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最終更新日:2023.06.20 公開日:2021.12.22

「経路の設計」で立体交差に対応|長山先生の「危険予知」よもやま話 第5回

JAF Mate誌の人気コーナー「危険予知」の監修者である大阪大学名誉教授の長山先生に聞く、危険予知のポイント。本誌では紹介できなかった事故事例から脱線ネタまで長山先生ならではの「交通安全のエッセンス」が溢れています。

話・長山泰久(大阪大学名誉教授)

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「経路の設計」で立体交差に対応

編集部:今回の問題は立体交差手前の急な進路変更ですが、注意するポイントはどんな点でしょうか?

長山先生:まず、車線の多い幹線道路を走る場合、交差点が通常のように平面交差ではなく、立体交差になっている可能性を考えておく必要がありますね。立体交差には、今回のような「オーバーパス」といって直進道路が交差道路の上を通るタイプと、直進道路が交差道路の下を通るタイプがあります。

編集部:「アンダーパス」と呼ばれる地下道タイプですね?

長山先生:そうです。どちらにしても、基本的にセンターライン寄りの車線が直進するための道路になり、右左折する際には左側の車線から側道を経由して曲がるようになります。

編集部:でも、初めて走る道路の場合、自分が曲がろうとしている交差点に立体交差があるのか、なかなか分かりませんよね?

長山先生:そうですね。出発に当たって目的地までどのルートを取るかを決め、そのルートの中にどのような問題があるかを認識しておくことが必要です。立体交差はもちろん、車によっては道幅やガードの高さ制限なども注意しておく必要がありますから。ちなみに、自動車学校では「経路の設計」という教習項目があり、経路を考えるために案内標識やナビゲーションの活用が取り上げられています。

編集部:「経路の設計」なんて教習ありましたっけ? 教習所に通ったのは遙か昔のことなので忘れてしまったようです。では、そこで立体交差について学べるのですね。

長山先生:残念ながら、今回のような立体交差については取り上げられておりません。教本や『交通の教則』にある案内標識を見て学んでおく必要があります。

編集部:今回のような立体交差は地方より都会に多いので、慣れない都会で車を運転する場合、事前に地図などで予習したり、ナビを設定しておく必要がありますね。

長山先生:確かに地方と都会では立体交差の有無だけでなく、車線の数も異なります。以前、私のゼミの学生が実家のある徳島で免許を取ってから大阪に戻ったのですが、「車線が多く混雑している大阪では、とても運転できません」と、運転するのを諦めていました。

編集部:長山先生は生まれも育ちも大阪なので、立体交差で迷ったりしたことはないのでしょうね?

高速道路で右折!? 古いカーナビには注意!

長山先生:そんなことはありません。私も大阪の中央環状線を走っていた際、大阪市内方向へ右折したかったので道路の真ん中を走っていたところ、交差点が立体交差になっていたため、そのまま道路を直進して遠回りさせられました。立体交差になっていることを知らず、2、3回失敗したことがあります。カーナビも便利ですが、道路が新しくできた場合、古いカーナビだと地図データに反映されていないので、同じ失敗をする危険性がありますね。

編集部:確かにカーナビのデータは最新のものでないと困りますね。以前、新東名ができた時にナビを設定してドライブした際、痛い目に遭いました。ナビに新東名のデータがなかったため、画面上、車は道無き道を走っていて、高速の出口などが分からず、困りました。しかも、高速下の一般道と偶然線形が合ってしまうと、「次、右折です」なんて、一般道を走っている前提で指示が出されて混乱しました。危うく高速道路で右折するところでした。

長山先生:高速道路で右折ですか? ふつうに考えたらあり得ない話ですが、意識レベルが低下していたり、荒天時で視界が悪いときは危険かもしれませんね。ナビの起動時には必ず「実際の交通規制に従って運転してください」という注意が表示されますが、実際に指示された道路が工事中だったり、時間帯によって曲がれないこともあるので、ナビの指示を盲信してはいけませんね。

編集部:そうですね。でも、そうなると案内標識の存在って、けっこう重要ですね。

長山先生:もちろん、そうです。今回の場面では立体交差の直前に設置された案内標識を見て進路変更しましたが、案内標識は直前だけでなく、たいてい手前にも予告の案内標識が設置されているので、とても貴重な情報と言えます。自分が曲がろうとしている交差点に近づいたら、案内標識の存在に注意して、早めに進路変更するようにしましょう。

編集部:ところで、今回のように側方にバイクが走っていた場合、バイクをやり過ごしてから進路変更するしかないですよね?

長山先生:そうですね。ただ、幹線道路は交通量が多く、バイク以外にも見落としている車両があるかもしれませんし、進路変更の際に速度が低下して後続車に追突される危険もあります。今回のように直前まで進んでしまったら、無理せず直進したほうがいいですね。

編集部:でも、慣れない道で曲がるべき交差点で曲がれないとなると、さらに道に迷ってしまいそうで、ドライバーは不安になりますね。

分岐点での「アァァ」現象も事故原因に

長山先生:仰るとおりですが、交通事故のヒューマンファクターには「急ぎ」「焦り」「慌て」があり、立体交差の直前で進路変更しようとすれば、これらの危険要素が生じてきます。直進すれば、遠回りすることになってしまいますが、そうすることで、より安全係数の高い行動が取れます。なお、立体交差の直前で「進路変更するか」「直進するか」迷ってしまうと、事故の危険性も高くなります。高速道路の分岐点などで左に行くか右に行くか「アァァ」と思っている間にどちらにも行けずに分岐点に衝突してしまうケースと同じです。

編集部:衝突しているケースは見たことがありませんが、分岐点手前のゼブラゾーンで停止している車は何度か見たことがあります。

長山先生:左に行こうとする心理的力と右に行こうとする心理的力が拮抗する場合にそのようなことが生じるわけで、私は以前からその現象を「アァァ」現象と称して、事故原因の一つとして取り上げてきました。子供が急に飛び出してきて何も反応できなかったケースも「アァァ」現象といえます。思いもしなかったことが生じても、安全なほうに反射的に行動が取れるようなイメージトレーニングをふだんから行うことも必要でしょう。

月刊『JAFMate』 2015年3月号掲載の「危険予知」を元にした
「よもやま話」です


【長山泰久(大阪大学名誉教授)】
1960年大阪大学大学院文学研究科博士課程修了後、旧西ドイツ・ハイデルブルグ大学に留学。追手門学院大学、大阪大学人間科学部教授を歴任。専門は交通心理学。91年より『JAF Mate』危険予知ページの監修を務める。

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