北海道の噴火湾を横断する道路ができたら!? 室蘭と森を結ぶ計画はあり得るか。【いま気になる道路計画】
北海道の工業都市・室蘭から観光都市・函館までは、道央自動車道と函館新道、もしくは国道と道道を利用するが、噴火湾(内浦湾)の沿岸部をぐるりと迂回するため、高速道路でも3時間を要する。もしも噴火湾を横断する長大橋や海底トンネルをつくったら? 果たして「噴火湾横断道路」は実現可能なのか、既存の計画や構想と比較しながら可能性を探ってみる。
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噴火湾を横断する道路をつくるとしたら?
北海道では鉄鋼業の盛んな室蘭市と、人口規模では第3の都市で観光業が盛んな函館市のアクセスルートは道央自動車道と函館新道、あるいは国道(5号と37号)となる。いずれのルートでも、北海道の南西部に位置する巨大な噴火湾(内浦湾ともいう)を大きく迂回するため、高速道路でも3時間を要する。
そのため地元の居住者は冗談半分で「噴火湾に橋やトンネルをつくって、室蘭の地球岬あたりから函館の手前の森あたりまでをつないだら、時間を短縮できそうだけど」と話題にすることもある。
荒唐無稽といえるような話ではあるものの、実際、国内には「津軽海峡大橋」「東京湾口道路」「錦江湾横断道路」のような夢のある海峡横断道路構想がいくつも存在している。
果たして、地元民の冗談話ながらも、実際、この横断道路計画(仮に噴火湾横断道路としよう)に実現可能性はあるのだろうか? 室蘭港を横断する「白鳥新道(白鳥大橋)」や「錦江湾横断道路計画」 の構想などと比較しながら検討してみたい。

噴火湾の位置と噴火湾横断道路(仮)のルート図。 画像は編集部が作成。
延長を比較
室蘭の地球岬から森の砂崎までの直線距離はGoogleマップによると約30km。噴火湾横断道路の延長を仮に30kmとしよう。
まずは近場の室蘭港を横断する「白鳥大橋」が延長(橋長)1.38km。関門橋で延長1.68km、明石海峡大橋で延長約3.9km、。さらに、東京湾アクアライに至っても総延長は橋梁部と海底トンネル部を合わせても15.1kmしかない。噴火湾横断道路の延長30km(仮)のハードルは非常に高いように感じる。
次に、構想段階の道路計画の延長と比較してみる。函館と青森の間に長大橋や海底トンネルをつくる「津軽海峡大橋」の構想だと延長約17.5km~23㎞(ルートにより異なる)で、噴火湾横断道路の推定延長30㎞に近付いてはくるが、構想としては無理のある数字かもしれない。
水深を比較
延長に続いて水深を比較してみよう。まず、噴火湾の最大水深は107mとなっている。既存の海峡を横断する橋梁の延長と比較してみると、関門橋を架橋した関門海峡で最大水深は47m、明石海峡大橋を架橋した明石海峡の最大水深は約110km。既存の海峡を横断する海底トンネルの延長と比較してみると、関門トンネルの水深は56km(車道部)、青函トンネルの最大水深は海面下240m。
既存の長大橋や海底トンネルの水深と比較すると、噴火湾横断道路の構想は海底トンネルに限れば、意外にも無理のない数字といえるかもしれない。噴火湾の周辺には(その名のとおり)有珠山をはじめとした火山群が連なっている。このことを踏まえると、火山が噴火した際、長大橋は通行を制限せざるを得なくなる可能性が高いが、海底トンネルであれば大きな被害を免れ、災害時のリダンダンシー(代替路)として大きな役割を果たすことも期待できるだろう。
しかし、青函トンネルや明石海峡大橋など、水深の深い地点に建設した長大橋や海底トンネルは、いずれも超の付くほどの難関工事となっており、噴火湾横断道路についても例外ではないだろう。
以上のことから、噴火湾横断道路の技術的な難易度も高く工期と工費も嵩み、難工事の末に開通してもコストとベネフィットは見合わず、実現可能性が極めて低いことがわかった。
室蘭から函館までの高速道路で“歯抜け”となっている大沼~七飯~七飯藤城間の高速道路を完成させれば、大沼公園付近で顕著な渋滞も解消され、所要時間の短縮につながるはずだ。まずは、道南の高速道路の整備が進められることを期待したい。

北海道縦貫自動車道と函館新道の整備状況。画像は北海道縦貫自動車道建設促進道南地方期成会の資料より抜粋。