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ライフスタイル最終更新日:2023.06.19 公開日:2016.07.11

高さ日本2位のダム「高瀬ダム」へ行こう!ロックフィルダム好きに。

日本一高い山は富士山、日本一広い湖は琵琶湖。ではそれぞれ2位は?と聞かれて答えられる人は多くないと思う。ダムも高さ日本一は有名だけど、2位のダムは人里離れた渓谷の奥にひっそりと、存在しているのだ。

●今月のオススメダム
高瀬ダム(ロックフィルダム/長野県大町市)
信濃川水系高瀬川の上流部に建設された発電用のロックフィルダムで、堤高は国内2位の176m。国立公園内に立地しているため、マイカーで乗り入れることができず、許可を受けた指定タクシーか徒歩でしかアクセスできない。圧倒的な迫力を持つ国内最大のロックフィルダムは、知名度こそないがダム好きにはファンが多い。

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2位のダムにも注目してほしい

実は1位のすぐ隣にある

2番目というポジションは微妙だ。よく言えば影の実力者、トップを支える参謀。しかし引き立て役であり、決して主役になることはない立場。もちろん、ダムは高さを競っているわけではないから順位は関係ないけれど、とにかく1位と比べると知名度が大きく下がってしまうのは間違いないだろう。 高さ日本一のダムは富山県の黒部ダム。年間およそ100万人が訪れる観光地であり、関西電力が社運をかけて建設したというエピソードは、映画「黒部の太陽」やNHKの「プロジェクトX」などで広く知れ渡っている。

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黒部ダムの迫力と存在感は誰もが認めるところ

では、高さ日本2位のダムをご存知の方はどのくらいいるだろう。その名は高瀬ダム。実は黒部ダムと山を隔ててすぐ隣の長野県大町市に建設されたロックフィルダムだ。高さ176mは黒部ダムより10m低いものの体積は7倍以上あって、石を積み上げた巨大な堤体を見上げた光景は現実のものとは思えないほどの迫力。標高2000mを超える北アルプスの山々に囲まれたダム湖は美しく、木々が赤や黄に染まる秋の紅葉は絶景だ。 今回は、そんな高さ日本2位のダムを目指しながら、高瀬川にいくつか造られたダムをめぐる素敵なルートをご紹介したい。

→次ページ:高瀬川のダムめぐり

高瀬川のダムめぐり

長野自動車道を安曇野インターで降り、安曇野市から松川村を経て大町市まで、JR大糸線に沿って高瀬川の西側を北上する。このあたりは川沿いから山裾まで平らな農地が広がり、その奥に北アルプスの山々が連なる、日本離れした雄大な景色が続く。高い山が近い割に空が広く、ドライブしていても気持ちの良い場所で、何度来ても、老後はこの景色を見てのんびり暮らしたい……、などと考えてしまう。実際は冬の寒さや積雪で大変だろうけど。

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何度来ても心洗われる高瀬川沿いの景色

大町市からは高瀬川沿いの道を西に進み、上流を目指す。大町市は黒部ダムの建設中、工事事務所が置かれるなど建設の玄関口となった場所で、当時は多くの工事関係者で賑わったという。黒部ダム建設は昭和38年に完了するけれど、昭和44年から建設事業が始まった高瀬ダムをはじめ、周辺ではその後もいくつかの巨大ダムが建設され、まさに「ダムの街」と言える。そんな大町市を通過するとすぐ、川沿いの道は目の前を巨大なコンクリートの壁で遮られる。昭和60年に完成した、国土交通省が管理する高さ107mの多目的ダム、大町ダムだ。

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高瀬川の最後の砦、大町ダム

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いろいろな角度から見てまわれる(写真は笹平吊り橋より撮影)

大町ダムは高瀬川で最後に造られたダムで、周囲に公園が点在し、花壇にはいつも花が咲き乱れている明るい雰囲気。ダイナミックな堤体を眺められる場所も多く、管理事務所の1階には展示施設もある。さらに、平日の火曜日から金曜日は、予約をすれば職員さんの案内による堤体の内部見学もできるのだ。せっかくなので事前に電話して見学をお願いした。

→次ページ:内部見学へ出発

内部見学へ出発

管理事務所のインターホンを押すと職員さんが資料を手にやってきた。堤体の上で大町ダムの役割や構造の説明を受けたあと、エレベーターに乗って堤体の中へ降りていく。堤体のコンクリートの中には放流設備を動かす機械やさまざまなセンサーが設置してあって、通路や階段、エレベーターなどでアクセスできるようになっているのだ。

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職員さんに直接説明してもらえる

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ダムの疑問質問をなんでもぶつけてみよう

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ダムの中にはこんな通路が何本も通っている

堤体の中の通路を進むと「コンジットゲート室」にたどり着く。コンジットゲートとはダムの真ん中へんに設置された放流設備の水門のことで、大町ダムでは通常の洪水調節などで使用される、いわば「主砲」で、2門設置されている。コンジットゲート室には、1門あたり23トンもあるその水門を引っ張り上げるための巨大なシリンダーが2本、にょきっと突き出していた。肝心の水門は床の下でよく見えないけれど、ちょうど片方から放流中だったので部屋中に轟音が響く中、放流設備の詳しい説明を聞いた。

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コンジットゲートを動かす巨大なシリンダー

その後、来た道を戻りエレベーターでダムの上に出て見学会は終了。全行程でおよそ30分だった。このあとも上流のダムめぐりが続くことを考えれば、ちょうどいい内容の濃さである。ここで時計を見るとお昼少し前。ダムめぐりのランチの定番であるダムカレーでお腹を満たそう。大町市内のいくつかの飲食店では、ダムの街のPRとして各店舗が趣向を凝らした「黒部ダムカレー」を提供しているのだ。

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この日は「豚のさんぽ」の黒部ダムカレー(並)をいただきました

→次ページ:七倉ダムに出くわす

ダムカレーで午後からのダムめぐりのエネルギーを蓄えたら、午前中も通った高瀬川沿いの道を西へ進む。大町ダムを通り過ぎると徐々に上り坂がきつくなり、山道の様相を呈してくる。やがて急カーブが連続し、そのカーブをいくつか過ぎたとき、初めて来た人は度肝を抜かすに違いない。視界が開けた先で、とつぜん巨大な岩山が谷を塞いでいる光景が目に飛び込んでくるのだ。

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とつぜん目の前を塞ぐ岩の山

これは高瀬ダムと大町ダムの間に造られた七倉ダム。高さ125mのロックフィルダムで、高瀬ダムと同じく東京電力パワーグリッドが管理する発電用ダムだ。

→次ページ:大迫力のロックフィルダム

山道から分岐した七倉ダムへの道を進むと、巨大なロックフィルの堤体の真ん中あたりを通ってダムの下にある広場へ導かれる。

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堤体の真ん中を道が通る

広場に車を停めて堤体を見上げると、目の前に広がるのははるか高くまで岩の山が続く現実離れした光景。七倉ダムは2016年現在、ロックフィルダムで高さ国内11位(すべての型式を含めると30位)。それでもこの圧倒的な迫力、と考えると、ダム、特にロックフィルダムという構造物の大きさにため息が出る。

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トップ10圏外でもこの迫力

堤体に向かって右側にある、放流するための水路も巨大で、終端はスキーのジャンプ台のようにぶっつり途切れ、流れてきた水が空中に放り出される形になっている。空中で霧状にすることで勢いをなくさせて、川底が掘られないようにしたり、流れていく水の速度を弱めたりする構造なのだ。

→次ページ:七倉ダムを登る

その水路の脇をよく見ると、堤体のいちばん上まで階段が伸びている。特に柵もなく立ち入り禁止の階段もないため登ってみることにした。

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堤体の上まで伸びる階段

なだらかに見える岩の山も、実際に登ってみるとかなりの急斜面。徐々に足が重くなって来るが、堤頂は遠い。途中で休みつつゆっくり登り切ると、ダム湖の水面が見えた。水位がずいぶん低いのは、上流の高瀬ダムとの間で揚水発電を行っているため。揚水発電とは、電気の需要のピーク時に上のダムから下のダムに水を落として発電し、夜間などの余剰電気で上のダムにポンプで戻すという発電システムだ。現在は高瀬ダムを満タンにして、いつでも発電できるように待機しているのだろう。

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貯水池はそれほど大きくない

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せっかく登ったので上からの景色を堪能しよう

しばらくダムの上からの景色を堪能したあと、階段を降りて車に戻る。いよいよ今日の最終目的地、高瀬ダムに向かって出発しようとしたものの、ダムを登り下りした影響でアクセルを踏む足はしばらくガクガク震えていた。

→次ページ:いよいよ高瀬ダムへ

七倉ダムから上流へ進むと、少し先で一般車通行止になる。東京電力パワーグリッドの管理用道路であるため、高瀬ダムへは徒歩か許可を受けた指定タクシーでしかたどり着けないのだ。

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ここからタクシーに乗り換え(もしくは2時間徒歩)

車を停めてタクシーに乗り込むと、およそ10分で高瀬ダムだ。ちなみに料金は片道2200円。何も言わなければ、タクシーは高瀬ダムの堤体につけられたつづら折れの道を登って堤頂部まで連れて行ってくれるけれど、ダム好きならばぜひおススメしたいのが堤体の下だ。運転手さんにリクエストして、堤体の下の広場で降ろしてもらおう。

→次ページ:笑いながら涙が出る光景

走り去るタクシーを尻目に堤体に目を向ければ、その光景に誰もが立ちすくむこと間違いない。日本2位とは言え、エジプトのクフ王のピラミッドを30mも凌ぐ高さ176m、体積は5倍にも達する途方もない大きさの岩山が、目の前にそびえ立っているのだ。

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視界の大部分を覆う岩山

初めて見たときはとても現実の光景とは思えず、感動と興奮が入り混じってひたすら笑いながら涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていた。七倉ダムと同じく、高瀬ダムも放流するための水路がジャンプ台になっているのだけれど、これだけでもちょっとした団地くらいの大きさがある。

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比較するものがないのだが5階建てくらいの高さ

高瀬ダムの発電所で生み出された電気は、すべて首都圏に送られている。われわれが生活するのに必要な電気を起こすためにこれだけの規模の構造物が造られている、ということをみんながみんな考えなくても良いとは思うけれど、単純に「よくこんな凄いもの造ったなあ」という小学生並みの感想が漏れる。

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本当に建設おつかれさまでした

→次ページ:日本2位のダムの頂上へ

下からの眺めを堪能したら、堤体につけられたつづら折れの道を歩いて堤頂部を目指そう。高さ176mの高瀬登山だ。とは言え、七倉ダムの階段と違って緩やかなので、ゆっくり歩けば誰でも登れるはず。ただしこの道、タクシーのほかに、ダム湖に堆積した土砂を運び出すダンプカーがときおり列をなして通るので注意が必要。

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ダンプカーと比べると堤体の大きさが分かるだろうか

堤頂部からは高い山に囲まれた美しいダム湖が見える。高瀬川に溶け込んだ花崗岩や硫黄の粒子が混ざり合って生まれる、と言われるエメラルドグリーン色の湖は一見の価値あり。そして、登山に出発する人以外は訪れる人もまばらな、人里離れた場所に屹立する高さ日本2位のダムの、雄大な存在感に虜になってしまうはずだ。

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ぜひいちど見に行ってみてください

ちなみに、帰りのタクシー乗り場は堤頂部にあるけれど、停まっていない場合は公衆電話で呼ぶ必要があるので、高瀬ダムに行く際は必ず10円玉を何枚か持って行くのを忘れないようにしよう。今は懐かしいピンクの公衆電話でテレホンカードは使えない。あと携帯電話も通じないのでご注意を。

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2位とかもうどうでもよくなる絶景

→次ページ:今回のダムカレー

今回のダムカレー

黒部ダムカレー(長野県大町市)

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黒部ダムの玄関口のひとつである長野県大町市では、市内の飲食店19店がそれぞれ趣向を凝らした「黒部ダムカレー」を提供している。写真は、昭和40年代当初から提供されている、扇沢レストハウスのもの。

問い合わせ / 大町市商工労政課℡0261・22・0420

http://kurobedam-curry.com/

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写真と文=萩原雅紀

●1974年東京都生まれ。偶然出会ったダムの魅力に取り付かれ、98年から本格的にダムの撮影を開始。以降、ライフワークとして「ダムめぐり」を続ける。著書に写真集「ダム」、「ダム2」など。ダム人気の火付け役となった。これまで訪れたダムは400か所以上。最新刊は「ダムに行こう!」(学研プラス刊)

→【バックナンバー】これまでの「絶景!ウワサのダムめぐり」を見る

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