我が輩はアンドロイドである!? 漱石、ロボットとなって100年ぶりに出社
100年ぶりに朝日新聞社に出社した漱石。ただし、アンドロイド。ちなみに、毎日、通勤していたわけではなかったそうである。
12月8日に披露された、学校法人二松学舎が製作した「漱石アンドロイド」。夏目漱石は40歳の時に朝日新聞社に入社し、デスマスクも同新聞社が所有している縁から、製作に協力。そして12月21日、1916年12月9日に49歳で胃潰瘍により死去して以来、100年ぶりに同新聞社に出社したことが発表された。
製作を監修したのは大阪大学の石黒浩教授
漱石アンドロイドは、ロボット研究の世界的な権威である、大阪大学の石黒浩教授の監修を受けて製作された。
大阪大学の石黒浩教授。人とは何かを研究するため、自身を初めとする、モデルとなった人物と双子のようにそっくりな外観を持つアンドロイドを開発している、世界的なロボット研究の権威。
石黒教授は、自身を含め、モデルとなった人と双子のようにそっくりな外見を持つ「ジェミノイド」と呼ばれるアンドロイド(人間型ロボット)を製作したことで有名だ。
タレントのマツコデラックスにそっくりなマツコロイド、日本科学未来館で活躍している「オトナロイド」や「コドモロイド」などが、石黒教授の監修を受けて開発されたアンドロイドたちだ。
日本科学未来館で活躍中の石黒教授が開発したロボットたち。左からオトナロイド、コドモロイド、テレノイド。(右)のテレノイドだけ異質なのは、人の持つ個性を極限までそぎ落としているから。このテレノイドを通して電話をすると、テレノイドの顔が、聞こえてくる声の人物に見えてくるという。
石黒教授のそうしたアンドロイドを見たことがある方ならわかると思うが、ぱっと見ただけでは、人なのかロボットなのかわからないのが大きな特徴。
そうした人間の外見を持ったロボットに関して、石黒教授らはSF用語から引用してアンドロイドと呼んでおり(現在はまだ一般的な学術用語となっているわけではない)、中でも自身を含めてモデルとなった人間と双子のようにそっくりな外見のロボットについては「ジェミノイド」と名付けている。今回の漱石アンドロイドも、ジェミノイドシリーズの1種といっていいだろう。
ただし、石黒教授はこれまでのアンドロイドはすべて生きている人をモデルとしており(コドモロイドや、美人アンドロイド「ERICA」は特定の個人のモデルがいない)、すでに亡くなって久しく、実際に生前の本人を知る人がいない人をモデルにしたのは初めてだったそうだ。
これも石黒教授が開発にかかわったロボットで、「オルタ」という。非常に生物らしい動きをしていた。
文学とアンドロイドという遠い存在同士を結びつけると?
石黒教授は今回のプロジェクトに直感で参加することを決め、文学とアンドロイドという離れた存在の中で、文学研究者ごとに異なる漱石のイメージを集約するのに役立てられるのではないかと考えているとしている。
漱石アンドロイドの製作に際しては、まず全身のイメージは、漱石が45歳の時に撮影された、旧千円札に漱石の肖像画を描く際に利用された写真に基づいている。
顔に関しては、同新聞社所有のデスマスクがベースだが、写真と比べるとかなりやせ細っており、石黒教授はその両者の中間でやや写真寄りのイメージにしたという。
声は漱石の孫で、マンガコラムニストとしても有名な、夏目房之介学習院大学教授の肉声から抽出した音の素をベースに制作されており、作品の朗読や講演を再現することが可能だ。
100年ぶりの出社で後輩社員たちに何を伝えた?
21日は、朝日新聞社の社内ホールに集まった後輩社員250人を前に、「100年待っていて頂いて、ありがとうございます。100年も経っているのだと、今、感慨にふけっているところです」とあいさつ。
生前行った講演「私の個人主義」の一部を披露し、「私はせっかくのご招待だから今日まかり出て、あなた方に個人主義の必要を説きました。これはあなた方が世の中へ出られた後、いくぶんかご参考になるだろうと思うからであります」などと締めくった。
また、報道・編成局フロアでは、同新聞社社長の渡辺雅隆社長と会談し、社員証を1日限定で授与され、100年ぶりの出社を喜んだ(?)模様。
渡辺雅隆代表取締役社長より社員証を授与され、1日社員となった漱石アンドロイド。
この後の一般への公開は、2017年1月27日。同日19時から、東京・千代田区の二松学舎大学九段キャンパス1号館において、同新聞社主催のトークセッション「未来メディアカフェVol.11 我が輩は漱石アンドロイドである~人型ロボットと未来社会」が石黒教授を招いて行われるが、そこに登場する予定だ。
2016年12月22日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)
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