にふる。

「今回の12気筒エンジンは、ヴァンキッシュ専用です。ヴァンキッシュは私たちが手がけるGTの頂点に位置するモデルなので、その下にくるモデルに、同じ12気筒を搭載する予定はありません」

ロング氏は明言しなかったが、今後、DBXのようなモデルはハイブリッド化が進み、いっぽうで、多気筒プラグインハイブリッドシステムを高価なシャシーにミドシップしたヴァルハラやヴァルキリーのようなハイパースポーツカーも登場。そして新開発の12気筒エンジンと、アストンマーティンのラインナップは多様化が進むことになる。

甘美な誘惑に満ちた新型ヴァンキッシュ

FRスポーツカーならではの美しい「ロングノーズ・ショートデッキ」デザインを採用する新型ヴァンキッシュ。

で、サルディニア島で乗ったヴァンキッシュは、パワフルでよく回る新しい12気筒エンジンの魅力を堪能させてくれた。アストンマーティンではヴァンキッシュを「あくまでも(快適性も高い)GT」といい、長い距離の移動などにも使える万能ぶりをうたう。

実際にドライブすると、12気筒を味わいつくすために、新しいヴァンキッシュは作られたんじゃないかって気すらしてくる。

たとえば、そんなに大きくないカーブが連続する道では、ばっと加速して、カーブの手前で強めにブレーキを踏んで、そのまま途中まで回って、そのあとアクセルペダルを踏んでいき再加速、という一連の作業が、強力なブレーキや正確なステアリングやしっかりしたサスペンションに支えられていると強く感じる。

12気筒エンジンを、このように、ほかのすべてのハードウェアがしっかりサポートして、たぐいまれな操縦性(と味わい)をドライバーに提供してくれる。

ドライバーとの一体感が強いので、幅員が広くないサルディニアの道を走っても、不安感はまったくない。乾いた排気音とエンジンからのメカニカルノイズを耳にしながら、アクセル、ブレーキ、操舵と、操縦をこなしていくのは快感以外のなにものでもなかった。

伝統とオマージュ

GTと呼ぶにふさわしい、スポーティかつエレガンスなインテリア。

12気筒エンジンを前車軸の後ろに置いたフロントミドシップのレイアウトだけれど、ダウンフォースや衝突安全性のためにロングフードを採用し、キャビンは後ろに後退。英国の伝統的なスポーツカーレイアウトをなぞったかのように、ドライバーはほとんど後車軸の上に座るようなポジションだ。

フロントのホイールアーチの後ろにエアアウトレットを設けたのは、1959年にルマン24時間レースで優勝したアストンマーティンDBR1へのオマージュと、アストンマーティンのチーフクリエイティブオフィサーであるマレク・ライヒマン氏は言う。

さらに、リアがほぼ垂直に裁ち落とされたようなスタイルは、62年と63年にルマン向けに開発したDP212、同214、さらに同215といったプロトタイプレーシングカーを思わせる。ヴァンキッシュではここにはめこまれたプレート(シールドと呼ばれる)は、色や素材をカスタマイズできるそうだ。

ストンと垂直に切り落とされたリアのスタイリングが特徴的な新型ヴァンキッシュ。

SPECIFICATIONS
アストンマーティン ヴァンキッシュ|Aston Martin Vanquish
ボディサイズ:全長4850×全幅2044×全高1290mm
ホイールベース:2885mm
車両重量:1774kg
駆動方式:FR
エンジン:5.2リッターV12ツインターボ
最高出力:835PS(614kW)/6500rpm
最大トルク:1000Nm/2500-5000rpm
トランスミッション:8段AT
最高速度:345km/h
0-100km/h加速:3.3秒
価格:33万英ポンド
https://www.astonmartin.com/ja

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