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クルマ最終更新日:2018.05.02 公開日:2018.05.02

自転車天国を実現した都市は? ドイツ建築博物館による、モビリティ社会の未来を映す展示が話題に

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独ルール地方のエッセン市にある自転車専用道。美しい自然の中を101kmの自転車道が都市と都市を結んでいる。Radschnellweg Ruhr RS1, Niederfeldsee in Essen © Opterix, Johannes Kassenberg.

 独フランクフルト市にある「ドイツ建築博物館 Deutsches Architekturmuseum(DAM)」にて、”自転車にやさしい社会の実現”についての展示「FAHR RAD!(自転 車)」*が、9月2日まで開催中だ。自転車社会について考えることは、都市のあり方やモビリティのあり方を考えることにつながる。このような環境と社会を視野に入れた自転車についての展示は、ドイツでもほとんど行われたことがなく現地で話題になっている。

*展示のタイトルFAHRRAD(自転車)はもともと一つの単語だが、FAHR(走る)とRAD(タイヤ又は自転車)を離すことで、「自転車に乗れ!」という命令形になる言葉遊びである。

自転車の利点からモデル都市の紹介まで

 自転車に乗るとなぜいいのか? 展示では、まず自転車が人と都市にとって有意義な理由について紹介されている。

・自転車に乗ると健康になる。
・自転車は最もリーズナブルな交通手段である。
・都市が静かになる。
・都市での5km以内の移動において自転車は一番早い交通手段である。
・子供からお年寄りまで、運動のためや幼稚園の送り迎え、宅配便の配達など多様な目的に利用できる。
・自転車の使用は場所の節約になる。
・自転車は環境にやさしい、空気を汚さないモビリティである。

 こうして羅列されたものを読むと、改めて自転車は多くの利点と可能性を持ったモビリティ(交通手段)であることに気づかされる。しかし、交通社会においてその価値性が十分認められているだろうか。交通全体における自転車の位置付けについて、ドイツ建築博物館は統計によって明らかにしている。

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米ヒューストン市バッファロー・バイユー公園。64ヘクタールの敷地に1400の木が植えられ自転車道も整備されている。SWA Group: Buffalo Bayou Park, Houston/USA, 2015 © Photo by Jim Olive, courtesy of Buffalo Bayou Partnership; © Photo by Jim Olive, courtesy of Buffalo Bayou Partnership

ドイツ人の自動車利用率は55.8%、自転車は11.4%

・ドイツの国土の37%が道路である。
(道路には、自動車道、自転車道、歩道、橋、運河が含まれる)
・約80%のドイツ人が(少なくとも1台の)自転車を所有している。
・ドイツ人の約11%が自転車で通勤、買い物などを行っている。
(自転車利用度の最も多いドイツの都市はミュンスター市では38%。国ではデンマークが18%、オランダは27%に上る)
・ドイツ人の交通利用の割合は、自動車55.8%、歩行21.1%、公共交通11.5%、自転車11.4%、その他(船、飛行機)0.2%

どういった都市に私たちは住みたいのか?

 もちろんクルマは重要な交通手段である。しかしこれからの社会においても今と同じように、他のモビリティよりも優先されるべきだろうか? このことは、どのような都市に私たちは住みたいのか? 都市はいったい誰のためのものなのか? ということと密接な関係を持つ。こういった問いかけに答える形で、展示では、テキスト、写真、建築模型、都市計画、設計図、統計を使って、想像力に富んだすばらしい未来への交通コンセプトを提唱している。  

 実際に、自転車にやさしい社会を実現したモデル都市として、展示ではコペンハーゲン(デンマーク)、ニューヨーク(アメリカ)、カールスルーエ(ドイツ)、オスロ(ノルウェー)、ポートランド(アメリカ)、バルセロナ(スペイン)、ルール地方(ドイツ)、フローニンゲン(オランダ)の8都市が挙げられているが、その中の一部を紹介したい。

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自転車にやさしい都市の実例

コペンハーゲン(デンマーク)

交通の割合(2017年):自動車24%、自転車29%、歩行19%、公共交通18%

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約2500台の自転車を収納できる駐輪場が設置され、新しく生まれ変わったコペンハーゲン市のノアポート駅。COBE und Gottlieb Paludan Architects: Nørreport Station, Kopenhagen/Dänemark, 2015 © Photo: Lars Rolfsted Mortensen

 数年前までデンマークの首都は、欧州でも空気の汚れた都市として認知されていた。しかし2007年と2008年に「環境首都」と「人のための首都」というスローガンのもと、CO2・騒音・大気汚染の削減のため、世界一自転車にやさしい街を目標とした政策をスタートした。その一環として、市は自治体と協力して自転車専用道と高速自転車専用道(早いスピードで走ることができる自転車道)を整備することで自転車利用を促進させた。
 2010年に、自転車を持ち込むと電車運賃を無料にする法律が実施されると、自転車を持ち込む乗客を10%上昇することに成功。駐輪場や自転車道など、自転車に関するインフラをデザイン性の高い建築やオブジェ、看板で構築したことも自転車のイメージをポジティブにするとともに、利用者を増やすことに大きく貢献した。現在コペンハーゲンでは、市民の半数以上が自転車通勤を行っている。

 自転車用インフラの成功例として、中央駅から電車で2つめのノアポート駅が紹介されている。利用者数が連日30万人を超えるノアポート駅広場は、数年前まではタクシー、バス、車で渾然としていたが、2014年の改修工事により美しく生まれ変わった。道路より約40cm低い位置に約2500台分の自転車を収納できる駐輪場を設置することで、駅の出入り口周辺に散乱していた自転車放置の問題がすっきりと解消。地下の出入口には、雲のような白い屋根が設けられ、天気の悪い日の待ち合わせなどにおいて好評を博している。

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地下からの出入り口に設置されたオーガニックな形の屋根。屋根の上には植物が植えられている。COBE und Gottlieb Paludan Architects: Nørreport Station, Kopenhagen/Dänemark, 2015 © Photo: Rasmus Hjortshøj – COAST

フローニンゲン(オランダ)

交通の割合(2008年):自転車61%、自動車36%、公共交通3%

 ひとり当たりの自転車所有率が1.1台と、世界でもっとも高いオランダ。中でも大学都市フローニンゲンは、なんと自転車の使用率は61%、教育機関内での使用率は70%以上にも上る。この”世界の自転車王国”たる秘密は、ひとつにフローニンゲンの年齢層にある。約20万人の人口のうち18%は、主に自転車を交通手段とする学生が占めること。そしてさらなる要因は、1977年に導入された道路交通法にある。

 この法律はクルマで市の中心部に入る場合、町の周囲の環状線を通って遠回りをしなければならないというもので、市の中心部に向かうクルマの使用を大きく制限するものであった。この法令により、商品の搬入を行わなければならない商業施設がダメージを受けると言われていたが、ほとんどの商店はその影響を受けることがなく、逆に前より栄えた商店も出たという。それに伴い、自転車道の設備や、自動車の大型駐車場が公園に代わるなど緑化運動も行われ、今日ではフローニンゲンはオランダの中でもっとも空気がきれいな都市に生まれ変わり、その中心部は驚くほど静かである。

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自転車王国オランダの都市ユトレヒトの自転車インフラの例。駅をまたいで街の西部(旧市街)と東部(ショッピングエリア)をつなぐ312kmの自転車道・歩道が建設された。cepezed architects: Moreelse Brücke, Utrecht/Niederlande, 2017 © Photo: cepezed – lucas van der wee

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クルマ大国アメリカでも自転車にやさしい都市が

ポートランド(アメリカ)

交通の割合(2016年):自動車67%、公共交通13%、自転車7%、歩行3%

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車道から隔離されたポートランドの自転車道。緑やオレンジに彩られた、幅が広い自転車専用道は交通安全に寄与している。Mayer/Reed; ZGF Architects: Max Orange Line, Stadtbahn von Portland nach Milwaukie, 2015 © Photo: C. Bruce Forster

 1990年代の初めまでポートランドでは、他のアメリカの都市と同じく、自転車を利用する市民の数もインフラも少なかった。1990年の自転車通勤者数は1.2%にも満たなかったが、現在は7%まで伸びており、中心地での自転車の利用数はその3倍にも上る。今ポートランドはアメリカでもっとも自転車にやさしい都市であると称されている。
 1990年~2000年にかけてポートランドは365kmにわたる自転車道網を設備し、今日では600kmまで拡張している。道幅が1.5mの広々としたこの自転車専用道は誰もが走りたくなる町の自慢であり、近年では安全性を考え、車道の隣ではなく車道から独立して設けられている。

 ポートランドには10年前から「Sunday Parkways」といわれる運動をはじめた。これはある地区をクルマの進入禁止ゾーンにすることで、自転車を日曜日のサイクリングのためものではなく、通勤の足にすることを促進するプロジェクトである。また「Portland Safe Routes to School」といわれる子供の自転車通学を安全かつ魅力的にするプログラムも行われてる。さらに2016年には、「smart bikes」といわれる自転車のシェアリング・システムがスタート。GPSで管理された自転車を簡単に借りられようにもなった。
 30年前には市民からほとんど見向きもされなかった自転車が、今日では町をより魅力的で持続可能にしている素晴らしい事例だ。

オスロ(ノルウェー)

交通の割合(2013年):公共交通32.9%、自動車31.9%、歩行28.2%、自転車5.9%、その他1%

 環境にやさしい都市の宣言を行ったオスロは、2019年から町の中心部への自動車での乗り入れを禁止する法案を可決した欧州最初の都市である。市はこれに向けて現存する800の自動車用駐車場を廃止するとともに、ラッシュアワーなど交通ピーク時に町を入る車に高額の通行料を課した。2019年までには、街の中央からすべての方角に伸びる60kmの自転車道を設備し、”自転車都市”への準備は着々と進行中だ。

 ノルウェーは森とフィヨルドなど、豊かな自然に恵まれた国であるが、実は都市部での大気汚染は深刻な問題となっている。都市での温室ガス効果の原因は60%が交通にあるといわれており、そのためには自動車から自転車への交通シフトを積極的に推奨してきた。
 2017年にオスロ市は、自動車を買う代わりに荷台付き電気自転車を買う市民に1000ユーロの助成金を支給した。これはその前の年に行った、電気自転車の購入者全員に500ユーロを支援するというプログラムが成功を収めたからである。こういった対策の結果、自転車利用者の割合はこの10年間で約2倍に増加した。

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オランダ・ユトレヒト駅の巨大駐輪場。Ector Hoogstad Architecten: Fahrradparkhaus am Bahnhof, Utrecht/Niederlande, 2017 © Photo: Ector Hoogstad Architecten – Petra Appelhof

 展示では、モデル都市の紹介の他にも、13,500台の自転車が収容でき、自転車修理場も完備されたオランダ・ユトレヒト駅の巨大な駐輪場(上の写真)、クルマの駐車場の代わりに建物の前やバルコニーに駐輪場を備え、広くて自動開閉するキッチンのドアから自転車で家に入れる”自転車にやさしい住宅”、ドイツの優美な自然の中を101kmにわたって張り巡らされた、都市をつなぐ高速自転車専用道(冒頭の写真)など、各国の建築プロジェクトも美しい写真とともに紹介されている。

 南ドイツ新聞によると、この展示会を手がけたキュレーターは、自転車モデル都市のひとつであるコペンハーゲンに赴き実体験をし、「大都市の中心地を自転車で移動することが、こんなにも安心で気持ちのいいことである事実に衝撃を受けた」とコメントした。また、この展示が多くのビジターにとって将来の都市とモビリティについて希望を与える機会となっていることを伝えている。

 都市の形体や人口、気候など、いくつもの要因によってモビリティのありようは様々だが、日々満員電車に押し込まれながら通勤する東京の交通事情を思うと、彼我の差を感じざるを得ない。

◆展示会情報◆
FAHR RAD! Die Rueckeroberung der Stadt
自転 車!~都市の占領~
【会期】
2018年4月21日~9月2日
【開館時間】
火、木~日:11:00~18:00、水:11:00~20:00 
【休館日】
月曜日
【会場】
Deutsches Architekturmuseum (DAM) ドイツ建築博物館(フランクフルト)
Schaumainkai 43, 60596 Frankfurt am Main
【入館料】
9ユーロ
【アクセス】
地下鉄U1, U2, U3, U8番 最寄り駅 Schweizer Platz / Museumsufer
【ミュージアムHP】
http://dam-online.de/portal/de/Start/Start/0/0/0/0/1581.aspx

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米ヒューストン市バッファロー・バイユー公園。SWA Group: Buffalo Bayou Park, Houston/USA, 2015 © Photo by Jim Olive, courtesy of Buffalo Bayou Partnership; © Photo: Jonnu Singleton/SWA

2018年5月2日(JAFメディアワークス IT Media部 荒井 剛)

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