国道357号の東京港トンネル(東行き)が開通して1年余り、湾岸地域の交通が大きく変化
千葉、東京、神奈川を結ぶ国道357号・東京湾岸道路は、東京湾沿いの重要港湾施設や羽田空港を結ぶ一般国道だ。まだ全線が開通しておらず、各所で建設や立体化工事などが進められている。2019年6月に開通したのが、東京港トンネルの東行き(千葉方面)で、これにより同トンネルは東西両方向が開通。湾岸地域の交通を一変させることとなった。
国道357号・東京湾岸道路(※1)の東京港トンネルは、品川区八潮2丁目(大井地区)と江東区青海1丁目(お台場地区)を結ぶ延長1.9kmの海底トンネルだ。神奈川方面へ向かう西行き(海側)が2016年3月に開通し、千葉方面に向かう東行き(内陸側)は2019年6月に開通した。
東京港トンネル・東行きは開通1週間で1日1万2000台以上が利用する大動脈に
東京港トンネル・東行きの交通量は、2019年6月3日に開通して1週間後(速報値)、1か月後、約半年後(2019年11月~12月)の3回の発表が行われている。以下の通りだ。
【東京港トンネル・東行きの交通量】
●開通1週間後:約1万2100台/日(2019年6月11日・12日の平均値)
●開通1か月後:約1万3300台/日(2019年7月2日、9日の平均値)
●開通半年後:約1万3600台/日(2019年11月28日、同年12月3日の平均値)
開通が待ち望まれていたことを示すかのように、開通後1週間で1日の交通量が1万2000台を超えている。半年後の時点でそれから約1500台/日の増加しかないところを見ると、一気に従来ルートから切り替えたドライバーが多いといえるのではないだろうか。
なお2019年11~12月時点での西行きの交通量は約1万7700台/日で、合計すると東京港トンネルは約3万1300台が1日に通行している計算だ。
東京港トンネルの利用で品川~お台場間の移動所要時間は4割短縮
東京港トンネルの開通により大きな恩恵を受けているのが、品川区や大田区などからお台場地区への移動に要する時間だ。開通前の主要ルートである都道316号・海岸通り+レインボーブリッジ(一般部)や東京港臨海道路+青海縦貫道路と比較して、大幅に短縮できるようになった。例えば、羽田空港からお台場地区までだと、以下のようになる。
【羽田空港→お台場地区・移動所要時間比較】
●東京港トンネルルート:約20分(※2)
●臨海ルート(東京港臨海道路+青海縦貫道路):約34分(※3)
●内陸ルート(都道316号+レインボーブリッジ(一般部)):約37分(※3)
これまでは臨海ルートが最短だったが、東京港トンネルを利用すると約14分、割合にして約4割の時間短縮を実現したのである。
また、大型物流拠点同士の大井ふ頭~青海ふ頭間の移動において、ピーク時にかかる所要時間を比較したものが以下のリストだ。開通前のルートは、東京港臨海道路+青海縦貫道路経由ルート。
【開通前】
●大井ふ頭→青海ふ頭:31分(14時台)
●青海ふ頭→大井ふ頭:25分(16時台)
【開通後(東京港トンネルルート)】
●大井ふ頭→青海ふ頭:24分(14時台)
●青海ふ頭→大井ふ頭:22分(16時台)
大井ふ頭→青海ふ頭では7分の、青海ふ頭→大井ふ頭では3分の短縮となっており、大型の港湾物流施設間の移動を短時間で行えるようになった。
並行幹線道路や首都高・B湾岸線の交通量が減少
続いて、東京港トンネルの開通前後における、並行する幹線道路(都道316号・海岸通りと東京港臨海道路)の交通量比較だ。
【都道316号の交通量の推移】
●東京港トンネル開通前:約3万1400台/日(2015年11月24日)
●東京港トンネル・西行き開通後:約4万8500台/日(2017年4月25日)
●東京港トンネル・東行き開通後:約2万7400台/日(2019年11月28日、同年12月3日の平均値)
【東京港臨海道路の交通量の推移】
●東京港トンネル開通前:約4万8500台/日(2015年11月24日)
●東京港トンネル・西行き開通後:約4万1400台/日(2017年4月25日)
●東京港トンネル・東行き開通後:約3万5000台/日(2019年11月28日、同年12月3日の平均値)
結果として、開通前後で都道316号は4000台減って約2万7400台/日(約13%の減少)、東京港臨海道路は1万3500台減って約3万5000台/日(約28%の減少)となった。都道316号と東京港臨海道路合計では、約1万7500台/日、約20%の減少だ。
またこのような交通量の減少に伴い、都道316号では交通死傷事故の発生件数の減少というメリットも出ている。集計区間は、都道316号の南浜橋交差点(港区海岸)~天王洲アイル交差点(品川区東品川)だ。なお、東京港臨海道路の交通死傷事故数に関しては情報がない。
【都道316号の交通死傷事故件数の推移】
●東京港トンネル開通前:34件(2015年7月~12月 ※4)
●東京港トンネル開通後:27件(2019年7月~12月 ※5)
また東京港トンネルの開通は、こうした並行する一般道だけでなく、首都高・B湾岸線の交通量にも影響を与えている。以下は、開通前後におけるB湾岸線の交通量の推移だ。
【首都高・B湾岸線の交通量の推移】
●東京港トンネル開通前:約14万1000台/日(2015年11月平日平均交通量)
●東京港トンネル・西行き開通後:約13万7500台/日(207年4月平日平均交通量)
●東京港トンネル・東行き開通後:約13万4900台/日(2019年11月28日、同年12月3日の平均値)
このように、開通前後でB湾岸線は約6100台/日の交通量が減り、割合としては約4%の減少となった。B湾岸線を利用する大型車の平均トリップ長(※6)は約109.3kmで、東京港トンネル(国道357号)は約35.2km。所要時間を短縮できることから、開通前はトリップ長の短い大型車もB湾岸線を利用していたと考えられる。それらが東京港トンネルルートに切り替えたことで、1日に6000台強の大型車の通行がなくなった。
品川区~お台場地区を移動する大型車の経路分担について、東京港トンネルの開通前後で比較してみると、以下の通りだ。
【東京港トンネル開通前(4533台)】
第1位・33%:レインボーブリッジ(一般部)経由
第2位・19%:首都高・B湾岸線経由
第3位・8%:東京港臨海道路経由
そのほかは合計40%
【東京港トンネル開通後(2万2024台)】
第1位・52%:東京港トンネル経由
第2位・15%:首都高・B湾岸線経由
第3位・6%:レインボーブリッジ(一般部)経由
第4位・1%:東京港臨海道路ルート
そのほかは合計25%
品川区~お台場地区を往来する大型車に限っては、レインボーブリッジ(一般部)や東京港臨海道路を経由していた交通が、大きく東京港トンネル経由に転換したことがわかる。さらに、そのほかのルートからも転換されたと思われ、東京港トンネル経由は2台に1台以上という割合となった。
国道357号は東京港トンネル・東行きの開通で、東京区間はほぼ開通した。残すは、神奈川区間と接続する「多摩川トンネル」だけだ。羽田空港南部の湾岸環八交差点から川崎浮島JCTまでをつなぐ計画で、都県境の多摩川河口部を通過する。2020年2月から工事がスタートしたばかりで、完成時期は未発表だ。2020年度は羽田地区の改良工事に加え、調査設計が進められる予定となっている。