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クルマ最終更新日:2023.06.19 公開日:2022.07.29

メルセデス・ベンツの優位性はEVでも保てるか? 電気自動車版Eクラス「EQE」を初試乗。

メルセデス・ベンツの新型電気自動車(BEV)「EQE」を試乗した。BEV版「Eクラス」とも言えるこの一台を、モータージャーナリストの大谷達也はどう評価した?

文=大谷達也 写真=メルセデス・ベンツ

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メルセデス・ベンツ EQE|Mercedes Benz EQE

メルセデス・ベンツ EQE|Mercedes Benz EQE
従来のメルセデス・ベンツ車とは大きくデザインが異なるEQE。弓矢をモチーフに空気抵抗を考慮した「ワンボウライン」と呼ばれるルーフラインが採用されている。

EVはクルマの個性を殺すのか?

「EV(電気自動車)時代を迎えても、自動車がコモディティ化するとは限らない」 ドイツでメルセデスベンツの最新EV「EQE」に試乗して、そんな思いを新たにした。そして自動車の未来に明るい期待を抱くことができた。

英語のコモディティ(commodity)はもともと日用品などの意味。あって当たり前で、どの製品を買ってもあまり代わり映えしないことから、最近では”コモディティ化”というと「面白みのない製品」「個性の薄い製品」を指すようになっている。

ご存知のとおり、EVの主要コンポーネントはバッテリーとモーター。このため、エンジンという複雑なメカニズムを用いてきた従来の自動車に比べると、部品点数が圧倒的に少ない。しかも、エンジンと違って、モーターの出力特性はソフトウェアによってさまざまに調整できる。つまりEVは、誰にでも簡単に作れるので、そのうち世界中はEVであふれかえり、個性や伝統的なブランドはやがて廃れるだろうと予想されていたのだ。

でも、EQEは違った。

EQEはメルセデス製EVのなかでもEQSに次ぐ高級セダン。しかも、既存のメルセデス製EVとは異なり、EVのために開発した専用プラットフォームをEQSに続いて採用している。それだけ力のこもった製品といえるだろう。ちなみに、EQの2文字で始まるモデル名は、メルセデス製EVの証で、日本市場ではEQCとEQAをすでに発売。今後はEQBやEQSがこれに続くほか、EQEも早ければ来春には導入されると見込まれている。

メルセデス・ベンツ EQE|Mercedes Benz EQE

ドイツ・フランクフルト市内を拠点にEQEを試乗した大谷達也氏。

EQEの圧倒的な静粛性

ドイツ・フランクフルト周辺で行われた国際試乗会でドライブしたEQE350は、走り始めた瞬間、その圧倒的な静粛性で私を驚かせた。EVが静かなのは当たり前だが、それは電気モーターがエンジンよりも静かなためであって、タイヤが立てる騒音や風切り音まで静かになるとは限らない。実際、エンジン音が消えたおかげで、タイヤのノイズや風切り音がかえって目立つようになったEVは少なくない。

ところがEQEは、大小のタイルが貼られたホテル敷地内の道を音もなくスルリと走り抜けていった。そこで聞こえてもおかしくないさまざまな騒音を一切、シャットアウトしながら進む様子に、これまで数多くのEVに試乗してきた私は度肝を抜かれた。「エンジン車より圧倒的に静かなEVのなかでも、EQEは群を抜いて静かだ……」 そんな言葉が、私の心のなかに浮かび上がったからだ。

ホテルの敷地から一般道に入って、徐々に速度を上げていっても、EQEの静けさは変わらなかった。速度無制限区間のアウトバーンを120km/h前後で流してもタイヤから「サーッ」という軽いノイズが聞こえる程度で、車内は極めて静か。このくらい静粛性が高いと、乗員の心まですーっと落ち着いていくような気がするから不思議だ。

こうしたキャビンの静けさを実現するため、メルセデスはEQEに様々な工夫を凝らしていた。まず、モータ内の磁石を静粛性重視で配列したほか、パワートレイン全体を特殊な発泡材マットでカバー。さらには、パワートレインとボディの間にエラストマー製ベアリングと呼ばれる部材を置いて振動を遮断したという。それ以外にもボディの広い部分に吸音材を敷き詰めることで、EVのなかでもとりわけ優れた静粛性を実現したのである。

メルセデス・ベンツ EQE|Mercedes Benz EQE

最新のSクラスやCクラスにも似たEQEのインテリアデザイン。Aピラーが極端に寝ているのが特徴だ。

往年のメルセデス・ベンツへ原点回帰?

EQEの魅力はただ静かなだけではない。乗り心地もバツグンに快適なのだ。足回り自体はソフトな設定で、これによって路面から伝わる不快な振動を吸収。おかげでゴツゴツしたショックが伝わってくることもなく、滑らかな走りが楽しめる。サスペンションが柔らかいと、コーナーリング中にボディが大きく傾いて不安定な姿勢に陥る可能性があるが、EVのEQEは重いバッテリーを車体の低い位置に搭載しているために重心が低く、このためソフトな足回りでもボディの傾きは最小限に留められていた。

思い起こしてみれば、往年のメルセデス・ベンツ製セダンは、おしなべて静かで乗り心地が快適だった。それが、ライバルたちと競い合ううちにスポーティ路線を歩み始めていたのだが、EVの登場をきっかけにして原点回帰を果たしたような気がする。

もうひとつ大切なことは、いくら電気モーターを中心とするパワートレインの味付けが自在にできたとしても、それに見合った足回り、デザイン、操作感などを実現できなければ、1台のクルマとしてチグハグな印象を与えかねない点にある。つまり、たとえEV化によってパワートレインが自由に開発できるようになっても、それだけで調和のとれた1台の自動車が完成するとは限らないのだ。

さらにいえば、そこで生み出される個性が伝統に基づいたものであれば、さらに消費者にとっては受け入れやすいものとなるはず。したがって伝統と個性を兼ね備えた自動車メーカーであれば、本格的なEV時代を迎えても一定の優位性を保っていることだろう。EQEは、私にそんなことを教えてくれたような気がする。

メルセデス・ベンツ EQE|Mercedes Benz EQE

EQEのボディサイズは全長4946×全幅1961×全高1512mm。試乗したEQE350+の最高出力は215kW(292ps)、最大トルクは565Nm。バッテリー総電力量は186kWhで、航続距離は567-654km(WLTPモード)と記されている。

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