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クルマ最終更新日:2019.11.27 公開日:2019.11.27

カーラジオから流れる60’sサウンド。タランティーノの音楽世界へようこそ!

クエンティン・タランティーノ監督の9作目となる映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、今年話題を呼んだ作品のひとつ。特に本作は音楽を流しながらのドライブシーンが多く、カーラジオから60年代のゴキゲンなロックやポップスがひっきりなしに流れている。本記事では、タランティーノの音楽センスと独自の美学を解剖する。

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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド サウンドトラック』ソニー・ミュージックレーベルズ

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド サウンドトラック』ソニー・ミュージックレーベルズ

カーラジオから流れる60年代ヒットソングの数々

 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、クエンティン・タランティーノの通算9作目となる監督作品。落ち目の俳優リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)と、彼の専属スタントマンを務めるクリフ・ブース(ブラッド・ピット)の友情と絆を軸に、ハリウッド黄金時代の終焉が描かれている。レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットのダブル主演が話題となり、未公開の4つのシーンを加えた10分拡大版が後から公開されるなど、今年大きな注目を集めた一作だ。

 本作ではブラッド・ピットを筆頭に、出演する俳優陣がハリウッドの市街地をドライブする場面が頻出。60年代のゴキゲンなヒット曲とともに、1969年の古き良きハリウッドの街並みにタイムスリップしたかのような気分にさせられる。

 劇中で数多く登場するドライブシーンの中でも、筆者が特に心を掴まれたのは冒頭近くのワンシーン。当時注目されていた映画監督ロマン・ポランスキー(ラファウ・ザヴィエルチャ)と、この作品のヒロインとなるシャロン・テート(マーゴット・ロビー)が、MG-TDのオープンカーでパーティー会場へ向かう場面だ。

 この場面では、ディープ・パープルの『Hush』が流れるのだが「今まで付き合った中でも最高の彼女」という詞の部分で、助手席のシャロン・テートがアップで映し出される。ハリウッドの街中をパーティー会場に向かって疾走するテンションと、助手席にいる最愛の彼女が最も輝いている瞬間。これらが見事にオーバーラップして、見る者の心を揺さぶる名シーンとなっている。

特徴的なタランティーノ映画のサントラアルバム

 さて、ここからはタランティーノ映画のサントラアルバムについて触れてみたい。

 タランティーノ映画のサントラといえば、曲間に劇中のセリフが入っているものがお馴染みだが『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のサントラは一味違う。ドライブシーンが多いことから、サントラもカーラジオから流れているようなシチュエーションが再現されているのだ。ラジオDJのハイテンションなナレーションから始まる曲も多く、60年代のノスタルジックな雰囲気に思いを馳せつつ、クルマを走らせるのに最適な一枚となっている。

 自らサントラのプロデュースにもしっかり関わり、楽曲使いの名手でもあるタランティーノ。時には大胆に過去の映画のテーマ曲を自身の映画に採用し、オリジナル作品の知名度を凌駕することも多い。

 いちばん有名なのは、タランティーノの代表作ともいえる『キル・ビル』のテーマ曲『BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY』。布袋寅泰のギターが冴えまくるインストナンバーだが、元々はこの曲、2000年に公開された『新・仁義なき戦い。』のテーマ曲なのだ。曲のタイトルも『仁義なき戦い』を英語に訳したものだが、今や世の中的には、すっかり『キル・ビル』のテーマとして認知されている。

 そんなタランティーノのフィルモグラフィーの中で、最もストレートに他映画の主題歌がフィーチャーされているのは、日本では1998年に公開された『ジャッキー・ブラウン』だ。この作品では、1972年のクライムムービー『110番街交差点』の主題歌をそのまま自身の作品の主題歌として採用。しかも思いっきりオープニングタイトルで使うという大胆なセレクトに、当時驚かされた人も多いことだろう。

最新作では一味違う粋な選曲が!

 上記の例に漏れず最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でも、物語のキーとなるシーンで、他映画のテーマ曲が採用されている。映画の中盤でヒロインのシャロン・テートが、夕暮れのハリウッドを背にスローモーションで歩いていくシーン。ここで『California Dreamin’(夢のカリフォルニア)』が流れるのだが、実はこの曲と同タイトルの青春映画があり、この曲が映画主題歌となっている。

 『California Dreamin’(夢のカリフォルニア)』は、60年代に活躍したフォークグループ「ママス&パパス」のヒットナンバー。歌詞を紐解くと切なさがこみ上げてくるものの、爽やかなグループサウンズとして馴染みのある曲に仕上がっている。だが『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の劇中で使われているのは、当時ヒットしたオリジナルではないのがポイントだ。

 劇中では盲目の歌手、ホセ・フェリシアーノによるカバーバージョンが採用されており、ヒットした原曲とはイメージがまったく異なっている。ホセ・フェリシアーノのバージョンでは、哀愁漂うボーカルとギターが見事に歌詞の世界を表現。「ハリウッド全盛期の終焉」といった劇中の雰囲気を見事に象徴しているのだ。こうした、通をも唸らす選曲が随所に仕込まれているのもタランティーノ作品の大きな魅力だ。

 古き良きハリウッドを駆け抜けるドライブシーンに、ゴキゲンな60年代ヒット曲が満載の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』。クルマ好きにも音楽好きにもたまらないシーンが詰まったこの作品のサントラアルバムには、懐かしの名曲がたっぷり31曲詰め込まれている。この時代を良く知る人はもちろん、映画で初めて60年代の光景を見たという人も、このサントラとともに遠い昔のハリウッドに思いを馳せてクルマを走らせてみてはいかがだろうか。

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