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クルマ最終更新日:2017.05.22 公開日:2017.05.22

「S Dream Streamliner」の秘密。軽のエンジンで時速420kmに到達できた理由に迫る! 

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軽自動車スポーツカーのホンダ「S660」に搭載されているターボ搭載658ccエンジン「S07A」の改良型で最高速を達成したホンダ「S Dream Streamliner」。

 米ユタ州ソルトフラッツにある「ボンネビル・スピードウェイ」で毎年開催されている、2輪および4輪による世界最高速チャレンジ「Mike Cook’s Bonneville Shootout(マイク・クック・ボンネビル・シュートアウト)」。2016年大会は9月15~20日に行われ、ホンダから本田技術研究所 四輪R&Dセンターの若手有志で結成されたチームが参戦した。

 その際に開発されたのが「S Dream Streamliner」で、世界記録の時速421.595kmを達成。大会や記録の詳細、そして公表されている同車の情報などに関してはこちらで紹介した通りだ。

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大会参加中の様子。干上がった塩湖の跡にできた堆積した塩の平原など、日本ではお目にはかかれない光景である。

 しかし、S Dream Streamlinerの前から見ると新幹線、後ろから見ると航空機というようなデザインはどこから導き出されたのか? なぜ軽自動車のエンジンで挑んだのか、またなぜ時速420kmも出せるのか、疑問は尽きない。そこで、開発チームに話を聞いてみた。

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S Dream Streamlinerに搭載された、S07Aエンジンの改良強化型。ノーマルの約4倍の186.8kW/7700rpmにまでチューンしたという。

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S Dream Streamlinerの秘密に迫る!

660ccのエンジンを選んだ理由とは?

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S660に搭載されているノーマルのS07A。直列3気筒のエンジンだ。

 一般的にエンジンに求められる性能というと、出力(馬力)とトルクのふたつである。そして、これまた当たり前の話ではあるが、出力はクルマの最高速に関係し、トルクは加速力に関係する。

 サーキットで競うようなモータースポーツと異なり、ボンネビル・シュートアウトは直線で8マイル(≒12.87km)の直線をひたすら最高速を叩き出すべく突っ走ればいいことから、加速力は求められない。とにかく出力が求められる。出力があればあるほど最高速がアップするからだ。

 一般的にエンジンは排気量が大きい方が出力が大きいことを考えれば、大排気量のエンジンの方がどちらかといえば最高速競技向きのはずだ。しかも、加速が鈍くても問題ないので、サーキットでのレースならデメリットになるような、大排気量の重い大型エンジンでもまったく問題ない。

 それにもかかわらず、今回、ホンダチームはあえて軽自動車の小型軽量な658ccのエンジンで挑んだ。最高速を叩き出すには、より難しいエンジンだと思うのだが、それでもS07Aがチョイスされたのはなぜか?

 まずはそのチョイスに関する質問をしてみたところ、「日本の軽自動車のエンジンでどれだけできるのかをチャレンジしたかったから」、という回答を得られた。あえて難しい道を選ぶのが、チャレンジングなホンダスピリットということなのだろう。

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なぜ660ccで時速420kmも出せるのか?

軽自動車のエンジンで時速420kmがなぜ可能なのか?

 しかし、いくらノーマルの47kW/6000rpmを、約4倍の186.8kW/7700rpmまでパワーアップしたといっても、軽自動車のエンジンで時速420kmに到達できるものなのだろうか?

 S07A改良型の186.8kWという数値は、できうる限りのチューニングを施して、とにかく絞り出すことができた最高出力、というわけではないという。たしかに、F1のエンジンが1万8000回転まで回せることを考えると、一緒にはできないものの、まだ出力を上げる余裕はありそうだ。しかし、世界最高速記録を狙うのには、そこまでの出力は必要なかったのだろう。狙うべき最高速度から計算し、それに必要な出力を実際のエンジンで実現したというわけだ。

 とはいえ、最高出力を約4倍にまでパワーアップするのは簡単ではない。ターボの過給圧が変更されたほか、さまざまな改良強化がS07Aエンジンに加えられた。中でもターボの強化は最高出力のアップに重要だったようで、軽自動車用のシングルターボでここまでできるということを証明した形だ。なお、エンジンはミッドシップにマウントされている。

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S07A改良型のターボ。時速420kmに到達した際は、どんなタービン音が聞こえたのだろうか?

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続いてはデザインについて迫る!

このデザインはどうやって生まれた?

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S Dream Streamlinerを前方から。少し新幹線にも似たデザインである。

 続いては、ボディについてだ。S Dream Streamlinerは一見するとクルマとは思えないようなデザインが特徴だ。この細長さはほかのモータースポーツでもあまり類例がなく、多少なりとも似ているところがあるといえそうなのが、直線コースを1対1で走ってどちらが速いのかを競うドラッグレースのトップカテゴリー・トップフューエル用のマシンぐらいだろう。

 低速では小さな空気抵抗も、速度の二乗で大きくなっていくため、最高速を狙うには何よりも空力が優れていることが重要になる。それにはどれだけボディの空気抵抗を減らせるかがポイントとなるので、S Dream Streamlinerは前面投影面積が可能な限り小さくなるように設計された。そのため、コックピットはパイロットがひとり乗れるだけのスペースしかない。しかも、ほぼ仰向けに寝そべるようにしてドライビングするという。

 また空気抵抗を少しでも減らすための工夫として、ボディの開口部をできるだけなくしたという。そのため、タイヤなどもすべてカウル内に収められている。ちなみにS Dream Streamlinerは4輪車で後輪駆動。タイヤの太さは公表されていないが、専用タイヤを装着しているらしい。

15mほどの全長にはどんな意味が?

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全長などサイズは公表されていないが、目測で15mほど。

 そして、目測で15mほど(サイズや車重は公表されていない)のあの全長だが、この長さにどんな意味があるのか? 実は、直進安定性を考慮した長さなのだという。

 また、ダウンフォースで地面に押さえつけないとトラクションがかからず、どれだけパワーがあってもタイヤが空転してしまいそうなイメージがあるが、実は最高速競技の場合はダウンフォースが抵抗になってしまうデメリットもある。そのため、浮き上がらないギリギリを追求しているのだそうだ。

 なお、ボディのフレームはスチールパイプで構成されており、表面の素材はカーボン製だ。

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時速420kmの世界はどんな風に見える?

ドライバー・宮城光氏の時速420kmの世界の感想

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いくらソルトフラットが塩の平原とはいえ、舗装路ではない以上、時速420kmで走るにはかなりの振動が発生するはず。

 F1のコックピットもバスタブなどといわれるが、それどころではなく、ほとんど仰向けに寝るような体勢でドライビングするS Dream Streamliner。そんな姿勢ながら見事なドライビングで世界記録を達成したのが、元ホンダワークスライダーの宮城光氏である。

 YouTubeで公開されている公式動画「[Me and Honda] Bonneville Speed Challenge Project | 世界最速記録への挑戦」では、コックピットの車載カメラによるドライビングの様子も一瞬ながら収録されており、こんなに寝てて大丈夫なのかと驚かされる。

 同氏によれば、時速420kmの世界はやはりとてつもないという。コースは、1マイル(≒1.6km)ごとにコース幅25mを示すパイロンが設置されているのだが、地面が堆積した塩だけなので周囲が真っ白なこともあってどこがコースだかわからなくなるそうで、正面の小山に向かって走ったそうだ。

 ちなみに、時速420kmに到達するまでは、95秒かかるそうである。また、逆に時速420kmから停止するまでは約20秒、距離にして約1kmかかるという。ドラッグレースなどと同じで、一般的なブレーキではなく、専用のパラシュートで減速するそうだ。

 かくも壮絶な時速420kmの世界だが、それをわずか658ccの軽自動車用エンジンで達成した秘密に迫れた…………かどうかは分からないが、とにかく次も期待したいS Dream Streamlinerの活躍である。

YouTubeにアップされている公式動画、[Me and Honda] Bonneville Speed Challenge Project | 世界最速記録への挑戦。

2017年5月19日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)

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