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クルマ最終更新日:2022.08.17 公開日:2022.08.17

ホイールでクルマの雰囲気が一変!? ホイールデザインの最新トレンド。

色、形、そして素材。ホイールのバリエーションはまさに無限大だ。性能向上だけでなく見た目の良さを追求している点も興味深い。今回はホイールデザインのトレンドについて、モータージャーナリストの小川フミオが解説する。

文=小川フミオ

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ロードホイールの進化史

馬車を彷彿とさせるアーティラリーホイールを履く1921年当時のメルセデス・ベンツ車。

 オシャレは足元から、という言葉があるとおり、クルマでもロードホイールは重要だ。このデザインでクルマの雰囲気がけっこう変わる。日本ではホイールというけれど、英語圏だとどっちかというと、ステアリングホイール(ハンドル)を意味して、それと区別するためにロードホイールということが多い。

 種類は豊富だ。形式をみても、馬車から引き続いたアーティラリーホイール(いまはないけれど)、鉄板を曲げたようなスチールホイール、ボンドカーのDB5も履いているワイヤホイール、60年代に広まりはじめた鍛造合金ホイールといったぐあい。ほんとはもっと細かい。素材も同様。最初は木製だったものが、鉄になり、アルミニウムやマグネシウムなどの軽合金を使うように。発展の過程ではいくつもの冒険があった。

 ジープM422(1959年)は空輸することを前提とした軽量化をぎりぎりまで進めたモデルで、ロードホイールもアルミニウム合金製。ところが強度不足のため、走行中にボルト孔が広がってしまうというトラブルが多発したとか。

ボンドカーとして知られるアストンマーティン DB5の美しいワイヤーホイール。

シトロエン SMに採用されたミシュラン製の合成樹脂ロードホイール。

シトロエン SM

 シトロエンはタイヤメーカーのミシュランに依頼して、SM(70年)というスペシャルティクーペに、合成樹脂のロードホイールを用意した。ラリーで勝つためボディの軽量化が必要だったからという。一体成型できるからコスト的にもメリットがあった。ただ、SMが生産中止されてから、同様のロードホイールに手を出すメーカーの話は聞かない。

 トヨタGRスポーツとレクサスでは現在、多くのドイツ車と同様、ハブボルトという締結方式をいくつものモデルに採用している。一般的な日本車のロードホイールは、ホイールハブ側に取り付けられたボルトにナットで締結する。タイヤ交換したことがあるひとはよくご存知ですね。

最新のレクサス車は、ホイール締結方法を徐々にハブボルト式を変更している。

最新のレクサス車は、ホイール締結方法を徐々にハブボルト式に変更している。

 それに対して、ハブボルト方式は、ホイールハブにネジ孔が切ってあり、そこにボルトを回していれてロードホイールを締結する。メリットは剛性アップ。「ハンドリングがすばらしく向上する」と、レクサスのテストドライバー氏は高く評価していた。これも、ロードホイールの進化史に入れてもいいんじゃないだろうか。

 昔は軽合金ホイールはかなりスペシャルなオプションという感があったものの、いまはかなり一般化。輸入車などはとりわけ、ベースグレードがスチールホイールで、ほかは軽合金ホイールが標準なんてことが多い。

ホイールのデザインは無限大?

アウディ RS Q8|Audi RS Q8

アウディ RS Q8

ランドローバー レンジローバー|Land Rover Range Rover

ランドローバー レンジローバー

 デザインはどうだろう。最新の傾向というと、大径化だ。アウディRS Q8、アストンマーティンDBX707、それに新型レンジローバー。これらの高性能SUVは23インチホイールが用意されている。「力強く見えて他との差別化に役立つと市場で評価されているため、あえて採用しています」。先日私が参加した北米での試乗会の会場で、レンジローバーの製品企画担当者がそう教えてくれた。

 ロードホイール大径化の理由は、タイヤの扁平率(幅に対する高さの割合)と関係している。扁平率を低くすることでタイヤの変型を防ぎハンドリングの向上を目指す。もうひとつの理由は、より大径の高性能ブレーキシステムが収められることだ。

 個人的には、とくにクロスカントリー型という本格的な4WDの場合、タイヤの扁平率は出来るだけ高いほうが、いざ悪路ということを考えると安心する。ロードホイールもガリガリ岩で傷ついても気にならないものがいい。これもひとつの重要な機能だと思うけれど、本題とはすこしズレてますね。

 デザインに話を戻すと、私が感心しているのは、よくぞ意匠が尽きないなあ、ということ。これだけの数のクルマが作られているのに、類似デザインが少ない。デザイナーがもっとも重要視しなくてはいけないのが強度で、それからブランドやモデルのイメージに即した意匠も必要だ。

マセラティの新型SUV「グレース」のホイール。同社のアイコンであるトライデントをモチーフにしている。

マセラティの新型SUV「グレース」のホイール。同社のアイコンであるトライデントをモチーフにしている。

マセラティがウゴラと呼ぶ、特徴的なデザインのホイール。

マセラティがウゴラと呼ぶ、特徴的なデザインのホイール。

 おもしろいのは、最新のマセラティMC20クーペの試乗の場で、デザイナーに会ったとき。「ロードホイールにもマセラティのイメージを入れるようにしていますよ」と言われた。マセラティのフロントグリルの意匠を採用したロードホイールが用意されているのだ。ひとつはトライデント。マセラティ発祥の地であるボローニャの広場にあるトリトン像が手にする三叉の鉾(ほこ)のことである。それがスポークのデザインに活かされている。

 もうひとつは、フロントグリルの形状をモチーフにしたロードホイールだ。リム上辺から中心に向かって垂れているデザインをマセラティは「ウゴラ ugola」(口蓋垂=意味は調べてください)と呼んでいる。

 ジープの新型グラディエーター・ルビコンに日本で試乗したとき、ロードホイールのリムに、小さな小さなジープのアイコンが赤色でプリントされていた。こういうのは、”イースターエッグ”と自動車デザイン界では呼ぶ。

 欧米などでキリスト教の復活祭のとき、卵に色をつけたりして、それを草むらに隠して見つけるのを楽しむ、子どもの遊びがある。それに起因しているのだ。ロードホイールには、こんなふうに、隠された楽しみもある。そこもデザインに興味がつきない点だ。

ホイールのリムに赤色でペイントされた隠れジープ。

ホイールのリムに赤色でペイントされた隠れジープ。

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