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最終更新日:2020.04.10 公開日:2020.04.10

進化し続けるJNCAP。予防安全「交差点」などを2023年度以降に追加

1995年から始まった、国土交通省と独立行政法人 自動車事故対策機構(NASVA)によるJNCAP(自動車アセスメント)。2020年度以降も新たな評価試験が追加されたり、評価方法が変更されたりするなど、常に進化し続けていく。そんな近い将来のJNCAPの新たな姿について、シリーズで解説する3回目は、2023年度以降に追加される予防安全性能評価の新たな試験を紹介する。

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 JNCAP(Japan New Car Assessment Program)は、新車を対象としたクルマの安全性能評価試験のことだ。JNCAPの試験は、安全性能を含めたクルマの基準を定めている保安基準よりも、さらに厳しい条件で実施されている。すべての市販車は保安基準で定められた安全性能をすでに満たしているが、JNCAPではメーカーに対してさらなる安全性能の追求を促すため、より厳しい試験を実施しているのである。そして結果はすべて点数化して公表し、ユーザーがより安全性能の高い車種を選べるようにしているのだ。

画像1。JNCAPの予防安全性能評価における、衝突被害軽減ブレーキ試験の様子。

 現在、JNCAPでは、実際にクルマをクラッシュさせて乗員の安全性と歩行者への加害姓を調査する「衝突安全性能」と、事故を未然に防ぐ予防安全技術を対象とした「予防安全性能」(画像1)の2種類の評価試験が実施されている。評価試験に使うクルマは、ディーラーで抜き打ちの購入が行われ、試験は同一条件の下に厳正に行われる。結果は年に2回、前期として10~12月頃に、そして後期として翌年5月末頃に発表されている(予防安全性能評価は原則随時)

 「進化し続けるJNCAP」の第3回は、2019年度に公表された「令和元年度第1回自動車アセスメント評価検討会 資料5-1 自動車アセスメントロードマップ(2018)改訂版」(以下ロードマップ)に基づき、2020年度以降に導入が検討されている新たな評価試験から、予防安全性能評価に属するものを紹介する(画像2)。

画像2。国土交通省が公開している「令和元年度第1回自動車アセスメント評価検討会 資料5-1 自動車アセスメントロードマップ(2018)改訂版」を基に作成した2025年度までのJNCAPのロードマップ。

衝突被害軽減ブレーキに「交差点」が2023年度に追加

 2019年度の予防安全性能評価試験141点満点の配点において、衝突被害軽減ブレーキ系には約80%にあたる112点が与えられている。市販車に搭載されている予防安全技術の中で、衝突被害軽減ブレーキは対車両に関しては衝突事故を未然に防ぐことや、被害を軽減することが明確になっている。

 衝突被害軽減ブレーキは、クルマの安全性能を高めるのに必須の技術となっており、2020年現在、軽自動車やコンパクトカーなどの普及価格帯の車種にも搭載されるようになった(画像3)。一部のスポーツカーなどを除けば、現行車種のほとんどに搭載されているといっていいだろう。

画像3。衝突被害軽減ブレーキは、現在では画像のダイハツ「タント」のように軽自動車にも普及している。

 2021年度の対自転車に続き、2023年度から始まる衝突被害軽減ブレーキ系の新しい評価試験が「交差点」だ。ただしNASVAでもこれから事故実態を調査・研究し、どのような試験内容が最も有効かを見極めていくところなので、詳細はまだ決まっていないという。

 対車両なのか対歩行者なのかも現時点では不明だが、これまでの衝突被害軽減ブレーキ系の評価試験が直進で実施されているのに対し、「交差点」では初めての直進以外での実施も検討しているという。このことから、右左折となる可能性が考えられる。ちなみに一部メーカーの新型車は、右左折時の対向車や横断歩道を渡ってくる歩行者などにも衝突被害軽減ブレーキが対応している。

 そして交差点で発生した死亡事故に関してだが、警察庁が発表した「令和元年中における交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」(以下「交通死亡事故の発生状況」)によれば、クルマ同士の事故は出合い頭事故が400件で最多だ。次点が152件の右折となる。また出合い頭事故においては、信号機のない交差点での事故が225件と、半数以上を占めていた。一方、クルマ対歩行者の死亡事故に関しては、「交通死亡事故の発生状況」に”横断歩道を横断中”という分類はあるが、それがどのような状況での事故かまでは分類がないため詳細は不明だ。

 交差点・衝突被害軽減ブレーキ評価試験のスケジュールは、2020年度の調査・研究からスタート。2021年度の試験・評価方法検討、2022年度の予備試験を経て、2023年度から正式な評価試験が開始となる予定だ。

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続いて2025年度から追加される可能性のある試験について

2025年度からの追加が有力な3つの評価試験候補

 予防安全技術に対する評価試験は、「交差点」以降も追加されていく予定だ。具体的にどの技術に対する評価試験を導入するのかは、2021年度の「追加項目検討」で決定される。現時点で候補となっているのは、以下にリストアップした3種類だ。これらの中で、最も交通事故死者の削減に有効と考えられるものが導入されるはずだが、この3種類以上に有効なものがあれば、それが選ばれる可能性もあるという。

●後退時の対歩行者・衝突被害軽減ブレーキ
●対向車・衝突被害軽減ブレーキ
●夜間前方歩行者注意喚起装置(夜間歩行者警報)

 2021年度にどの技術を評価試験の対象とするかを選定したあと、2022年度にその選定された技術の詳細な調査・研究が実施され、2023年度に試験・評価方法が検討される。ロードマップにはここまでしか掲載されていないが、これまでの調査・研究から正式導入までの流れからすると、2024年度に予備試験が実施され、2025年度から正式導入となりそうだ。続いては、これらの3種類の技術について解説しよう。

後退時における歩行者との接触事故も衝突被害軽減ブレーキで回避

 「後退時の対歩行者・衝突被害軽減ブレーキ」は、バックする際にも歩行者の検知を行って衝突事故を防ぐという技術だ。多くの車種が対応していそうなイメージだが、実は2020年4月現在、後退時の対歩行者・衝突被害軽減ブレーキを機能として明確に打ち出しているメーカーはないようである。

 ただし、後方の歩行者を検知して警告音や画面表示でドライバーに通知する機能や、後方に壁などがあると作動する衝突被害軽減ブレーキなどはすでに搭載している車種も珍しくない。これらを組み合わせれば、後退時の対歩行者・衝突被害軽減ブレーキとなるはずであり、すでに機能的には備えているということかもしれない。おそらく、JNCAPで後退時の対歩行者・衝突被害軽減ブレーキの評価試験を開始すれば、各メーカーも対応してアピールするようになるだろう。

 なお、後退時における歩行者の交通事故死者数については、「交通死亡事故の発生状況」には分類がないため、どれだけいるのかは不明である。

対向車との接触事故も衝突被害軽減ブレーキで回避

 「対向車・衝突被害軽減ブレーキ」は、衝突被害軽減ブレーキの検知機能を対向車にまで拡大したものだ。現状、衝突被害軽減ブレーキの多くが対応していることを明確にしているのは、前方を同一方向に走行中の前走車もしくは停車中のクルマである。ただし一部のメーカーの予防安全技術は、対向車にも対応していることをアピールしている。

 対向車との衝突被害軽減ブレーキで難しいのは、前走車や停車中のクルマよりも相対速度差が大きいため、衝突までの時間が短いという点だろう。衝突の回避もしくは衝突被害を軽減させるためには、対向車が自車と衝突する危険性があることをできる限り早く検知し、ブレーキを作動させる必要がある。

 「交通死亡事故の発生状況」によれば、対向車・衝突被害軽減ブレーキに関連すると思われる死亡事故として、クルマ同士の正面衝突とすれ違い時がある。2019年は正面衝突で296件、すれ違い時で11件の死亡事故が発生している。

夜間の対歩行者の安全性を向上させる「夜間前方歩行者注意喚起装置」

 「夜間前方歩行者注意喚起装置」とは、その通称が「夜間歩行者警報」ということからもわかるように、夜間において歩行者が前方にいることを警報や画面表示などでドライバーに通知するシステムだ。一般には、「ナイトビジョン」などともいわれている。

 現在、コンパクトカーや軽自動車などの普及価格帯の車種も衝突被害軽減ブレーキを装備するようになったが、歩行者に関しては昼間にのみ対応しているものも少なくない。夜間に対応できない理由は、センサーなどが高価になってしまうためで、普及価格帯の車種に搭載するのが難しいことが理由と考えられる。夜間歩行者警報は、そうした夜間の対応が難しい車種のための機能といってもいいだろう。

 「交通死亡事故の発生状況」によれば、2019年の夜間の歩行中に死亡した人は572人と多い。夜間の対歩行者・衝突被害軽減ブレーキほどではないにしても、夜間歩行者警報が普及すれば、ドライバーの見落としを防ぐ確率が上がり、間違いなく安全向上に寄与するはずだ。


 JNCAPの目標は、よりクルマの安全性能を高め、交通事故の中でも特に交通事故死者数を削減することにある。そして実際に交通事故死者数は毎年確実に減っており、JNCAPは間違いなくその一翼を担っているといっていいだろう。”事故を起こさないクルマ”という究極の安全性を実現するため、JNCAPは今後も予防安全技術に対する新たな評価試験を追加し、クルマの進化を促していくのである。

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