クルマのある暮らしをもっと豊かに、もっと楽しく

Traffic

最終更新日:2019.12.03 公開日:2019.12.03

冠水路の水面の高さ別に発生しうるクルマのトラブルと危険性

国土交通省が11月27日に、「自動車が冠水した道路を走行する場合に発生する不具合」を公表。国内乗用車メーカー8社に対する調査結果をもとにしたものだ。ここでは、そのほかJAFユーザーテストの情報も合わせ、冠水路の深度(水面の高さ)別にクルマに発生しうるトラブルと危険性をまとめてみた。

記事の画像ギャラリーを見る

画像1。水面の高さがフロアを超える冠水路を走ると、これだけのトラブルが発生する危険性がある。国土交通省「自動車が冠水した道路を走行する場合に発生する不具合について」より。

 2019年は、台風19号などによるクルマの水没事故によって、ドライバーや同乗者が亡くなる痛ましい事故が相次いだ。冠水路(画像2)は危険だということを頭に入れ、冠水路を避けるようにしてほしい。

画像2。2010年実施のJAFユーザーテスト「冠水路走行テスト」の様子。アンダーパスが60cmの水深で冠水しているという設定。

 JAFユーザーテストの「冠水路走行テスト」の詳細は、JAFトップページから「交通安全とエコ(エコ&セーフティ)」→「JAFユーザーテスト(資料編)」→「水没テスト」で動画などを視聴することが可能だ。

水面の高さがフロア下の場合でもエンジンの停止などはあり得る

画像3。点線が、冠水路面の水面の高さを表し、この画像ではフロアより下を表す。クルマはトールワゴンタイプの軽自動車やコンパクトカーをイメージした。

 画像3のように水面の高さ(点線)がフロアより下だったとしても、注意が必要だ。アンダーパスの坂を下って冠水路に進入した瞬間には水しぶきが発生するし、冠水路を高速で走行した場合は波が発生し、水が高く巻き上げられたりする。これにより、以下のようなトラブルが発生しうる。

【エンジン】
吸気口からエンジン内部に入り込んだ水の量が多いと、エンジンは停止する可能性がある(入り込んだ量によっては、損傷する危険性もある)。

水面の高さがフロアを超える場合はエンジンや電装系の損傷などもあり得る

画像4。水面の高さがフロアを超えると、さらに車内への浸水量が多くなる。

 クルマは浸水を防ぐ構造になっていない。エンジンルームはもちろん、キャビンに関しても隙間がなさそうだが、浸水を防ぐ構造にはなっていない。水面がフロアを超える高さになると(画像4)、車内への浸水が始まってしまう。浸水によりクルマは以下のような故障発生の可能性が一気に高まる。

【電装系】
電装系は水に弱く、冠水すると故障の危険性がある。

【エンジン】
吸気口から大量の水を吸い込んだ場合、エンジンが停止することもあり、最悪の場合は損傷してしまう。

【マフラー】
一般的に、マフラーはフロアの高さと同じぐらいか低い位置にある。水面の高さがフロアを超えたら、マフラーも水に浸かっているか、水面下にある可能性が高い。そこから水が排気系を逆流していく可能性がある。マフラーは大量の水がしかも逆流することを想定して設計されていないため、機能が劣化したり、損傷する可能性もある。また侵入した水の量が多ければ、最悪の場合、エンジンや排気系に被害が及ぶ危険性も考えられる。

【EV・PHEV用大型バッテリー】
EVやPHEV(プラグインHV)の大型バッテリーは、重量物であることから車体下部(シート下やトランク下)に設置されていることが多い(画像5)。漏電などの安全対策はされているものの、電装系なので故障する可能性がある。

画像5。ホンダ「クラリティPHEV」のパワートレイン。EVやPHEVなどは重量物の大容量バッテリーをシート下やトランク下などに配置していることが多い。

 そして電装系やエンジン、バッテリーなどが故障した結果、以下のようなトラブルが発生する。

●自動スライドドアやパワーウインドーが作動しなくなる。
●電装系やエンジン、モーターの故障により、再始動できなくなり、走行不能となる。

→ 次ページ:
続いてはドア下端を超えた場合!

水面の高さがドア下端を超えた場合はドアを開けるのが困難に

画像6。水面の高さがドアの下端を超えた場合。

 水深がドアの下端を超えた場合(画像6)は、切迫した状況となっていることを理解する必要がある。さらに水かさが増すようであれば、クルマを脱出しないと命に関わる危険性も出てくる。

【ドア】
車外の水面の高さがドアの下端を超えてきて、車内がそれよりも低いときは、ドアを内側から開けるのが徐々に困難となっていく。水圧が外からかかるためで、車内外の水面の高さの差が大きいほど、かかる水圧も強くなる。スライドドアも最初に外側へ若干ながら開くため、開けるのが困難になるのは同じだ。

 このような事態になったときは、車内外の水面の高さが同じになるまで待つ必要がある。同じになると水圧がかからなくなるので、ドアを開けられるようになるからだ。

 ただし「クルマが流されている」、「冬期のために長時間水に浸かっていると低体温症の危険性がある」など、車内外の水面の高さが同じになるまで待てないほど切迫した状態のときもあることだろう。そのときは、ドアガラスやリアウインドーを割って脱出する必要がある。その詳細については、のちほど説明する。

水面の高さがタイヤ上端を超えた場合はクルマが浮き出す可能性も

画像7。水面がタイヤの上端を超えたところ。

 水面の高さがタイヤの上端を超えると(画像7)、クルマが浮き出す可能性が出てくる。タイヤにはいうまでもなく空気や窒素などの気体が詰められており、いわば浮き袋のようなもの。そのため、水中では浮力が発生する。また、キャビンやトランクなどへの浸水量が少ないとボディ自体にも浮力が働く。こうなるとタイヤがきちんと接地しなくなるため、移動が困難になってしまう。どこへ流されるかわからないため、いち早くクルマから脱出することが必要だ。

水面の高さがドアの半分ほどに達した場合は非常に危険!

画像8。水面の高さがドアの半分ほどに達した場合。

 車外の水面の高さがドアの半分ほどになってしまうと(画像8)、ドアの開閉がほぼ不可能となるため、もはや脱出方法はドアガラスなどを割るしか残されていない。脱出の仕方は以下の通りだ。

【ドアガラスやリアウインドーを割っての脱出の仕方】
多くのクルマがフロントエンジンのため、リアが軽くて浮くことが多い。そのため、割るべきは水面より上にあるドアガラスもしくはリアウインドーだ。

 ただし、注意したいのはエンジンをミッドシップもしくはリアに搭載しているクルマ、そしてエンジンのないEVの場合。もしフロント側が浮いてしまった場合、フロントウインドーを割りたいところだが、クルマは合わせガラスのため、脱出用ハンマーなどを使っても、脱出できるような穴をあけるのは難しい。もしフロントが浮いた場合は、運転席のドアガラスを割って脱出しよう。

 さらに注意すべきは、近年の一部のクルマは、フロントウインドーだけでなくドアガラスにも合わせガラスを使っている車種があるということ。あらかじめディーラーに確認しておくことが無難だ。

【シートベルトカッター兼脱出用ハンマーを車載しておくこと】
 ドアガラスやリアウインドーを素手で割るのは困難だ。そんなときのため、脱出用ハンマー兼シートベルトカッター(画像9)を運転席の手の届く範囲に備え付けておこう。最近はコンパクトな作りで、用意されている両面テープで場所を選ばず容易に設置できる製品も多い。

画像9。シートベルトカッター兼脱出ハンマーは手の届くところに設置しよう(ナビモニターの下の黄色のもの)。

水の流れがある場合はさらに注意が必要

 冠水路については水深とは別に、もうひとつ注意すべき点がある。水の流れがある場合だ。その場合、クルマが低所へと流される危険性があり、最悪、高所からの転落や河川へ流れ出てしまうことなども考えられ、クルマは諦めていち早く脱出する必要がある。

 水深が深くなればなるほど同じ速度の流れでも流れやすくなる。特に水面の高さがフロアを超えてくると、ボディの広い面積で水圧を受けるようになるため注意が必要だ。

水が引いた後は、外見だけで判断してエンジンをかけないこと

 水が引いてクルマが無事だったとしても、いきなりエンジンをかけてはならない。一度電装系が冠水していると、どのような故障が発生しているかわからないからだ。さらに、そのままにしておくと発火する危険性もある。バッテリーのマイナス端子を外しておこう。ただし同じバッテリーでも、EVやPHEV、HVの高電圧バッテリーには絶対に触れないこと。感電すると非常に危険だ。

 また、もし冠水後に知らずにエンジンをかけてしまい、問題なくかかったとしても、油断は禁物。たまたま症状が目立たないだけで、電装系が損傷している可能性があるからだ。

 こうした点から、愛車が冠水した場合はディーラーや自動車整備工場できちんと点検整備を受けるようにしよう。


画像10。冠水路の一例(一般道ではなく、荒川河川敷のサイクリングロード)。冠水路は濁り水で深度や路面の様子を見通せないことも多く、無理な侵入は危険だ。

 無理な冠水路の通行はクルマの故障を招き、さらには命に関わるような事態に至ることもある。迂回路が遠くても、冠水路を無理に通行するのは避けるよう肝に銘じたい。

記事の画像ギャラリーを見る

この記事をシェア

  

Campaign

応募はこちら!(1月5日まで)
応募はこちら!(1月5日まで)