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最終更新日:2016.10.14 公開日:2016.10.14

【CEATEC2016特集・動画】ギネス認定のオムロン卓球ロボの実力は!?

SF映画に出てきそうな巨大さの「フォルフェウス」。歩きそうだが、さすがに歩行機能はなし。

 10月4日から7日まで、幕張メッセで開催された日本最大級の総合家電展示会「CEATEC2016」。

 オムロンは、同展示会において、同社が体験型デモンストレーション用として開発した「フォルフェウス(FORPHEUS)」の、「世界で最初の卓球コーチロボット」としてのギネス世界記録認定授与式をプレスに公開し、また同社ブースにおいて同ロボットの実機デモンストレーションを実施した。

 フォルフェウスは、同社独自の未来予測理論「SINIC理論」に基づいたロボット技術という意味の「Future Omron Robotics technology for Exploring Possibility of Harmonized aUtomation with Sinc theoretics」の頭文字を取った名称となっている(「E」の位置が英文とFORPHEUSとでは異なる)。

 また、「向かう」を意味する「For」と、人間の創造性を象徴するギリシャ神話に登場する吟遊詩人の「ORPHEUS(オルフェウス)」という意味も併せ持っており、人間の創造性に向かっていく同社の姿勢を表現しているという。

 2013年に北京で開催されたプライベート展示会で初代が初公開され、15年に2代目となり、同年に名称の公募が行われてフォルフェウスに決定。そして現在は最新の3代目で、2016年1月にギネス認定を受けたというわけだ。

ギネス認定式の様子。

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気になるフォルフェウスの見た目は想像以上にごつかった!

SF映画に出てきそうな巨大さで迫力満点!

 卓球という競技からコンパクトなロボットをイメージするかも知れないが、実際はその真逆で、写真の通りでかなり巨大だ。

 全高はなんと2.7m、横幅も2.2m、胴回りに至っては約7m、そして重量はライトウェイトなクルマとそれほど変わらない800kgというヘビー級である。この体格と重量は、パラレルリンク型のロボットハンドを安定して動かすために必要なものなのだそうだ。

 特徴のひとつとなっているのが、同ロボットの構成パーツとして、同社のさまざまな製品がそのまま活用されていること。フレームなどを除けば、コアとなる装置はすべて同社製品を組み合わせて設計されている。

 3代目で使用されているのは、産業用カメラが2台、産業用コントローラ、ロボットハンド、サーボモータが5台(5軸)、予測制御プログラムとなっている。

 これらを用いることで、「対戦相手の位置と球の動きを1秒間に80回計測、球の軌道を予測して打ち返し、球の到達点も映し出す」ことで、「最初の卓球コーチロボット」として「ギネス世界記録 2017」に掲載されたというわけだ。

3代目はディープラーニング技術を搭載

 ハードウェアは同社の製品が用いられているが、ソフトウェアに関してはもちろん異なる。3代目には、同社独自のAI技術「時系列ディープラーニング」を、フォルフェウス用に応用したものが実装されている。

 このAI技術は2か所で利用されている。ひとつ目が、対戦相手とのラリーにおいて、返球する際の制御パラメータの学習用だ。これによってロボットハンドの制御をより緻密に行えるようになり、結果として返球の精度も大幅に上がった。

 さらに、画像認識による球の3次元認識精度も向上したことで、2代目の返球精度の±10cmに対し、その倍の正確さの±5cmを実現した。

フォルフェウスの顔。まるで3本足で動いて光線で攻撃してきそうな雰囲気。

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もうひとつのAI技術が使われているのはココ!

対戦相手の卓球のレベルを3段階で瞬時に判別!

ロボットアームはパラレルリンク方式で、食品加工の現場などで使用されているタイプ。

 そして、もうひとつのAI技術は、対戦相手の特性を判別するのに用いられている。ラリーをすることで、球の座標(軌道の描き方)と速度、対戦相手の位置や動作の速度(フットワーク)、手の動かし方や速度、そしてターン数などから、対戦相手の卓球のレベルを初球、中級、上級の3段階に瞬時に判別。その精度は90%だという。

 そして対戦相手のレベルを判別することで、フォルフェウスは返球の仕方を大きく変えていく。初級者が相手の場合はラリーが続きやすいようにゆっくり返球し、上級者にはさらに上達するように速く返球、しかも返球する位置もランダムに変えていくのである。

 このように対戦相手のレベルに合わせた返球を行うことで、対戦相手のレベルを上げると同時に、自らも経験値を増やして、互いの成長を図るという仕組みだ。ちなみに対戦後には、対戦相手の実力を高めるコーチングや、対戦相手の実力の評価などを画面で表示してくれる仕組みも用意されている。

フォルフェウスの制御系。これらハードはすべて同社の市販品で構成されている。

フォルフェウスは人と機械の融和の度合いも判定!

 また対戦相手の特性を判別する一環として、「融和の度合い」判定も行う。対戦相手の成長、エキサイト、笑顔の度合い、そして対面している時間、またフォルフェウスに機械的にかかっている負荷の度合いなどから、「人と機械がお互いに歩み寄る過程」を、0~100の「融和度」で表現。人と機械がお互いに成長していることを実感できるようにしたとしている。

 その融和の度合いにかかわる仕組みとして、若干ながらフォルフェウスにはリアルタイムで意思を表示したりアドバイスを行えたりする仕組みも用意されている。卓球台のネットがディスプレイになっており、対戦相手が見やすいよう作られているのだ(同じ内容が大型モニターにも表示されるので、観客も見て取れる)。

 内容としては、相手のサーブをほめたり、上手だからペースを上げたりすることをメッセージとして表示する。ちなみにフォルフェウスが失敗したときは、お詫びもする。フォルフェウスのメッセージは、次ページに掲載した動画でも見ることが可能だ。

対戦終了後には、評価を初め、さまざまな情報を表示してくれる。

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フォルフェウスの実力ははたして!?

フォルフェウスは球を100%返球可能か?

 さてここまでの紹介で、フォルフェウスは卓球コーチロボットというぐらいだから、人では到底不可能な反射速度と正確無比な球の軌道計算で、どんなコースだろうと100%打ち返すイメージを持った人もいるのではないだろうか?

 実をいうと、見ていた限りでは、フォルフェウスも空振りしたりきちんと返せなかったりというようなことも珍しくはなかった。ただし、初級者が相手の場合だとそういう場面が多いようだ。

 当たり前だが、ロボットアームの可動範囲を越えるような軌道の球は返球できないため、初心者にありがちな山なりのホームラン軌道とかは打ち返してもらえない。

 上手な人がフォルフェウスが打ち返しやすいコースに打ち返しやすい速度で打ってあげれば、相当ラリーが続くので、初級者が変な軌道の球ばかり返していたりすると、いくらフォルフェウスでも拾いきれない、という感じのようだった。そこら辺は動画でも確認してもらえるはずだ。

フォルフェウスが卓球を行う様子。あまりうまくない対戦相手だとフォルフェウスでもフォローしきれないが、上手な人が相手だと、かなりラリーが続くのがわかる。

選手の本気の攻撃はどれぐらい返せるのか?

 フォルフェウスは、上手な人のきちんとした返球はまず確実に返せるわけだが、もし学校の部活で何年もやっていたり、社会人でも大会によく出るようなアスリートといった「選手」が、もし点を取るために本気でスマッシュを打ち込んできたり、カットボールなどを使ってきたらどうか? 実は、さすがに打ち返すのは難しいという。

 あくまでも、フォルフェウスが判定する初級~上級とは、厳密には「卓球の経験があまりない、もしくは全然ない人の中で」なのだ。

 よって、オリンピッククラスの、例えば福原愛選手と勝負したらどっちが強いかというと、普通に試合をしたら残念ながら勝てないそうである。

 何しろ、フォルフェウス自身は卓球専用に設計されたアームではないため、返球をする以外の、スマッシュなどの攻撃的な動きをさせるのが難しい。

 要は、よくても、選手が打ち込んでくる球を何とか返して粘り続けて選手のミスを待つ、という消極的な防戦一方の戦い方しかできないというわけだ。

 そもそも、フォルフェウスは人と協調することを目的としているので、「勝負」はそれに反するため、設計コンセプトとしてそうした「点を取りに行く」ような要素は考えられていないというのもある。

 つまり、フォルフェウスは人が打ち負かすための存在ではなく、人との共同作業でもって、ある意味、「どれだけ協力してラリーを続けられるか」を目標としているロボットというわけなのだ。

ラケットを握っているアーム先端の拡大画像。

将来は日本代表を鍛えられるレベルに!?

 このように、今のところは選手たちとの「勝負」には太刀打ちできないわけだが、これがミリ単位で返球できる精度を身につけたり、スマッシュできたり、カットボールなども繰り出せたりするようになっていくと、選手の技術を上達させることも可能になってくることだろう。

 選手を鍛えて、大会で好成績を残させるというのは、広い意味では人との共同作業になるはずだ。なので、オリンピックの卓球で日本に金メダルラッシュを実現させるという目標もありだろう。

 さすがに、同社ではそこまでの計画は今のところはないそうだが、いつの日かフォルフェウスが卓球日本代表コーチロボットとして採用されるまで、ぜひその能力を進化させてもらいたいところである。

2016年10月14日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)

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