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最終更新日:2021.01.24 公開日:2021.01.24

2021年WECの新カテゴリー「ハイパーカー」ってどんな車

2021年のル・マン24時間レースを含む世界スポーツカー選手権(WEC)に、一般への市販も視野に入れたスーパーカーで参戦可能なLMハイパーカーというの新たな車両規定(カテゴリー)が導入される。その新カテゴリーに参戦するトヨタGR010 HYBIRIDなどのマシンついて、モータースポーツライターの大串信が解説。

文・大串信(モータースポーツライター)

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2021年のル・マンはレーシングカーからハイパーカーに

トヨタGR010 HYBRID,ハイパーカー

2021年シーズンに向けてテストを重ねるトヨタGR010 HYBRID 写真:トヨタ

 今シーズンから、ル・マン24時間レースと世界スポーツカー選手権(WEC)の車両規定が改定され、LMハイパーカー(LMH)クラスが導入される。昨シーズンまでル・マンとWECではLMP1クラスのハイブリッド車と、LMP2クラスの自然吸気エンジン車が争ってきた。しかし自動車メーカーが巨費と最先端も技術を投入して開発する純レーシングカーであるLMP1カーと、プライベートチームが限られた資金で市販のシャシーとエンジンを組み合わせて開発するLMP2とでは性能差が開きすぎてレースが盛り上がらず、参加者離れ、ファン離れを招いていた。

 そこで車両規則が見直され、新たに「LMハイパーカー(LMH)規定」が定められ今シーズンからレースが始まることとなったのである。ちなみに「ハイパーカー」は、スーパーカーよりも高性能なスポーツカーのこと。LMP1の「P」はプロトタイプのことで、サーキット走行に特化したレーシングカーという色合いが強い。対してLMHは、公道走行を考慮した市販車(スポーツカー)に近い位置づけである。

 LMP1クラスの車両を開発して昨年までル・マン24時間レース3連覇を達成しているトヨタは、いち早くこのLMH規定のマシンを開発し、今年のル・マン24時間レースに臨むことを発表した。今年1月に公開されたトヨタのLMHマシンのトヨタGR010と、従来のLMP1マシンであるトヨタTS050HYBRIDを比較して、新しいLMH規定がどのようなものなのか考察してみよう。

GR010 HYBIRDとTS050 HYBRID(2019年モデル)を写真で比較

GR010 HYBRIDとTS050 HYBIRD
GR010 HYBRIDとTS050 HYBIRD
GR010 HYBRIDとTS050 HYBIRD

写真:トヨタ

ハイパーカー、将来は20台限定で販売か!?

 GR010は全幅、全高で100mm、全長は250mm、TS050より大きい。また、車重も約160kg重く、全体を見ると一回り大きく見える。これはLMH規定で定められている寸法が影響した結果だ。新しいLMH規定が寸法を大きく定めている理由は、一般公道での走行を前提にしているハイパーカーだからだ。例えば、GR010とTS050の正面写真を見比べるとルーフの形状が異なる。GR010が長円形(オーバル)を横半分にした形状で頂部が直線となっているのに対して、TS050のルーフは全体的に丸みを帯びて直線がない。LMP1は1人乗りのサーキット専用マシンなので、助手席のことなどは考慮されていないからだ。

 GR010が搭載するエンジンは3.5リッターV6ツインターボエンジンで最大680PSを発揮する。TS050は2.4リッターで出力は500PSなので排気量が増えた分、出力が増している形だ。ただし、LMP1規定では前輪と後輪をハイブリッドモーター(MGU)で駆動できたのに対し、LMH規定ではMGUは前輪のみしか駆動できない。さらに、エンジンとMGUの瞬間合計出力は680PSに制限されるので、最大1000PSを発揮したTS050に比較すると動力性能は大幅に低下する。この結果、ル・マンのコースのラップタイムは3分30秒と、TS050に比較すると10秒程度遅くなると推定されている。

 ただし、LMH規定ではLMP1が課せられていた1周あたりの燃料使用量制限が撤廃されているので、ドライバーは1周あたりの燃費を意識することなく自分の感覚に応じたドライビングができるようになる。また空力規制が緩められたので大型のリヤディフューザーを装備している。つまりLMHカーは、前輪のみMGUや最高出力の低下により、コーナーからの加速や直線の最高速は低下するが、増大したダウンフォースにより、コーナリング速度が上がり、コーナーでの迫力は増すとも考えられる。

GR010 HYBIRDとTS050 HYBRID(2020年モデル)のスペックを比較

GR010 HYBIRDとTS050 HYBRID(2020年モデル)のスペック

出展:トヨタ

 ちなみに現時点でLMH規定には年間〇〇台といった生産や販売に関する台数規制が存在せず、ごく少数で生産された純レーシングカーでもレースに出走できる。しかしLMH規定を定めたACO(フランス西部自動車クラブ。ル・マン24時間レースの主催団体)とFIA(国際自動車連盟)は、将来LMH規定に、2年間に20台以上の生産と一般への販売という規制を設ける構想を持っているようだ。

GR010 HYBIRDの排気音が聞ける動画はこちら

プジョーはLMH。ポルシェやアウディはLMDh

プジョーのLMハイパーカー

2020年からWECに参戦するプジョーのLMHマシン 写真プジョー

プジョーのLMハイパーカー

プジョーのLMHマシンのシステム概略図。エンジンの排気量は2.6リッターとなっている。 写真プジョー

 すでにLMH車両が完成し今シーズンから実戦に参加するトヨタに続き、プジョーが来シーズン(2022年:シーズン10)からLMHクラスへの参戦を表明、さらにレーシングカーコンストラクターのバイコレスとグリッケンハウスがノンハイブリッド車両を開発する予定でいる。しかしハイパーカーレース規定についてはいささか迷走気味でもある。というのもACOはアメリカのIMSA(国際モータースポーツ協会)と、LMP2クラスの延長上にLMHより低コストで車両が開発できる“LMDh”規定を別途制定し、ポルシェやアウディはLMDhクラスに参戦する意向を示しているからだ。

ポルシェLMDhマシンのイメージスケッチ

ポルシェが発表したLMDhマシンのイラスト 写真ポルシェ

 今後、新たにハイパーカーレースへ参戦しようとするメーカーがどちらを選択するかによってレースの様相は変わってくるが、少なくとも先頭を切ってGR010を作り上げテスト走行を開始したトヨタは、マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ・マリア・ロペス組とセバスチャン・ブエミ/中嶋一貴/ブレンドン・ハートレー組の2台が、WEC2021年シーズンに参戦、ル・マン24時間レースでは4連覇を目指すこととなる。

WEC2021年(シーズン9)カレンダー

3月17日(水)-19日(金):第1戦セブリング1000マイル(アメリカ、セブリング・インターナショナル・レースウェイ)
4
29日(木)-51日(土):第2戦スパ・フランコルシャン6時間レース(ベルギー、スパ・フランコルシャン・サーキット)
6
9日(水)-13日(日):第3戦ル・マン24時間レース(フランス、サルト・サーキット)
7月16日(木)-18日(土):第4戦モンツァ6時間レース(イタリア、モンツァ・サーキット)
9
24日(金)-26日(日):第5戦 富士6時間レース(日本、富士スピードウェイ)
11
18日(木)-20日(土):第6戦バーレーン6時間レース(バーレーン、バーレーン・インターナショナル・レース)

※スケジュールは20211月中旬時点のものです。


トヨタGR010 HYBRIDやプジョーLMHマシンの詳細な写真を見るなら

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