雨の強さでさまざまな危険要因が発生|長山先生の「危険予知」よもやま話 第39回 | KURU KURA(くるくら)

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公開日:2026.07.13

雨の強さでさまざまな危険要因が発生|長山先生の「危険予知」よもやま話 第39回

雨の日に横断歩道を通過する場面。どんな危険があるでしょうか?

JAF Mate誌の「危険予知」を監修されていた大阪大学名誉教授の長山先生からお聞きした、本誌では紹介できなかった事故事例や脱線ネタを紹介するこのコーナー。今回は雨天時に視認性を低下させるピラーの死角や窓の汚れの話から、運転中に何を見て、何を考えているのかという意識の問題を、興味深い実験結果とともに話していただきました。

雨の日に横断歩道を通過する場面。どんな危険があるでしょうか?

話=長山泰久(大阪大学名誉教授)

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雨の強さでさまざまな危険要因が発生

編集部:今回は雨の降る夕方、信号のない横断歩道を通過しようとしたところ、右側から横断してきた歩行者を見落としてしまうというケースでした。雨天時は窓の水滴で視界が悪くなるので、より注意が必要ですね。

雨の降る夕方、横断歩道を通過しようとしています。

雨の降る夕方、横断歩道を通過しようとしています。

横断歩道を通過しようとしたところ、右側から女性が渡ってきて事故になるところでした。

横断歩道を通過しようとしたところ、右側から女性が渡ってきて事故になるところでした。

長山先生:そうですね。夕方は会社や自宅に戻ろうと急ぐことも多いでしょうし、雨による視界の悪化や路面の滑りやすさなど、運転するのに嫌な条件が重なるので、できるだけ早く運転から解放されたいという落ち着かない気持ちも生まれます。運転に必要な情報の取得、十分な確認がおろそかになるような心の状態でしょう。

編集部:なるほど。単に雨で視界が悪化するだけでなく、心理的にも十分な安全確認ができなくなる危険性があるのですね。

長山先生:そうです。そんな心理に加え、問題の場面はちょうど左右の歩行者が横断歩道を渡り終える瞬間で、自分にとって横断歩道を通過するのに良い条件になりました。良い条件のうちに進んでしまおうという気持ちが先立つと、十分な確認がおろそかになってしまいがちです。

編集部:そんな心理状況ですと、今回のようなワイパーの拭き残し部分にわずかに見える傘には気づきようがないですね。夕方で暗くなり始めているので、さらに見落とす可能性がありますね。

長山先生:おっしゃるとおり、夜間はフロントガラスについた雨で光が乱反射して視界が悪くなるうえ、フロントガラスの右端部分はワイパーが拭き取れないので、雨とほこりが残って透視性が悪くなっています。また、右側のAピラー(柱)の死角にも注意しないといけません。

編集部:Aピラーというと、運転席から見たとき、フロントガラスの両側にあるピラーのことですね。

長山先生:そうです。Aピラーは左右に1本ずつありますが、死角の大きさは左右のピラーで異なります。運転席側のピラーのほうが助手席側のピラーに比べて死角が大きく、歩行者などを見落とやすくなります。

編集部:ピラーの太さは同じなので、死角の大きさも同じかと思いますけど、違うのですね。

長山先生:死角の大きさは、ボールペンなどを目の近くに置けばわかります。片目をつぶり、見えるほうの目の前にボールペンを立てた状態で置いてみてください。すぐ目の前にボールペンがあるので、背景はボールペンでかなり隠れるはずです。そのままボールペンを目から遠い位置に離していくと、見える範囲が広くなっていくはずです。

編集部:なるほど。障害物が目の近くにあるほど、視界を覆う量が多くなるので、それだけ死角が大きくなるのですね。

長山先生:そういうことです。右側のピラーの死角というと、交差点を右折する際に気になることが多いですが、右カーブでも気になることがあります。私が住む住宅街に2車線道路の右カーブがあり、そこを走っていると、対向車線の一部がずーっと死角に入った状態で走り続け、いつも不安を感じます。

編集部:実家の近くにも同じようなカーブがあり、道が狭いので、対向車の発見が遅れないように顔を左右に振りながら走っています。雨天時ですと、さらにワイパーの拭き残しで見えづらくなるので危険ですね。

長山先生:ちなみにドイツの教本には、フロントガラスに砂ぼこりや汚れが残っていたり、ワイパーの拭き残りがある場合には、運転する前に必ず清掃しておく点が書かれていましたが、それとともにヘッドライトの清掃の必要性も取り上げられていました。

ドイツではヘッドライトの清掃を重視?

編集部:ヘッドライトの清掃ですか? 日本の学科教本ではそういった記述は見たことがないですね。そういえば、以前乗っていたドイツ車にはヘッドライトウォッシャーという、ヘッドライトの汚れを取る装置が付いていました。ライトが汚れていれば、ライトの照度も低下するのでしょうけど、その必要性を感じたことはなく、使ったことはありませんでした。

長山先生:ドイツのアウトバーンなど、ヨーロッパでは高速で長時間走行することも多いので、前車が巻き上げた泥やほこりでライトが汚れることがあるでしょうし、夜間走っていると、ライトの光に虫が集まり、けっこう付着するので、光量が落ちるのかもしれません。夜間の視界確保には案外必要かもしれません。

編集部:なるほど。日本でも高速走行したあと、ボンネットに虫がたくさん付着していることがありますね。ライトの光量が落ちるほど虫が付くとは想像しづらいですが、少なからず光量に影響するでしょうね。

長山先生:走行速度も違うですし、ドイツで有名な「黒い森」など鬱蒼(うっそう)とした森の中を抜けるルートも少なくないので、ヘッドライトの汚れは日本の比ではないのかもしれません。

編集部:たしかに走行速度の差は大きいですよね。雨天時は高速になればなるほど、ワイパーも早く動かさないと視界が確保できませんから。

長山先生:おっしゃるとおり、強烈な雨量の場合、ワイパーを最大にしても雨粒を拭えず、前方の状況はまったく把握できなくなり、危険極まりない状況で運転することになります。普通の雨量でも、水たまりがあると、前車や対向車が巻き上げた泥水がフロントガラスに叩き付けられ、瞬間的に視界が閉ざされてびっくりする場合があります。そんな場合も事前にワイパーの速度を早くして、すぐ拭き取れるようにすることが必要です。

編集部:事前にガラスに塗ることで、水滴がすぐ落ちて視界を確保する撥水剤もありますけど、ワイパーはなくなりませんね。進化していないわけじゃないでしょうけど、昔から変わらないですね。

長山先生:そうですね。雨の降り始めや弱い雨の場合、間欠的にワイパーを動かしただけですと、窓の汚れや不純物を十分拭き取ることができないので、ウインドウォッシャー液を使って残った汚れをすべて排除することが必要ですし、ワイパーの拭き取る部分はゴムでできているので、劣化するとキュッ、キュッと音がしたり、拭き残しが生じて視界の劣化につながることもあります。定期的にゴムを取り換えるなど、メンテナンスにも関心を持つ必要があります。

編集部:大雨が降ると視界が悪化するだけでなく、道路が冠水することもありますね。

長山先生:道路が冠水するほど雨が強いと、車線が見えず、どこを走っているかわからなくなり、非常に不安になるものです。私は初めて訪ねた大学の駐車場で、冠水していたので停める位置がわからず、溝に落ちてしまって大変な思いをした経験があります。

編集部:それはたいへんでしたね。初めての場所だと、側溝があることすら知りませんからね。

長山先生:そうです。「このへんに側溝があった」と意識していれば、避けられたかもしれませんが、まったくその意識がないと注意しようがありません。実は、運転中は何に意識しているかがとても大切なのです。

3割が運転中に先行車を注視!

長山先生:「運転中にどのようなことを意識しているか?」「どのようなことを意識しながら運転しているか?」を考えたことがありますか? 前方を中心として、左右・後方にも注意を払って運転することと教えられたでしょう。本当に運転に必要なことだけに意識を集中して運転しているのでしょうか?

編集部:運転中ですか? 前車との車間距離や自転車の動きとか、運転に必要な注意はもちろんですが、それとは関係のないことも考えていると思います。

長山先生:私が運転中の意識に関して問題を感じたきっかけは2つありました。1つは交通事故の分析をしていて追突の原因に最も多い「脇見」の内容を詳細に分析すると、第24回の「よもやま話」で述べましたが、さまざまな運転以外のことに注意を取られ、それを意識していることが原因だとわかったためです。もう1つは、私の毎日の運転からの経験でした。私は運転をする時に英語のリスニングの練習として、毎日通勤時に英語の物語のテープをかけ、それを聴きながら運転していた時期がありました。同じ内容の話を何回も聴くことになり、話の内容がわかっている部分は運転中にその話を聴いて理解した部分であるわけです。これまで何回も聴いているのに、この話初めて聴くと思う部分があったりするのですが、その部分は運転に集中していて聴いていなかった部分であったのでしょう。このように運転中には運転に集中している時と、テープを熱心に聴いている時があるのだとわかったのです。

編集部:リスニングの話は面白いですね。交差点を通過する時などは、どうしても信号や周囲の車に意識が行きますから、リスニングの話は頭に入りませんよね。

長山先生:そのとおりです。そこで、私は運転中の意識を対象とした実験を行ってみました。ブザーが1~5分の間にランダムに鳴る録音テープを作成し、ブザーが鳴った時に「見ているもの」「気にかかっていること」「考えていること」について報告するよう運転者に求めました。同時に車内から前方を撮影しているビデオテープに前方の情景と並んで運転者の報告が記録され、それを分析しました。

編集部:実際に走行しながらやったのですね。

長山先生:そうです。被験者は大阪大学で私の講義を受講している学生でしたので、一般の運転者と違った側面があるかもしれませんが、運転中に運転者は何を気にしているか、何を考え意識しているかについての傾向は理解できたと思います。この研究は大阪大学人間科学部の女子学生の卒業論文として指導したもので、運転中に何を見ていたかの注視対象を分析した結果、表1のようになりました。

【表1】

【表1】

報告された注視対象としては、自動車が半数以上を占めていますが、そのうちの33%は先行車でした。運転と関連のある対象と関連のない対象に分けると、85%対15%になり、運転中のほとんどは運転と関連のある、自動車・歩行者・道路状況・標識・標示などで、関連のないものとしては、車内のものが意外と多く、次は風景一般でした。

編集部:意外と言っては失礼ですが、けっこう運転に集中していたのですね。

長山先生:そうですね。被験者の学生はふだんそれほど運転しているわけではないので、運転するのに一生懸命だったのかもしれません。運転中の意識内容は、表2に示したとおりです。

実験中でも「ぼんやり」状態が1割!

【表2】運転中の意識内容(1 - 3は運転関連内容、4 - 8は運転非関連内容)

【表2】運転中の意識内容(1 - 3は運転関連内容、4 - 8は運転非関連内容)

編集部:1から3の上位3つが、運転に関連した内容ですね。

長山先生:そうです。1から3を合計すると46%でした。一方、4から8は運転と関係のないことを意識していた割合で、こちらは42%に上りました。

編集部:46%と42%ですか? ほとんど変わらないですね。

長山先生:そうですね。いつも運転のことを考えているわけでなく、さまざまなことを意識しながら運転していることがこの結果からわかります。

編集部:それ以外の9は「なし」で、“何を考えていたかわからない”という人が1割以上いたということですね。

長山先生:実験状態で何かを答えなければならない状況なので、緊張状態とも言えます。そんな状況での結果ですから、普通の運転ではぼんやり状態がもっと多いと考えるのが妥当だと思います。また、道路状況や走行状況で意識していることが異なっていて、高速道路流入時や車線変更時、交差点右左折時などでは運転関連内容が多く、信号待ち状態や渋滞状態、安定走行時では運転非関連内容が多くなっていました。

編集部:合流したり右左折する際はいろいろ注意する必要があるので、ぼんやりしているわけにはいきませんけど、停止中なら他のことを考える余裕がありますね。

長山先生:そのとおりで、状況を把握しなければならない場面では、運転に必要なことを見て考えていますが、状況に変化がない状態では運転とは関係ないことを考えていることが多くなっていました。私自身が実験の被験者となり、ブザーが鳴ったときに考えていた意識について示してみましょう。

長山の報告
近畿自動車道摂津北IC手前鳥飼大橋上を北進中の報告です。
「道路端のコンクリートに目がいっていて、特に何も見ていなかった。運転しながら考えていたことは、今度のゼミの見学会では学生をどこに連れて行こうかということである。ずーと手前のS社の冷蔵庫の看板を見て、去年は冷蔵庫の製造工場に行ったけど、今度はどうしようかなと考えていて、以前、T自動車メーカーに行ったが、今回はH社の鈴鹿工場に頼んでみようか。そのついでに鈴鹿の教育センターの見学も兼ねて、さらにサーキットを走らせてもらおうか。学生たちもきっと喜ぶだろうな」
高速道路で前後に車も走っていない状態だったので、冷蔵庫の看板がきっかけとなって、いろいろな連想・思い出が連なって出てきたものです。

編集部:実験中でも高速道路で車が少ないといろいろ考えることができますね。

長山先生:そうですね。運転中には何も考えない状態もありますが、運転以外のことを意識していることが多いものです。そんな場合でも運転に関する注意が必要な状態になったら、即座に意識が切り換えられて必要なことを確認しながら運転することになります。皆様も運転中の意識はどのような状態なのかを考えながら、運転していただきたいと思います。

『JAF Mate』誌 2018年7月号掲載の「危険予知」を基にした「よもやま話」です。

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