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クルマ最終更新日:2018.11.28 公開日:2018.11.28

菰田潔の【良い車、売れる車】その3 日本車とドイツ車の違い

売れる車は良い車か?ということについて、 モータージャーナリスト菰田潔氏が論を展開。 今回は日本車とドイツ車の違いを徹底解説します。

菰田潔

 前回は、ドイツ車が日本人の嗜好に合っているという話を書きました。それは、きちっと作られているドイツ車が、日本人の求めるクオリティに適っているという話でした。つまり主に工業製品の品質の面からの言及でした。でも、製品品質が高いからということだけで、人気があるのでしょうか。もちろんそうではありません。今回は、分かりやすく考えるために、日本車とドイツ車の違いについて言及したいと思います。

開発の前提とする速度が違う

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 両車の違い、これは何かというと、まず想定している速度レンジが違います。ドイツ車は特性を、「走る」方向に振ってあります。これは何もベンツやBMWなどのプレミアムブランドだけではありません。VWなどの日本車と同じような価格帯の車であっても同様なのです。よく言われる例が、ドイツのアウトバーンです。この高速道路は推奨スピードが時速130kmに設定されています。そもそもこのスピードが日本の高速道路よりも高い。日本では一部の高速道路で時速110kmが試行され始めていますが、それでもドイツに比べるとまだ低い。アウトバーンでは、実際には時速150kmとか160kmとかで走っているドライバーも多いわけです。中には時速200kmオーバーで走る人もいます。そうしたハイスピードな環境でもしっかり走れるように作ってあるのがドイツ車です。

 例えば、アウトバーンでは道路工事をする区間であっても、車線数は減りません。車線の幅を狭めるんです。工事区間を通過するときは時速80kmに設定される一方で、車線幅は2m程度になります。この幅だと、ミラーの幅も含めると、左右10cm程度しか道幅が残されていないわけです。一方の日本では車線数自体が減り、制限速度も場合によっては時速30kmとか40kmに制限されます。この比較でもお分かりの通り、ドイツの環境では、車がいかに正確にコントロールできるかが非常に大事なんです。

一度に走る距離が違う

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 それからドイツの場合、一度に走る距離が長いのも特徴です。日本では考えられないことかもしれませんが、大陸の国であるドイツでは、海外旅行に行くのに飛行機で行くのか車で行くのかを選択するのです。飛行場まで行って飛行機を待って、飛行機乗って現地の飛行場から車で移動する。これとドアtoドアで家からそのまま車で行くのか。この二つをイーブンに比較する国民性ということがあります。一回のドライブで1000~1500kmくらいは優に走ってしまうのです。だから長距離を走っても疲れない、ということも車の性能で重視されます。疲れない、ということを実現するために、ボディを頑丈に作ってシートの性能も良くして、長時間座っても腰が痛くならないようにします。

 片や日本では、絶対的なスピードが低いということに加えて、渋滞も多く、かつ近距離間の移動が非常に多い。そういう環境で求められるのは、なるべく静かに走れて、低い速度で快適なことです。ですから日本車は、地面の凹凸からの衝撃もできるだけ柔らかく乗員に伝える。低速での外から車への入力をできるだけソフトにする方向での味付けがされています。日本車からドイツ車に乗り換えると、「ずいぶんカタイな」と感じるはずです。

 パワーソースにしても、ボディ形状にしても色々なバリエーションが用意されているのは日本車もドイツ車も同じですが、ドイツ車は長距離をハイスピードで走ることを想定しているので、当然日本車とは乗り味が異なってくるのです。

運転感覚が違う

 運転感覚も違います。例えばアクセルとブレーキです。日本では、ストップアンドゴーが頻繁なので、アクセルペダルをちょっと踏んだだけで、グンと前に出るセッティングになっている車が非常に多い。馬力のある車に限らず、エントリーカーでもそうです。一方ドイツ車は性能がすごく高い車でも、アクセルのゲイン(入力に対する出力比)がそれほど高くない。600馬力あったり、700Nmあったりする車も多く存在しますが、アクセルペダルを少し踏んだら少しだけ前に。踏み足すとその分だけ加速する。ゆっくり走ろうとすれば普通にゆっくり走れるんです。

 ドイツ車はブレーキも、高速からでも素早く減速するようにパッドの材質も違います。その分、微低速からはいきなり効くように感じるかもしれません。踏み代ではなく、踏力で制動力をコントロールします。一方日本車では低速での効きやコントロール性を重視し、ブレーキの鳴きやパッドの汚れなどが出ない設計になっています。加えて、軽い踏み込みでも強く制動する設定になっている車が多くあります。頻繁な発進・停止を行うには「その方が安心」と考えるドライバーが多いからかもしれません。この比較から、ドイツ車は短時間だけ乗って満足するのではなくて、長い期間車と接したときに満足するように作っているなと感じます。

どんなドライバーがドイツ車に向いているか

 以上のことから、日本でも長距離を走る機会が多いドライバーがドイツ車を選択するということは、決して間違っていないという理屈になります。また、正確にコントロールできる車が欲しいという人にもドイツ車は向いているでしょう。ただし、日本車ほどドライバーの曖昧な運転動作を許容しません。基本に忠実でない運転の場合は、車の動きがギクシャクするのがドイツ車です。低速での快適性だけを享受したいのであれば、日本車のほうが合っている可能性が高いでしょう。その1でも言及しましたが、自分のライフスタイル・使い方に沿った車選びをする、これが幸せなカーライフを送るための秘訣です。

2018年11月27日(モータージャーナリスト 菰田潔)

菰田潔(こもだきよし):モータージャーナリスト。1950年生まれ。 タイヤテストドライバーなどを経て、1984年から現職。日本自動車ジャーナリスト協会会長 / 一般社団法人 日本自動車連盟(JAF)交通安全・環境委員会 委員 / 警察庁 運転免許課懇談会委員 /NPO法人 日本スマートドライバー機構 理事長/ 国土交通省 道路局環境安全課 検討会 委員 / BMW Driving Experienceチーフインストラクター / 運送会社など企業向けの実践的なエコドライブ講習、安全運転講習、教習所の教官の教育なども行う。

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