2022年06月22日 12:50 掲載

交通安全・防災 ピラー(柱)の死角が大きくて、代車を断った?|長山先生の「危険予知」よもやま話 第8回


話・長山泰久(大阪大学名誉教授)

危険予知は安全確認の母?

編集部:安全運転、ですよね。文字どおりで、あえて聞かれると......。危険予知から考えると、「事故の原因になる危険を見つけ、あらかじめそれに対応した運転をすること」でしょうか?

長山先生:危険予知の概念は簡単に言うとそうですが、では、危険を見つけるにはどのようにすればいいでしょうか?

編集部:脇見や漫然と運転せず「よく見ること」だと思います。

長山先生:そうですね。児童から高齢者まで交通安全を指導する人も「状況をよく見る」ことを教えています。ただ、目を見開いて「よく見る」だけでは、事故を防ぐために重要な「安全を確認すること」にはつながりません。

編集部:よく見ることが安全確認の基本だと思っていましたが、そうではないのですか?

長山先生:よく見ることは基本中の基本でありますが、それでは十分と言えません。たとえば、今回の例で言うと、右折するのに当たってピラーの死角に歩行者が隠れてしまうケースがあることを考えに入れて運転することが肝要です。というのは、そんな危険性を知っていることで初めてピラーに隠れているかもしれない歩行者がいないか? 見ようとするからです。

編集部:でも、今回は誌面をじっくり見れば、ピラーの下に歩行者の足が見えることを見つけられますよね。「よく見れば」済むことではないのですか?

長山先生:たしかに間違い探しのように誌面をじっくりよく見れば、たいていピラーの下にわずかに見える足を発見できるでしょう。ただ、実際の運転状況では、それほどじっくり見ることはできませんし、ピラーの死角に歩行者が隠れる危険性があることをまったく知らない人は、わずかに見える足自体、見落とす可能性が高くなります。つまり、ピラーの死角という危険性を知っていて初めて、そこに注目し、わずかな手がかりでも見落とすことがなくなるのです。

編集部:なるほど。たとえが合っているのか分かりませんが、赤ちゃんや子供は大人が見ていて危ない行動をしがちですが、目が見えないわけではないですし、よそ見をしていてそういった行動を取るのではなく、それが危険なのかどうか知識がないから事故につながる危険な行動をしてしまうわけですね。

長山先生:そうです。今回の場面で言えば、誌面では歩行者の足の一部が見えていましたが、たとえ完全にピラーの死角に歩行者が隠れていても、「ピラーの死角がある」という点を知っていれば、そこに歩行者などが隠れていないかどうかを積極的に「探しに行く」心理が生じます。それがまさに危険予知・予測運転なのです。

編集部:「安全運転」は「危険予知」によって初めて可能になるものなのですね。

長山先生:そのとおりで、それが以前から私が話している「危険予知は安全確認の母である」という所以で、「危険予知なくして安全確認なし」なのです。下図は危険予知の背景にあって危険予知を可能とする要因と、危険予知に必要な能力・機能、さらに危険予知が行われることによって可能となる諸側面を描いたものです。

編集部:危険予知を可能にするには、まず安全態度や危険感受能力が高いことが重要ということですか?

長山先生:そうです。さらに安全と危険な体験・知識があると、危険予知の教材に接した場合に、そこからより学ぶことが可能になります。

編集部:逆に危険に関心を持たない人の場合、どうなるのでしょう?

長山先生:安全態度に欠け、危険や安全を学ぼうとしない人は、せっかく危険予知の教材を見せても、関心が低く、学習効果も低くなりますね。

編集部:でも、安全態度はその人の持って産まれた性格というか、あまり変わらないものですよね?

長山先生:安全態度は子供の頃から形成されますけど、危険や安全を学ぼうとする意識さえあれば、危険予知の教材に接していろいろな危険の可能性を考えることで、いつしか形成されるようになります。『JAF Mate』の危険予知コーナーの意義は、危険予知の効果と結果をもたらすだけでなく、危険予知の背景となる意識構造、すなわち安全態度を形成することにもなります。また、図のように安全態度と危険予知は相互作用で高め合い、安全態度が形成されれば危険予知を強め、その危険予知がさらに強い安全態度を形成するという「好循環」が生まれるので、ぜひ危険予知に興味を持って、事故防止に役立ててほしいですね。

『JAFMate』誌 2015年6月号掲載の「危険予知」を元にした
「よもやま話」です


【長山泰久(大阪大学名誉教授)】
1960年大阪大学大学院文学研究科博士課程修了後、旧西ドイツ・ハイデルブルグ大学に留学。追手門学院大学、大阪大学人間科学部教授を歴任。専門は交通心理学。91年より『JAF Mate』危険予知ページの監修を務める。

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