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最終更新日:2024.01.09 公開日:2022.06.17

車の所有者が死亡したら~相続税はどれくらいか、弁護士に訊いてみた~【クルマと法律vol.03】

交通問題やクルマに関する相談について、法律の見地から分かりやすく解説する新連載「クルマと法律」。今回は、所有者が亡くなった際のクルマの相続税について弁護士・芳仲美恵子先生に話を聞きました。

文=弁護士・芳仲美恵子

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 今回の相談はこちら
「亡くなった親が残した車を売却するにはどうすればいいですか? クルマには相続税がかかりますか?」

 ※文中の法律や手続きに関する記載は、2022年6月17日現在の情報です。

所有者が亡くなったクルマ。相続税はかかる?

相談者:前回(クルマと法律vol.02)は、クルマの所有者が亡くなった場合の売却と廃車の方法を相談しましたが、もし、クルマを相続した場合、相続税がかかるか気になってきました。どれくらいかかるのでしょうか?

芳仲弁護士:クルマは財産的価値のある動産ですから、クルマを相続したら、預貯金や不動産などと同様に相続税の課税対象になります。ただ、相続税というのは、財産ごとに負担するものではなくて、遺産全体の評価額に対してかかる税です。仮に、クルマだけを相続した相続人がいたとしても、クルマだけの評価から納税額が決まる訳ではありません。

相談者:え! そうなのですね。どうやって計算するのですか?

芳仲弁護士:まず、クルマも含めた全ての財産的価値のある財産を評価して合算。そこから負債を控除して、遺産全体の評価額を算出します。なお、相続人の人数によって基礎控除額が決まっていて、例えば、相続人が3人だと遺産の評価額が4800万円までは課税されません(相続税法15条)。

【遺産に係る基礎控除の計算方法】
基礎控除額=3000万円 +(600万円×法定相続人の数)

 また、誰がどの遺産を相続するかによって、遺産の評価において特例が受けられたり、特別な控除が受けられたりする場合があります。有名なのは、土地の評価が最大8割減額される小規模宅地の特例(租税特別措置法69条の4)や、配偶者が相続した遺産のうち1億6000万円までは課税されない配偶者控除(相続税法19条の2)などです。そういった過程を経て相続税の総額が計算され、個々の相続人は、自分が相続する財産の額に応じて割り付けられた税額を納税するのです。相続税についてご心配があれば、相続人一覧と遺産一覧などの資料を準備したうえで、税理士の相談を受けることをお勧めします。

クルマの評価額は中古車買取店などへの売却価格

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相談者:クルマの評価はどこで分かるのですか?

芳仲弁護士:クルマの評価については、国税庁が相続財産の評価基準として「財産評価基本通達」というものを定めています。それによると、クルマの評価は、中古市場で販売されている価格ではなく、中古車買取店などへの売却価格に相当する金額で差し支えないとされています。そのため最近では、年式や走行距離などを元に中古車買取相場をインターネットで検索。資料として提出することも多くなってきました。修理歴がある場合など、特別に低価格になる事情があるときはディーラーや中古車買取店に査定をお願いすることもあります。

相談者:クルマの売却価格が評価額になるのですね。ちなみに遺産を合算した結果よりも負債が大きい場合はどうなりますか?

芳仲弁護士:負債の方が大きい場合は、そもそも遺産を相続するかしないかもよく考えた方がいいでしょう。

 遺産を相続するということは、被相続人の権利も義務も承継することですから(民法920条)、プラスの財産を相続すれば、マイナスの財産(負債)も相続することになります。もし、財産よりも負債の方が多く、そもそも遺産相続はしたくないという場合には、家庭裁判所に「相続放棄」手続をとって、法律的にもともと相続人ではなかったことにする方法もあります。

相談者:へ~。相続しないという選択肢もあるのですね。

芳仲弁護士:遺産には故人が築き上げてきた財産や先祖から引き継いださまざまな財産がありますから、数字のプラスマイナスだけで判断すべきことがらとは必ずしも言い切れません。

 ただ、これまでご相談いただいた内容(vol.01~03)を踏まえると、単純にいえば、クルマも含めた全ての財産の評価額を合算。そこから負債を引いた額が、マイナスになる場合は、相続放棄を検討する余地がある。プラスだった場合は、誰が何を相続するかを遺産分割協議して決める。クルマについては、誰が相続するか、売却するのか、そのとき代金をどう分けるのか、廃車するのかといったことを考えることになるでしょう。

相談者:わかりました。ちなみに相続するかしないかは、いつまでに決めればいいですか?

芳仲弁護士:家庭裁判所に対する相続放棄の手続きは、被相続人が亡くなったのを知った時から原則として3ヶ月以内しかすることができないので注意が必要です(民法915条、921条2号)。なお、この期間に相続財産の全部または一部を売却や処分してしまうと、相続を承認したものとみなされて相続放棄できなくなります(民法921条1号)。クルマは、ある程度の価値があるのが通常ですから、クルマを売却してしまうと相続放棄はできなくなります。相続放棄を考えているが、クルマの処分は必要だという場合は、弁護士に相談した方がいいでしょう。

相談者:わかりました。クルマの評価額だけでなく、遺産全体をしっかり把握してから、手続きをするようにします。

 話は変わりますが、もし、相続人が全員相続放棄してしまったら、車はどうなるのですか? もし自宅以外の駐車場に停めていたら、駐車場のオーナーさんなどは、かなり気の毒な感じがしますが…。

芳仲弁護士:その場合は、駐車場のオーナーさんなど利害関係のある人が家庭裁判所に申立手続をして相続財産管理人(2023年4月1日以降は「相続財産清算人」)を選任してもらい、相続財産管理人に車を処分してもらうことになります。ただ、申立には数十万円から100万円前後の予納金を納める必要がありますので、正直、手続き利用のハードルはなかなか高いですね。ただ、車が高級車だったり、車以外にも価値の高い財産があったりして、相続財産管理人の費用が賄えるようであれば、予納金は戻ってきます。

相談者:そうなのですね。もし自分が駐車場のオーナーだったら、困ってしまいますね。貴重なお話ありがとうございました。

<クルマの相続に関する「クルマと法律」の記事はこちら>
車の所有者が死亡したら~名義変更について弁護士に訊いてみた~【クルマと法律vol.01】
車の所有者が死亡したら~売却や廃車について弁護士に訊いてみた~【クルマと法律vol.02】

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