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最終更新日:2018.05.31 公開日:2018.05.31

【人とくるまのテクノロジー展2018】ホンダ、第2世代「N-BOX」のフレームに迫る

5月23日~25日に神奈川県・パシフィコ横浜で「人とくるまのテクノロジー展 2018 横浜」が開催された。内外の自動車関連会社597社がブースを出展、自社の技術をアピールした。ホンダは、2輪と4輪でそれぞれ1台ずつカットモデルを展示。2輪の「ゴールドウイング ツアー」についてはこちらで紹介したので、ここでは2代目「N-BOX」のフレーム(基本骨格)を紹介しよう。

ホンダの2代目「N-BOX」のフレーム。左タイヤハウスから前席フットスペースの辺りを撮影。展示用に青く塗られたフレームは2代目「N-BOX」のフレームにおけるポイントのひとつで、助手席下に見えている二股に分かれたトラス構造に注目。

 5月23日~25日に神奈川県・パシフィコ横浜で「人とくるまのテクノロジー展 2018 横浜」が開催された。内外の自動車関連会社597社がブースを出展、自社の技術をアピールした。

 ホンダは、2輪と4輪でそれぞれ1台ずつカットモデルを展示。2輪の「ゴールドウイング ツアー」についてはこちらで紹介したので、ここでは2代目「N-BOX」のフレーム(基本骨格)を紹介しよう。

2代目「N-BOX」は、初代の発売より6年ぶりとなる2017年9月に登場。日本自動車販売協会連合会の調査による2017年の新車販売台数で21万8478台を記録し、普通車・軽自動車合わせて1位を獲得した。「N-BOX」は軽自動車「N」シリーズのベースとなる車種で、2代目も同車が最初に発売され、それをベースとして「N-ONE」や「N-WGN」、そして新たにラインナップされる軽バン(軽貨物車)「N-VAN」などが開発されている。ホンダ本社(ウェルカムプラザ青山)前にて撮影。

2代目「N-BOX」のフレーム。上級車の考え方を応用した高効率フロアフレーム構造を採用しているほか、より高張力のハイテン材の割合を増やすなどして、軽量・高剛性化を徹底して開発された。2代目「N-BOX」は初代より約80kg軽量化を達成しているが、その大きな要因となっているのがフレームである。このフレームでは青い部分のほか、赤い部分、フロアなどの紫の線など、色のついた部分があるが、今回の展示ではポイントとして紹介されていた。

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フロントフレームに設けられた軽量化のための工夫!

二股に分かれたトラス構造フロントフレーム

 前端から前席のフロア下まで伸びているのが、二股に分かれるトラス構造を採用したフロントフレームだ。この二股構造は、前面衝突時の衝突エネルギーをフロアクロスメンバーとサイドシルフレームに分散・吸収させるためのものだ。

 初代では、サイドシルフレームと、その内側の前後方向に走るフロアフレームの両方で衝突エネルギーを分散・吸収をしていた。しかし、2代目はトラス構造フロントフレームを採用したことで前後方向フロアフレームがいらなくなり、軽量化に寄与したのである。

トラス構造フロントフレームのアップ。助手席側のフロアパネルの一部が外されており、青く塗られたフロントフレームの二股に分かれる部分を見られるようになっていた。

上が2代目「N-BOX」のフレームで、下が初代のもの。前面衝突の場合、初代は外側のサイドシルフレームとその内側のフロアフレームの前後方向に走る2本のフレームで分散・吸収していた。2代目ではフロントフレームにトラス構造を採用して衝撃を2方向に分け、二股の内側に向かうフレームはフロアクロスメンバーに伝える構造。これにより衝突安全性能を確保できたことから、フロアフレームは取り外され、軽量化に大きく貢献した。ホンダ公式資料「N-BOXプレスインフォメーション」より。

トラス構造フロントフレームは、フレーム前端から始まって、このようにタイヤハウスのすぐ内側を通り、二股に分かれたあとにフロアクロスメンバーにつながる。

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6年の間に材料工学も大きく進歩した!

“超”高張力鋼板は0%から一気に11.7%に!

 近年のクルマのフレームでは、ハイテン材とも呼ばれる高張力鋼板が多く使用され、さらにその引っ張り強度が上がり続けている。同じ強度を薄くても確保できることから軽量化に非常に有効で、ニューモデルになればなるほど、より引っ張り強度のある高張力鋼板が多く使用されるようになっている。

 2代目もその例に漏れず、初代では採用されていなかった引っ張り強度1180MPa級の超高張力鋼板も採用され、その割合は11.7%に及ぶ。しかも、1180MPa級は軽くて強いことのデメリットとして成形が難しいにもかかわらず(従来は内部の補強材として主に使われてきた)、2代目では世界初となる(2017年8月、ホンダ調べ)センターピラーのアウターパネルとして採用された。

 そのほか、1180MPa級は2代目の特徴である細いフロントピラー(初代82mm→2代目55mm)やトラス構造フロントフレームの二股側でつながっているフロアクロスメンバーなどにも採用されている。

 さらに、980MPa級は15.9%、780MPa級は19.1%といった具合で、一気に高張力化が進んだ。初代は780MPa級以上の割合は15.4%だったが、2代目は46.7%と半分近くまで割合を大きく高めている。これにより、2代目はフレームだけで約15%の軽量化を達成した。

引っ張り強度1180MPa級の超高張力鋼板が採用された、センターピラーのアウターパネル。これまではドライバーには見えない、内部の補強材に使われていたが、成形の工夫がなされ、こうして目に見えるパーツとしても使われるようになった。

初代と2代目の高張力鋼板の適用比率の比較。初代は270MPa級が39.7%と最も多く、次いで590MPa級が35.2%。それが、2代目は270MPa級こそ35.2%と若干減ったが変わらず1位のままではあるものの、590MPa級は7.0%と大きく割合を減らした。780MPa級が14.2%増、980MPa級が5.4%増、そして1180MPa級は0%から一気に11.7%になった。ホンダ公式資料「N-BOXプレスインフォメーション」より。

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フレームの各パーツをつなぎ止めるのも重要!

高剛性化のカギその1:シーム溶接

 1180MPa級の超高張力鋼板を採用したところで、それをほかのフレームとしっかりと溶接したり接着したりできなければ、剛性の確保は叶わない。そこでホンダが採用した溶接方法が「シーム溶接」だ。”シーム”とは「縫う」の意味で、ローラー状の電極でもって連続的に溶接を行う方式のことである。

 このシーム溶接は、2017年8月時点で、軽乗用車としては初めてドア開口部に採用され、高剛性化に大きく貢献したという。

1180MPa級の超高張力鋼板のセンターピラーのアウターパネルを拡大したところ。黄色のラインが、シーム溶接が行われたポイント。

シーム溶接が行われたポイント。前ページで紹介した1180MPa級の超高張力鋼板のセンターピラーのアウターパネルで多く用いられており、1180MPa級という引っ張り強度の実力を十分に発揮できるようにした。ホンダ公式資料「N-BOXプレスインフォメーション」より。

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つなぎ止めるのに活躍しているのは溶接だけではない!

高剛性化のカギその2:高粘度接着剤

 シーム溶接と同時に、高剛性化の重要なポイントとなっているのが、フロア周りのフレームの接合に用いられた、高粘度接着剤だ。フロアクロスメンバーなどの接着に用いられており、接合面積を広くすることで高い剛性を実現した。

フロアの紫のラインが、高粘度接着剤が使用された部分。

高粘度接着剤の使用部位。接着剤が使われているのはフロアクロスメンバーなどがある部分。ホンダ公式資料「N-BOXプレスインフォメーション」より。

上図より高粘度接着剤の使用部位を削除した、フロアの上面画像。フロアクロスメンバーなど、接着剤が使われている部分に、フロアクロスメンバーなど、クルマに対して横方向に走るフレームがあるのがわかる。ホンダ公式資料「N-BOXプレスインフォメーション」より。

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フレームを複数の角度から紹介!

クルマのフレームは現代の工芸品だ

 最後は、フレームを別の角度から紹介しよう。

フロント部のアップ。フロント部分は衝突事故の際にクラッシャブルゾーンとして働くため、エンジンの後退量を増加させて、衝撃吸収ストロークが確保された。また、今回はドアの展示はなかったが、前面衝突の際は、トラス構造フロントフレームだけでなく、フロントドアにも衝撃エネルギーを分散・吸収させる「ドアロードパス構造」が採用されており、キャビンの変形の抑制に貢献している。

フレーム内、運転席側から。なぜ真っ平らな面がなく、あらゆるフレームの面に複雑な凹凸が設けられているかというと、強度を上げられることに加え、単純な面よりも振動によるノイズを抑えられるからだ。もちろん、各種メカニズムを収容するために必要があっての凹凸もある。

後方から見たところ。これだけ複雑な形状をしていると、もはや芸術作品。現代の工芸品として、展示施設に飾るだけの価値があると感じるのは筆者だけだろうか。

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