“日本版GPS”こと準天頂衛星「みちびき」とは?
2018年11月1日から本格的なサービス運用がスタートした、”日本版GPS”こと準天頂衛星(※1)システム「みちびき」。同システムは2010年9月に「みちびき初号機」が打ち上げられてスタートした。「みちびき」とは人工衛星の名称であると同時に、システム全体の名称でもある。
「みちびき」を本格運用するためには最低でも4機態勢にする必要があることから、2017年6月に2号機が、同8月に3号機が、そして10月に最後の4号機が打ち上げられた。現在は、4機態勢で内閣府宇宙開発戦略推進事務局によって運用されている。将来的には、さらに精度を上げるために7機態勢にする計画だ。
※1 準天頂衛星:可能な限り日本上空に留まっていられる”準天頂衛星軌道”で地球を周回する衛星。QZSS(Quasi-Zenith Satellite System)と略される。人工衛星「みちびき」の内、1、2、4号機が準天頂衛星軌道を周回する。3号機は、気象衛星「ひまわり」シリーズなどと同じく、地上から見て常に赤道上空の1点に位置しているように見える”静止衛星軌道”に投入されている。
「みちびき」はGPSを補完するシステム
2010年9月に打ち上げられた「みちびき初号機」イメージイラスト。太陽電池パドルが長く、両翼端間が2・4号機よりも長い。
人工衛星を用いた測位システムのことを「GNSS」(※2)という。世界で最初にGNSSの運用を開始したのが米国で、そのシステムはご存じの通り「GPS」(※3)の名で知られる。GPSは約30機の衛星で構成され、地球全域をカバーしている。本来は軍用に開発されたシステムなのだが、一部の測位データが民間にも提供されるようになり、今では日本を初めとする各国でスマホやカーナビなどで当たり前のように利用されているというわけだ。
※2 GNSS:Global Navigation Satellite Systemの略。全球測位衛星システム。米国のGPS以外にも、ロシアや中国なども独自のGNSSを運用している
※3 GPS:Global Positioning Systemの略。全地球測位システム。米国が世界で最初に運用を開始したGNSS
地球全域を覆うように周回するGPS。約30機が打ち上げられているが、運用が停止している衛星や、新型衛星へのリプレースが行われていたりする関係で、若干の増減がある。
GPSは世界中をカバーしているが、日本では場所によっては電波が高層ビルや山などに邪魔されて届かなかったり、余計な反射波が発生してしまったりなどの問題があり、民間利用の精度は10m程度とされている。
そうしたGPSの問題点を解消し、数cmともいわれる桁違いの高精度の測位を実現すべく計画されたのが「みちびき」だ。ただし、GPSに取って代わろうというものではなく、GPSを補完するのが目的である。”日本版GPS”といわれるが、正確にはこの4機だけで成り立つ衛星測位サービスではないのだ。
GPSの精度を上げるには日本の真上にGNSS衛星があればいい!
GPSの精度を上げるには、ビルや山に邪魔されないような、天頂に近い高い仰角で日本上空を通過し、それもできる限り長時間上空に留まれるような軌道を通るGNSSがあればいい。そこで考え出された軌道が準天頂衛星軌道であり、その軌道に投入するGNSS「みちびき」シリーズだ。
この軌道に投入された人工衛星は、日本から見た場合、8の字を描いて見える。「みちびき」シリーズは3機(1、2、4号機)がこの軌道を回っていることから、日本付近では仰角70度以上という、天頂に近い位置に常に1機が8時間交代で存在できるようになる。もっと低い仰角20度以上であれば、最大3機の「みちびき」からの電波を受信することも可能だ。
これに唯一”静止衛星軌道(※4)”にいる3号機と、GPS衛星などを加えれば、電波を受信できる衛星の計算上の合計は最大9機となり、理想とされる8機すら上回る。ビルや山に隠れてしまう衛星がいくつかあったとしても、GPSのみだった従来と比較すると、測位精度が大幅に向上し、誤差が約10mから数cmまでになるのだ。
今後、日本では「みちびき」による高精度なナビゲーション技術を利用し、自動運転車を初め、農業、海洋土木工事、除雪、ドローンの飛行、トラッキングサービスなど、さまざまな技術を実用化していく計画だ。
※4 静止衛星軌道:赤道上空、高度約3万6000kmの軌道に人工衛星を投入すると、約24時間で地球を1周する。つまり、地上から見て常に同じ位置に留まっているように見えることから、その名がつけられた。地球の定点観測などに向いていることから気象衛星「ひまわり8号」などが投入されている。「みちびき3号機」も電波の発信位置を1、2、4号機とは異なる方位にするため、あえて静止衛星軌道に投入されている。
東京付近から見た「みちびき」たちの準天頂衛星軌道の動き。天頂に近い仰角70度以上には常に1機が存在する。なお、4機の内の3号機は異なる軌道を取っているので、この見せかけの動きを取らない。一見するとひとつの軌道上だが、宇宙空間では離れているため、衛星同士が衝突する心配はない。
2018年11月2日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)