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最終更新日:2018.04.26 公開日:2018.04.26

レッドブル・トロロッソ・ホンダ「STR 13プロトタイプ」

レッドブル・トロロッソ・ホンダ「STR13プロトタイプ」。モータースポーツジャパン2018のホンダブースにて撮影した。

 現代のF1マシンは、その空力効果を追い求めた結果、もはや芸術的といっていいほどの複雑で精密な3次元曲面で構成されている。レッドブル・トロロッソ・ホンダ(スクーデリア・トロロッソ・ホンダ)の「STR13プロトタイプ」を例に取り、その精緻さを見ていただこう。

 「STR13プロトタイプ」は、2017シーズンのマシンである「STR12」をベースに、2018シーズンの空力パーツ、そして2018シーズンから導入されたドライバーの頭部保護システム「ヘイロー(Halo)」などを組み付けたもの。カラーリングも2018シーズン仕様になっている。「STR13」の公表されているスペックについては最終ページに掲載した。

 かつてF1マシンのデザインといえば、実にシンプルだった。風洞実験と実走テストと、せいぜいコンピューターを使うといってもCADなどを使っていたレベルだったのである。例えば、1988年にアイルトン・セナとアラン・プロストのコンビで全16中15勝した伝説のマクラーレン・ホンダ「MP4/4」など、現在のマシンと異なって直線的な部分も多く、単純な曲面で構成されたシンプルな形状のマシンだった。

 しかし1990年代以降、コンピューターの計算処理速度がアップしてくると、空気の流れを計算・可視化できる「数値流体力学(CFD)」によるシミュレーションを各チームが導入するようになっていく。それまでは実際にスケールモデルを作って風洞施設で実験し、そして実際に有効なら実走テストで試し、確実な効果を確認した上で実際にレースで使用するという流れだった。それがCFDによってコンピューターの中だけで空力の実験を行えることから、開発時間を短縮できるようになっていったのである。

 そして同時により効果を求めて、複雑極まりないデザインが施された空力パーツも作られるようになっていった。しかも、コンピューターの計算処理速度は年を追うごとにアップしており、CFDを活用したデザインは複雑さが増す一方。そうして、今では実に多くのパーツが複雑な3次元曲面デザインを採用しているのである。

 それでは、もはやアートのレベルであるとさえいえる現代のF1マシンの造形美を堪能していただきたい。

正面から。フロントウィング翼端のフラップの数と複雑さだけでも驚異的。かつて80年後半から90年代半ばにかけて、フジテレビの独占中継でF1ブームが日本に起きた時代のF1マシンを覚えている方も多いと思うが、もしあの時代からしばらくF1から遠ざかっていた人が現代のF1マシンを見たら、余りの複雑さに思わず自分の目を疑ってしまうのではないだろうか?

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さらに「STR13」をさまざまな角度から!

斜め前方から。F1マシンのデザインは、レギュレーションに多大な影響を受けるため、一時期は本当に速いのか疑問に感じてしまうほど人によっては不格好に感じられる時代もあった。しかし、また速い=カッコイイというデザインに戻ってきたといえるだろう。

真横から。日本のスーパーフォーミュラ、米国のインディーカーなど、世界中にいくつものオープンホイールのレーシングカーは存在するが、F1以外は予算削減およびイコールコンディションにすることが目的で、ひとつのコンストラクターが開発するワンメイクとなっている。チームそれぞれでマシンを開発するメジャーなカテゴリーはF1だけで、チーム間の性能差が大きい。

後方から。かつてリアウィングのステーはまっすぐに立っていたものだが、現在はリアのトレッド以上に翼長を取れることから、タイヤに少し被せるようにしつつ上方に広がる3次元曲面のデザインが採用されている。また現在のF1は上方排気となっている。エキゾーストパイプの下はブレーキランプ。

斜め後方から。リアウィングも幾分寝かされた形状となっているのがわかる。また、サイドポンツーン下部のえぐられ方がよくわかる。

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各空力パーツに迫る!

各パーツをアップで見てみる!

 続いては、各空力パーツがよく見えるよう、ボディ各部をアップにして紹介しよう。3次元曲面で構成されたその複雑さをご覧いただきたい。

フロントウィングのフラップは、5重。しかも、単純な直線的なパーツではない。さらに翼端にはこれまた曲面で構成された整流板が複数あり、ダウンフォースをいかに稼ぐかと同時に、空気の流れをいかに整流するかを重視しているのがわかる。

現代では、タイヤを取り付けるアップライトにまでカーボン製の空力パーツが用意されている。今やこうした細かい部分にまで空力パーツでダウンフォースを稼いだり、整流したりしないと勝てない時代なのだ。なお、このパーツはブレーキの冷却も考慮されている。なお、サスペンションアームのように稼働パーツに空力性能を持たせてはならないため、ダウンフォースを稼ぐような形状にはなっておらず、空気抵抗にならないよう単純にティアドロップ型で薄く作られている。

コックピット前方、フロントサスペンションの付け根部分。この下部にも複雑な整流板がある。オープンホイールのマシンにとっては、フロントサスペンションのアームや、タイヤは空力的に邪魔以外の何物でもない。特にタイヤの周辺の気流をどう整流するかは大きなポイント。また車体下面や脇に気流をどう流すかということも重要だ。

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続いて、フロントセクションのその2!

フロントサスペンションの付け根からコックピットの真横辺りまでを横方向から。3次元曲面で構成された空力的付加物がいくつも取り付けられているのがわかる。この辺りは、フロントタイヤやサスのアームによって気流が大きく影響を受けるため、それを整流してサイドポンツーン内のラジエターに導いたり、サイドポンツーン脇のフロアパネル上を流したりするため、可能な限り整流する必要がある。

サイドポンツーン下部を流れる気流をどう処理するかも外せないポイントで、サイドポンツーン下部のえぐり込みは今では当たり前。ただし、空力効果を追い求めすぎると、開口部が狭くなってしまい、ラジエターに空気が流れ込みにくくなって冷却効果の面でマイナスが生じてしまう。パワーユニットとその補機類の配置などにも影響するトレードオフの関係なので、すべてが100点満点とはいかない。なお、コックピットの前で突き立っているパーツは、2018年シーズンから取り付けられることになったパイロットを保護するためのパーツ「ヘイロー」。

サイドポンツーンのえぐり込みがわかりやすい、コックピット後方から前方を見たショット。このえぐり込みの曲面、突き立っている空力付加物などを見ると、空気の流れが見えるようだ。ヘイローを横から見るとはこのようになっている。

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空力パーツ・コックピットから後方にかけて!

コックピット周辺から後方のインダクションポッドの辺りまで。サイドミラーのすぐ横にも小型ウィングがあり、こんなわずかな部分ですら空力処理が考えられているのがわかる。このわずかなパーツでも、整流を行うと同時に、細かくダウンフォースを稼いでいるものと考えられる。またインダクションポッド内にもハの字型にステーがあり、流れ込む空気を整流しているようだ。

コックピット周辺を真横から。4輪モータースポーツのヘルメットは安全性の面からバイザー(シールド)部分が狭く、もともと視界が悪いのだが、ヘイローによってかなり妨げられるのがわかる。この視界でライバルとバトルしながらコーナーを超高速で攻められるドライバーの技量と精神力には脱帽である。

インダクションポッド後方には、魚の背びれのようなシャークフィンがある(牡牛の背中や尾が描かれている部分)。リアウィングへの干渉があるためか、それとも横風の影響を考慮しているのか、かつてはもっと後方に長かったが、それほど伸ばされていない。F1はミッドシップレイアウトなので、インダクションポッドの後方からシャークフィンにかけての下にホンダ製パワーユニット「RA618H」がある。

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リアセクションの後半!

リアウィングを真横から。この角度だと、リアウィングが寝かされていることや、下端の黒い部分がルーバーになっているなどが見てとれる。こうしたパーツも多くがカーボンで作られているわけで、このように複雑なデザインで工作できる現代の技術の高さがわかる。

リアウィングを前方から。サーキットに合わせてダウンフォース仕様、高速仕様など、複数あるものと推察されるが、このリアウィングは二枚翼であることを考えると、比較的ダウンフォースを発生させない高速サーキット用ではないかと思われる。フロントウィングのフラップのような複雑な構造物は見当たらない。

右がリアサスペンションで、左半分が左のリアタイヤ。フロントタイヤのアップライト同様に、リアタイヤを取り付けるアップライトにも空力性能が付加されている。デザイナーはレギュレーション上で禁止されていないすき間を見つけては、可能な限りのことを試す。そしてオーガナイザー側が必要があればレギュレーションの変更や追加を行うが、デザイナーはまたもやすき間を見つけていく。そのいたちごっこも今のF1のデザインに大きく影響しているのはいうまでもない。

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最後はスペック!

エキゾーストパイプ。焼けた感じからすると、実際にエンジンをかけたことがあるようだ。エキゾーストパイプの下はクラッシャブル構造体で、後方から追突された際、ここが壊れることで衝突エネルギーを吸収する仕組みだ。その構造体の先端にLEDライトのブレーキランプがある。

【スペック】
名称:STR13
パワーユニット:RA618H(ホンダ製)
重量:733kg
シャシー:コンポジットモノコック
サスペンション:(前後共に)カーボンファイバー(CFRP)製ウィッシュボーン、プッシュロッド方式トーションバー、アンチロールバー
ギアボックス:油圧式8速・CFRPコンポジット製ケース
排気システム:ホンダ製
ブレーキキャリパー:ブレンボ製
タイヤ:ピレリ製
燃料タンク:ATL製

【ドライバー】
カーナンバー10:ピエール・ガスリー(フランス)/12点
カーナンバー28:ブレンダン・ハートレイ(ニュージーランド)/0点

※ 得点は、2018シーズン第3戦終了時点のもの

2018年4月26日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)

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