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クルマ最終更新日:2018.10.17 公開日:2018.10.17

次世代新幹線開発プラットフォーム「ALFA-X」。JR東

現在JR東日本では、グループ経営ビジョン「変革 2027」でも掲載された「次世代新幹線開発」のための試験プラットフォームとして「E956形式新幹線電車」、愛称「ALFA-X(アルファエックス)」の開発を進めている。完成予定は2019年5月だ。試験走行の最高速度は時速400km程度が目標で、営業運転の最高速度は時速360kmが計画されている(現在は「はやぶさ」(E5系)による時速320kmが営業運転の最高速度)。

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次世代新幹線開発用の試験車両「ALFA-X」の先頭車両の形状は2種類。(上)東京寄りの1号車。(下)新青森寄りの10号車。どちらがよりトンネル突入時の圧力波を抑えられるかといった試験が行われる。実際の営業車両の形状ではなく、この2種類で得られたデータを基に開発される(どちらかの形状が採用される可能性もある)。画像提供:JR東日本

 現在JR東日本では、グループ経営ビジョン「変革 2027」で掲載された「次世代新幹線開発」のための試験プラットフォームとして「E956形式新幹線電車」、愛称「ALFA-X(アルファエックス)」の開発を進めている。完成予定は2019年5月だ。試験走行の最高速度は時速400km程度が目標で、営業運転の最高速度は時速360kmが計画されている(現在は「はやぶさ」(E5系)による時速320kmが営業運転の最高速度)。

 「ALFA-X」とは、「Advanced Labs for Frontline Activity in rail eXperimentation」の略で、訳すと”最先端の実験を行うための先進的な試験室(車)”という意味になる。JR東日本の新幹線開発用の試験車両としては、1992(平成4)~98(平成10)年に試験を担当した「STAR21」(試験最高速度・時速425kmを記録)、2005(平成17)~2009(平成21)年の「FASTECH360」(試験最高速度・時速398kmを記録)に次ぐ3代目となる。

 「ALFA-X」は、「さらなる安全性・安定性の追求」、「快適性の向上」、「環境性能の向上」、「メンテナンスの革新」の4つをコンセプトとし、全10両の1編成が開発される。

先頭車両は1号車と10号車でそれぞれ異なる形状を採用

 2種類の新型先頭車両の形状が開発され、トンネル突入時の圧力波を抑制するためのデザインのデータ収集が行われる。この2種類で得られたデータを基に営業車両の形状が開発される。この2種類のうちのどちらかの性能がよければ、採用される可能性もある。

 東京寄りの1号車は先頭長が約16mで、約15mの現行「E5系」とそれほど変わらない。車両後端側の乗客乗降用ドアがなくなってはいるが、シートは同じ6列が確保されている(乗降用ドアは前側にある)。室内空間の確保と、トンネル突入時の圧力波の抑制という相反する2要素のバランスを取った形状だ。”削ぎ”、”うねり”、”拡がり”といった、風の流れによって作られる要素を取り込んでいる。

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1号車を斜め上から見たイメージCG。ここまで「削ぐ」デザインを先頭車両に採用した車両もあまり見かけない。画像提供:JR東日本

 一方の新青森寄りの10号車は、先頭長を「E5系」よりも大幅に長くしており、約22mというロングノーズ。そのため、シートは3列しかない。10号車の造形は、”台車部を覆うせり出した造形”、”運転士を包み込む造形”、”後方に向けて滑らかにつなぐ造形”の3要素で構成されている。

 しかも窓の位置から見ると、3列目は車両後端ギリギリまで寄せてあることから、先頭車にはトイレなどの設備がないことが見て取れる。その代わりに、2両目前端部に設けているようだ。その関係で9号車のシートは14列しかない。一方、2号車は21列となっている。先頭車の形状により、2列目のシート数も変わってくるのがわかる。

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10号車を斜め上から見たイメージCG。客席数を「E5系」および1号車の半分の3列にしてでも空力を重視したデザイン。先頭長が約22mある。画像提供:JR東日本

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(上)「ALFA-X」の1号車と2号車を真横から見た図。先頭長は「E5系」から約1m長くなっただけで、シート数は6列と変わらない。ただし後端側のドアはなくなった。(下)10号車をと9号車を真横から見た図。1号車に対し、10号車のロングノーズが際立つ。また、1号車+2号車と10号車+9号車を比較すると、窓の数や位置が大きく異なるのがわかる。画像提供:JR東日本

 「ALFA-X」のカラーリングは周囲の色を取り込む明るいメタリックのボディに、爽快感のある明るいグリーンの側帯(がわおび)が選ばれている。このグリーンは自然をイメージし、また都市間における人々の活発な行き交いも表現しているという。また先頭車では、そのグリーンの側帯が交差して”X”になるデザインが採用されている。これは、ALFA-Xによって人々や情報がより親密に行き交う様子を表しているという。

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アルミ合金製の車体が眩しい、製作中の1号車。画像提供:JR東日本

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各種機能にクローズアップ!

より早く安全に止まるための機能は2種類!

 ひとつ目のコンセプトの「安全性・安定性」については”ひとつ上の安全と安定を実現する”として、「早く、安全に止まる」、「安全を自律的に判断」、「雪と寒さに強い」の3要素が掲げられている。

 地震時により「早く、安全に止まる」ために開発されている新機能はふたつだ。ひとつ目は、車両の屋根に搭載される「空力抵抗板ユニット」で、いわゆるエアブレーキのことである。ユニット自体のサイズは横幅約102cm×奥行き約56cmで、この約4分の1のサイズの板が2枚立ち上がる。イメージCGによれば、中間車両の屋根には14ユニットが搭載される模様だ。

 そしてもうひとつのブレーキ系で新たに搭載される技術が、「リニア式減速度増加装置」。コイルをレールに近づけて、電磁気力で減速させるというものだ。

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「空力抵抗板ユニット」。エアブレーキが作動していない状態。画像提供:JR東日本

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「空力抵抗板ユニット」を作動させた状態。空気抵抗を増加させる補助ブレーキのひとつとして、減速効果を高める。画像提供:JR東日本

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(上)中間車両を横方向から見た場合の、「空力抵抗板ユニット」を作動させたイメージ図。(下)真上から見た中間車両の屋根の、「空力抵抗板ユニット」の配置図。画像提供:JR東日本

地震で脱線しにくくする装置も2種類を搭載予定!

 さらに、「早く、安全に止まる」技術として、より脱線しにくくさせるための技術も開発される。「地震対策ダンパ」と「クラッシャブルストッパ」だ。このふたつは関連した技術となっている。「地震対策ダンパ」は、地震による震動を受けたときにのみ強い減衰力を発揮し、車両の横揺れを抑制するというもの。

 さらに強い衝撃を受けた場合に機能するのが、左右に設置された「クラッシャブルストッパ」だ。車体中央に設置されている「中心ピン」が左右の「クラッシャブルストッパ」を押しつぶし、両ストッパの左右間を拡張。これにより「地震対策ダンパ」がさらに効果を発揮できるようになり、また同時に衝撃も緩和し、車輪とレール間に強い力を発生させないようにするという仕組みだ。

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「地震対策ダンパ」と「クラッシャブルストッパ」(右下)。画像提供:JR東日本

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「地震対策ダンパ」と「クラッシャブルストッパ」の配置図。「クラッシャブルストッパ」は左右にあり、強い衝撃を受けた際に中心ピンによって押しつぶされ、「地震対策ダンパ」がより効力を発揮できるようになる。それと同時に、衝撃を緩和させることができ、車輪とレールの間に強い力を発生させないようにする。画像提供:JR東日本

台車・車体・軸箱などにセンサを設置してモニタリング!

 「安全を自律的に判断」では、車体、台車、軸箱などへの振動センサと温度センサを設置し、台車の異常状態を把握するシステム「台車モニタリング」機能を搭載することで実現。振動センサは、車体と台車の異常な動きを検知するもので、また車軸の回転部の異常な予兆も早期に把握する。また車軸の回転部に関しては、温度センサでも異常がないかを確認する仕組みだ。

雪に対しても強く! 新たな床下構造の試験も実施

 JR東日本の新幹線は降雪地帯を走る路線が多いため、「雪と寒さに強い」ことが重要だ。現行車両の床下構造だと、台車部へ雪が吹き込んでしまうため、着雪してしまっていた。それを台車部の前後の形状を変更することにより、台車部へ吹き込む雪の量を減らすようにする計画だ。

左右上下の揺れの抑制と車体の傾斜制御で乗り心地を向上!

 ふたつ目のコンセプトである「快適性の向上」については、乗り心地の向上のことを指す。車体と台車の接点、車両中央部に搭載されるのが、横方向の揺れを抑える「動揺防止制御装置」だ。そして同時に車両の両脇に台車の両端と結ぶ「上下制振装置」も装備。これで横揺れと縦揺れを減衰させ、衝撃が乗客に伝わらない滑らかさを提供するというわけだ。

 さらに、カーブを通過する際に車体を傾斜させて極力水平を保つようにする「車体傾斜制御装置」も搭載される。つい最高速のアップに目が行きがちだが、それだけではなく、乗り心地も向上させていくのが「次世代新幹線」だ。

環境性能向上のために2種類の低騒音パンタグラフの試験を実施!

 次世代新幹線にとって、3つ目のコンセプトである「環境性能の向上」も重要なポイント。最高速度を上げれば上げるほど、発生する騒音が大きくなっていく。先頭車両の形状以外では、車体の大きな突起物であるパンタグラフの形状も重要だ。実際、新幹線の車両開発の歴史において、常に改良が行われているといっていいのがパンタグラフ。そこで今回は、2種類のパンタグラフが開発され、「ALFA-X」に搭載される。走行試験においてどちらがより低騒音なのかを確かめていく計画だ。

 2種類のパンタグラフのうちのひとつは、アーム部分のヒンジ部をカバー内に配置することで空力騒音を低減させたモデル。ヒンジ部は人体でいえば関節部であり、強度を稼ぐためにどうしても構造的に大きくなってしまう。そこで、エアロを考慮した形状のカバーでヒンジ部を覆ってしまい、空気抵抗を減らすようにしたのである。それに対してもうひとつは、ヒンジ部が現行の「E5系」などと同様にむき出しのままだが、その構造やカバーの形状が改良されており、空力騒音を低減させたモデルだ。

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(左)ヒンジ部をカバーで覆ったタイプのパンタグラフ。(右)ヒンジ部はカバーで覆われていないが、ヒンジ部の空気抵抗を減らし、カバー部も形状を改良したタイプ。

 さらに、ブレーキディスクの改良も行われる。ブレーキディスク裏面に設けられている冷却フィンの形状は、車体下部で発生する空力騒音のひとつ。その低減のため、ブレーキ裏面の形状も新たに開発される計画だ。

車両や地上設備にモニタリング機能を搭載しメンテナンス性向上!

 4つ目のコンセプトの「メンテナンスの革新」は、メンテナンス性を向上させ、より安全・安定性のある運行を実現するためのものだ。「台車モニタリング」だけでなく、そのほかにも車両の各種機器や、地上設備などをモニタリングする装置が搭載される。「ALFA-X」の試験走行を通じてデータを収集し、それらを活用してさらなる安全・安定輸送を目指すという。

 それに加え、故障を未然に防止する点検方式の「CBM」(*1)の実現も目指すとしている。CBMとは、車体各所にセンサーを設置して状態を常時把握し、故障の予兆を早期発見して故障が発生しないようにする予防型の整備点検方式だ。

 従来の定期点検型は「TBM」(*2)と呼ばれ、保全計画の立案が容易という大きなメリットがあるが、点検直後であっても故障が発生することもあるし、突発的な故障への対応が困難な上、安全性を重視するほどその部品の寿命期間を多く残しての交換や期間の短い点検を必要とするようになるなど、コスト増につながっていた。

 CBMの場合、各種センサーや計測機器などの新設・追加を必要としてコストが増加する部分もあるが、一方で人手による定期検査が不要となる。またセンサーなどから得られた膨大なデータを判定する作業が必要なことがこれまではCBMの実現を困難としていたが、近年のIT技術の進展によって可能になったという。

※1 CBM:Condition Based Maintenanceの略で、「状態基準保全」を意味する。時間にとらわれず、センサーなどのデータから故障の予兆をとらえて保全していく方式
※2 TBM:Time Based Maintenanceの略で、「時間基準保全」を意味する。定期点検など、一定期間ごとに点検して整備する方式

 現行車両のうち、冒頭で紹介した第1世代の試験車両「STAR21」のデータを反映させて開発したのが「E2系」~「E4系」で、第2世代の「FASTECH360」から開発されたのが「E5系」~「E7系」。今回の「ALFA-X」をベースとした車両はおそらく「E8系」ということになるものと予想される。「ALFA-X」での開発は2020年代半ばぐらいまで続くと思われ、おそらく「E8系」は2020年代後半に出てくるのではないだろうか? 環境に配慮しつつも、さらに乗り心地もよくて最高速度も時速40kmアップという次世代新幹線。どのような新幹線が開発されるのか、「ALFA-X」から想像しつつ乗れる日を楽しみに待とう。

2018年10月16日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)

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