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最終更新日:2021.07.30 公開日:2021.07.30

実現間近か? 自走ロボットによる宅配サービスがもたらす近未来の日常とは?

ワクチン接種でコロナ禍も収束の兆しが見えたかと思いきや、変異株の蔓延でその先行きは今もなお見通せない状態にある。そうした中、接触防止という観点から注目が集まるのが「宅配ロボット」だ。政府は2021年度中に自動配送ロボットの公道使用を認める方針を示し、ここへ来て実用化に向けた動きが加速しつつある。果たして日本で宅配ロボットは普及するのか、その活用例と将来に向けた課題についてレポートする。

文=会田 肇

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先が見通せないコロナ禍にあって、非接触による配送を可能とする宅配ロボットの存在に注目が集まっている。写真は楽天×西友による実証実験(筆者撮影)

省人化対策だけじゃない!
非接触サービスとして注目される宅配ロボ

 コロナ禍は多くの業界に多大な影響を与えたが、その中で活況を呈している業界の一つが”宅配サービス”だ。感染防止の観点から自宅で注文する巣ごもり需要が急激に増えたことが要因だが、今や都市部ではフードデリバリーを日常的に見かけるようになったし、最近はタクシーまでもが同様のサービスに乗り出している。注文先もレストランだけにとどまらず、コンビニやスーパーの配送を依頼する事例も増えているという。

 しかし、これらのサービスはすべて人を介するわけで、そのやり取りの中で接触はどうしても発生する。空港などでの車いすサービスも、人の手によって目的地まで移動せざるを得ない。そうした中で、ロボットによる完全自動配送サービスに注目が集まっているのだ。このサービス、元々は増加するEC需要による宅配業者の過酷な労働環境を少しでも緩和するために開発されたものだが、コロナ禍がそうした状況に新たなメリットを見出したというわけだ。

 すでに海外では宅配ロボットによる実用化を指定エリアで実現しているが、日本では2019年9月に経済産業省主導で「自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会」が設立され、2020年度からNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス実現に向けた技術開発事業」をスタート。これをきっかけに各社が実証実験に乗り出した。これが日本における宅配ロボットの現況だ。

ZMP×ENEOS
「自動宅配ロボット『DeliRo』デリバリー実証実験」

ZMPの実証実験。ZMPが開発した宅配ロボット『DeliRo(デリロ)』をENEOSのSSに配備し、エニキャリの注文・宅配プラットフォームで注文品を一般消費者へ配送した(ZMP動画よりキャプチャー)

 まず紹介するのが、今年2月に自動運転やロボット等を開発するZMPが手掛けたもので、東京都中央区の佃・月島エリアにおいて実証実験が実施された。ここで使われた宅配ロボットはZMPが開発した『DeliRo(デリロ)』で、2台をENEOSのSSに配備し、エニキャリの注文・宅配プラットフォームを用いて注文品を一般消費者へ配送した。

 デリロ本体には4つの収納ボックスが用意され、一度に最大4種類の荷物を収めて運ぶことが可能。ユーザーは注文時に送られてきたQRコードによって扉を開けることができるため、最大4件の注文に対応可能だ。その意味では小口の配送にも対応できるメリットがある。店舗の商品を公道を走行して自走ロボットが配送するのは国内初の取り組みとなった。

利用者はブラウザベースの専用サイトから注文。送られてくるQRコードを『DeliRo(デリロ)』にかざすと該当する扉が開いて注文品を受け取れる(ZMP動画よりキャプチャー)

宅配ロボット『DeliRo(デリロ)』には4つの仕切りがあって、一つの配送で4つの注文品に対応できる(ZMP動画よりキャプチャー)

 この実験でデリロは歩行者と同レベルの速度、4km/hで歩道を走行し、エネオスが運営するDr.Drive月島SSから約800m離れたリバーシティ21マンション群まで15分程度で注文品を配送した。車両はシニアカーと同じ”みなし歩行者”と同じカテゴリーで扱われ、走行時は保安要員として一人が随行した。

 この実験の実施に当たって課題となったのは、本来なら原付第1種に該当するデリロの取り扱いだった。しかし、ZMPは佃・月島エリアで自動運転一人乗りロボ『RakuRo(ラクロ)』での公道走行を先行して実施しており、ZMPによれば、「このラクロでの実績が警察庁に評価され、デリロも”歩行者”と同様の認定を受けることができた」という。

楽天×西友
「自動配送ロボットによる商品配送サービス実証実験」

パナソニック製宅配ロボットを使い、楽天×西友とコラボした実証実験。楽天ペイサイトで注文したものだけでなく、スーパー内で買い物したものも自宅まで配送してくれる(筆者撮影)

 もう一つは楽天が神奈川県横須賀市で実施した実験。こちらは今年3月に、楽天と西友および横須賀市が「西友馬堀店」で行った宅配ロボットのサービスだ。配送対象としたのは、西友馬堀店で購入した商品と、もう一つは楽天ペイ注文サイトから申し込んだ商品。これらをそれぞれ自宅まで自動配送ロボットが配送してくれるというものになる。

 サービス対象となった馬堀海岸地域は、戸建てが並ぶ閑静な住宅街。西友馬堀店は同じブロック内にあり、取材した日はこの区間を自動配送ロボットによって配送を行った。自動配送ロボットには周囲を常に監視するLi-DARやカメラを装備し、遠隔監視の下、4km/hでブロック内の公道を自律走行。車両はパナソニック製で、こちらは原付第1種ナンバーを取得して走行。保安要員が随行して実験が進められた。

楽天×西友の実証実験では遠隔監視しながら宅配ロボットの自動走行をサポートした。この日も前方に割り込んで停止した車両を避けるためにサポートを受けていた(写真提供:楽天)

楽天×西友とコラボした実証実験。注文品が届くと、あらかじめ伝えてある暗証番号を入力して受け取る。複数の注文には応じられないが、米や水などの重量物にも対応した(筆者撮影)

楽天は2019年7月より3か月間にわたって、東京湾唯一の無人島「猿島」でドローン配送サービスを実施した(写真提供:楽天)

 積載可能な容量はスーパーの買い物カゴ4杯分。区分けしての搭載はできないため、配達は1件ごとに行われる。生鮮食品や要冷蔵・冷凍食品、割れ物などは、ロボットに対応設備がないため対象外とした。しかし、米や水といった重量物も運べるため、特にクルマが使えない高齢者にとっては貴重な配送手段となったようだ。

 また、これに先立って楽天は2019年7月より3か月間にわたって、東京湾唯一の無人島「猿島」でドローン配送サービスを実施した。年間20万人が訪れるこの人気観光地で、対岸の西友LIVINで取り扱う約400品目の商品を注文して配送してもらえるサービスを実施。島内ではバーベキューなどをして楽しんだそうだ。また、21年1月には三重県志摩市にあるスーパーマーケット「マックスバリュ鵜方店」から、本土より約4km離れた間崎島まで、往復約11km間を自動制御により目視外飛行して商品配送も行ったという。

人搬送自動運転パーソナルモビリティ
「WHILL自動運転システム」

羽田空港国内線ターミナルで実施されている、人搬送自動運転パーソナルモビリティ「WHILL自動運転システム」。利用は誰でも可能で、利用料も無料(筆者撮影)

 人を目的地まで、無人ロボットが送り届けるサービスも始まった。昨年6月より羽田空港国内線ターミナルで実証実験を行っていた人搬送自動運転パーソナルモビリティ「WHILL(ウィル)自動運転システム」を本格運用へ移行させたもので、今年6月からはすでに第1ターミナルで運用中の6台と、第2ターミナルの3台の計9台を配備。7月中旬以降は両ターミナルそれぞれ12台ずつ計24台にまで拡大して運用している。高齢者や障害者だけでなく、健常者も利用でき、利用料は無料。提供時間は8~20時となっている。

 ここで使われる電動車いすは、すでに国内外でシニアカーとして利用されている『WHILL』をベースに、自動運転走行に対応させたもの。利用者は待機場所において、WHILLにあるディスプレイで目的地である搭乗口を指定すると、WHILLは歩行よりも少し遅い速度の2.5km/hで、随行員を伴わず自動走行し始める。WHILL背後には機内持ち込み荷物程度のサイズが載せられる最大10kgのカーゴスペースも用意されており、利用者は広い空港内を歩くことなく搭乗口へ向かうことができる。

 これまで車いすでの送迎を希望する場合は、乗客がその申し出を行い、係員が手押しして搭乗口まで送り届けていた。それに対してこのサービスでは特に申し込みをすることなく誰でも待機場所から利用できる。つまり、非接触で搭乗口までの車いす利用が可能となるわけだ。運行を担当する日本空港ビルディングでは、自動運転による車いすを空港内で使いたいというニーズに応えるほか、地上係員の負担軽減や省人化に加え、感染症に対するリスク低減の観点から車いすの自動運転化を積極的に進めていく考えだ。

WHILLのディスプレイで搭乗口を設定すれば、自走して搭乗口まで送り届けてくれる(筆者撮影)

WHILLをはじめ、宅配ロボットにも障害物に対する自動停止システムを搭載して安全を担保する(筆者撮影)

課題は多いが、宅配ロボットによる近未来の日常はすぐそこに

 これら目的地まで自動配送するラストワンマイルのサービスは、どのサービスも利用者からも概ね評価が高かったようだ。中でもコロナ禍によって宅配サービスが普及した今、人を介さない非接触配送となるロボット配送はもっと推進して欲しいとの声もあるという。とはいえ、実用化するまでには解決すべき課題もある。

 一つが現状では安全を担保するため、公道では随行者が欠かせない状態にあることだ。この状態のままでは省人化にはつながらず、設備投資だけが増えてしまう。その解決策として遠隔監視システムの導入があるが、今回の実証実験では楽天が実施していたものの、複数車両を同時にコントロールできなければメリットは生まれない。さらに無人で走ることへの社会的な受容性も無視できない。大勢の人が行き交う中を安全に宅配ロボットが果たしてスムーズに走行できるのか。悪意による障害の発生も考慮しなければならない。

 利用者側のデジタルリテラシーも普及に至るまでの壁となる。楽天のサービスでは唯一スーパーの窓口で受付できるものの、ここで紹介したサービスは基本的にPCやスマートフォンを利用して配送を依頼するのが基本だ。羽田空港の場合も利用者の大半が、スマホを使い慣れた若い世代が中心だという。つまり、これらはスマホなどデジタル機器が使えるかどうかで、ユーザーを自ら制限してしまう状態になってしまう可能性もある。

 こうした課題を抱えながらも、新型コロナ感染症の広がりによって宅配ロボットを使ったサービスへの期待は高まっているのは確かだ。技術は使ってもらえる人と場所があってこそ進化する。その積み上げによって課題解決の糸口につながっていくだろうし、それが人とロボットが共存する社会を生むきっかけとなるかもしれない。宅配ロボットからはそんな近未来の日常が見えて来そうだ。

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