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道路・交通最終更新日:2024.04.25 公開日:2024.04.26

蒸気、木漏れ日、樹木が見通しを悪化。|長山先生の「危険予知」よもやま話 第25回

JAF Mate誌の「危険予知」を監修されていた大阪大学名誉教授の長山先生からお聞きした、本誌では紹介できなかった事故事例や脱線ネタを紹介するこのコーナー。今回は山道の危険な凍結路面の話から、長山先生が海外に視察に行った際にロンドンバスを運転したことなど、ビックリネタを披露してくれました。

話=長山泰久(大阪大学名誉教授)

蒸気、木漏れ日、樹木が見通しを悪化。

編集部:今回は雪が残る郊外の山道を走っている状況です。対向車とすれ違いながら左カーブに入ったところ、2台目の対向車がセンターラインをはみ出してきて衝突しそうになる、というものです。路面から蒸気が立ち上っていて、ちょっと見えづらい状況なので、対向車のはみ出しに気づくのが遅れそうですね。

雪が降った翌日、山道のカーブで対向車とすれ違うところです。

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対向車がセンターラインをオーバーしてきて、ぶつかりそうになりました。

長山先生:そうですね。今回は蒸気以外にも前方の視界を悪くする原因がいくつかあるので注意が必要です。

編集部:蒸気以外にもありますか?

長山先生:そうです。路面に立ち上る蒸気は私自身あまり経験がありませんが、写真のように木漏れ日の影響で前方が見えづらくなるケースは少なくありません。

編集部:たしかに日差しが差しているところと日陰が交互に来ると、トンネル前後と同じで、明暗の差が大きく見えにくいですね。今回は日向と日陰が交互に来る感じではありませんが、道路には燦燦と日が差していて、しかも逆光気味なので、見えづらいことに変わりはありませんね。

長山先生:天気がいいぶん、路面の照り返しはきつくなります。直射日光が運転席に差してガラスは反射しますし、景色も白っぽくなって視界が悪化します。景色が白っぽくなり視界が悪化するというと、ドイツの冬を思い出します。

編集部:ドイツの冬ですか?

長山先生:そうです。雪が乾燥していると前を走る車が雪を吹き上げながら走りますから、吹き上げられた雪が視界を遮って前方が見えづらくなるのです。

編集部:乾燥した雪ですか? 日本で言うと新潟などに多い湿った雪ではなく、北海道などのサラサラの雪のことでしょうか。日本でも冷え込みが強く風も吹いていると、根雪にならず路面のサラサラの雪が風や車の通過で舞い上がり、視界が悪化しますけど、それと同じですね。

長山先生:そのとおりです。天気が良いと巻き上がった雪に太陽の光が反射して、さらに見えにくくなるようです。今回は路面の雪はほとんど融けていて、その点は問題ありませんが、カーブの先が崖や樹木で見えなくなっています。落石防護用の金網や岩盤に自生している樹木でカーブ前方の視界が完全に阻害されていて、見える範囲が限られています。もしカーブ直後に車が停止していれば、路面が濡れていて摩擦係数が低いので、止まれずに追突してしまうでしょう。

編集部:樹木も気になりますが、崖自体がほぼ垂直にそそり立っていて、先がまったく見えませんね。そうすると、ついカーブの先、左側ばかり注意してしまいそうですが、結果は「赤い車のはみ出し」でした。対応が遅れそうですね。

長山先生:おっしゃるとおりで、見通しが悪いカーブだからとそちらばかり意識していると赤い車への対応が遅れます。黄色のセンターラインをはみ出すこと自体、対向車側に問題がありますが、事故防止には相手の間違った行動にも対応できる防衛運転が重要になります。今回の状況には、対向車がはみ出すことが予測できる要素がいくつかあります。

右カーブはショートカットしやすい!?

長山先生:まずカーブ走行時の特性として、左カーブでは道路の左端に沿って走行するのに対して、右カーブでは大回りするより、近い所からショートカットするような軌跡で走行しようとする傾向があります。

編集部:カーブをショートカットするのは、右カーブを走行する車に多い特徴なのですね。

長山先生:そのとおりです。特に貨物を満載した大型トラックの場合、カーブ走行時に直線に近い軌跡でショートカットする傾向があることを実際に観察して確かめたことがあります。

編集部:貨物を満載した大型トラックだけ観察したのですか?

長山先生:そうです。二輪車とダンプカーの事故原因の鑑定を依頼されたことがあって、S字カーブでダンプカーがショートカットをしたかどうかを調べたのです。現場の道路を俯瞰撮影して記録したものを分析したところ、土砂を積んでいない空車は車線に沿ってカーブを走行するのに対して、土砂を満載した実車の場合、例外なくS字カーブを車線に従わず、直線的に走行することが記録されました。

編集部:車体が重くなるとハンドル操作に対する車の挙動が鈍くなり、カーブに沿って走るのが難しくなるのですかね?

長山先生:それもありますが、車重が重くなって速度が出にくいので、より直線的に走行して速度低下を抑えたいという心理があったようです。また、当時のダンプカーにはパワーステアリングも付いてなかったので、車重が重くなるとそのぶんハンドルを切るのにより力が必要になるため、ドライバーはそれも嫌ったようです。

編集部:なるほど。ダンプカーと乗用車では車体の大きさや重量が異なりますが、カーブ走行時の傾向が同じなら、右カーブを走ってくる対向車がセンターラインをはみ出し、こちらの車線に入り込む可能性を考えておかなければいけませんね。

長山先生:そうです。対向車がはみ出せば、それを避けるため雪が残る左側に逃げなければならないので、こちらがスリップする危険性が生じます。早めに対向車のはみ出しを予測して、速度を十分落とすなどの対応が求められます。また、ショートカットする車が多いためか、対向車線の路肩にはまだ雪が残っていました。これが対向車のショートカットを助長させる原因になります。

冬道は日陰部分の凍結にも注意!

編集部:たしかに対向車線の路肩にはけっこう雪が残っていますね。路肩に雪が残っていれば、よけい路肩に寄って走るのを避けますね。

長山先生:そのとおり、あえて滑りやすい路肩を走ろうとするドライバーはまずいないので、路肩の雪を避けて雪が残っていないセンターライン寄りを走ろうとするでしょう。

編集部:夏タイヤを履いていたら、なおさらですね。ちょっとでも雪が残っている部分は走りたくないので、ドライバーは雪が少ない部分を走ろうとします。

長山先生:そうです。多くのドライバーが同じ考えでセンターライン付近を走るので、センターライン付近の雪は早く融け、路肩の雪はなかなか融けないということになります。さらに路肩は日陰になっていることが多いので、雪が融けにくいという危険性もあります。

編集部:今回のカーブもよく見ると、対向車線のカーブ中央付近は木の陰になっていますね。

長山先生:そうです。日が当たらず、しかも気温が低いと、雪や濡れた路面が凍結している危険性もあります。以前、住宅街の下り坂で自分が走る車線にはすでに雪が残っていなかったのですが、道全体が住宅の陰になっていて道路が凍結していて滑ったことがありました。アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)のお陰で何とか無事に切り抜けましたが、冬道の日陰部分に入るときには十分気をつける必要があることを悟りました。

編集部:そういえば、学生時代に数台の車に分乗して冬の峠道をドライブしたことがあったのですが、友人の乗った車が日陰に残っていた雪でスリップし、崖に車をぶつけたことがありました。

長山先生:あなたの車は大丈夫だったのですか?

編集部:私は別の友人が運転する車の助手席に乗っていて大丈夫でした。その友人は峠道に慣れていて、日陰に残った雪をうまく避けて「(後続車は)大丈夫かな?」と思っていたそうです。峠道を何度も走った経験から「日陰は危険!」と知っていたようです。当時は「危険予知」という言葉すら知りませんでしたが、あの時の友人は、危険予知ができたお陰で事故らずに済んだと思います。

長山先生:その方も過去に日陰の残雪や凍結路面で痛い目にあったのかもしれませんね。知識として知っていても、そういった特殊な状況への対応は、実際に経験しないとなかなか実践できないからです。私の場合、以前海外に視察に行った際に「スキッドパン」という摩擦係数の低い路面で、スリップした際の運転の難しさを体験することができました。

2階建てのロンドンバスでスリップ体験!

編集部:滑りやすい路面は私もタイヤメーカーのテストコースなどで体験したことがありますが、海外で体験できるとは、羨ましいですね。

長山先生:茨城県ひたちなか市に「自動車安全運転センター 安全運転中央研修所」という施設があるのをご存知ですか?

編集部:毎年、白バイ隊員の競技会が開催される所ですよね。JAFのロードサービス隊員の研修を取材しに行ったことがあります。

長山先生:安全運転中央研修所は「自動車安全運転センター法」に基づき、警察や消防から自動車教習所、一般企業まで、車を仕事で使う企業向けに運転者や指導者の研修を行う施設として設立されたものです。広大な敷地にトレーニングコースやドライビング・シミュレーターを保有し、運転上の危険を安全に体験できる施設です。平成3年に開設されましたが、その数年前から基本構想委員会が設置されて、私もその一員として教育カリキュラムの作成やドライビング・シミュレーター等の検討のため、5回の海外視察に参りました。

編集部:5回も行かれたのですね。海外はヨーロッパですか? 安全運転教育や施設はドイツやイギリスが進んでいるような印象ですが。

長山先生:たしかにヨーロッパには自動車先進国が多く、昭和54(1979)年にはすでに欧州8か国にスキッドパンがあり、それぞれどのように作られていて、それを使ってどのような訓練が行われているのか体験しました。なかでも特に興味を持ったイギリスとスウェーデンでのスキッドパンでの実体験についてお話します。

編集部:北欧のスウェーデンは雪も多そうでスキッドパンによる訓練の必要性がよく分かりますが、イギリスもけっこう雪が降るのでしょうか。

長山先生:北欧に比べれば雪は降りませんが、緯度は北海道より上になるので、冬は冷え込むようです。そのため、ロンドンバスの訓練所では、摩擦係数の低い路面に水を撒き、その上を走行させてスキッド(滑り)を体験させる方式がとられていました。

編集部:ロンドンバスとは、あの有名な赤い2階建てバスのことですか!?

長山先生:そうです。ダブルデッキと呼ばれる、あの2階建てバスです。イギリスの道路は歩道に近づくほど低くなるように勾配が付けられているので、路面が凍結していると、停留所から発車する場合に滑ってしまいます。そこで、勾配のある滑りやすい路面で発進するための訓練などが行われていました。

編集部:日本のカマボコ型の道路と同じですね。路面の排水性を考慮して、路肩を低くしているのでしょうね。アクセルワークなどが重要になるのでしょうけど、どんな教え方をしているのか興味深いですね。

長山先生:おっしゃるとおり、私もとても興味を持ち、訓練をただ見学するだけでは満足できなかったので、スキッドパンでのバスの運転を体験させてもらいました。

編集部:実際にバスを運転したのですか!?

長山先生:そうです。スキッドパンでブレーキやハンドル操作の訓練を体験させてもらったのですが、ダブルデッキバスは二重のシフトレバーが付いていて、操作に慣れない私は速度を出すのに苦労しました。インストラクターから「もっと速度を出せ!」「思い切ってハンドル操作せよ!」「ダブルデッキバスは45度傾いても転覆しないから」と叱咤激励されましたが、何度やっても速度を充分出せないままブレーキの訓練は終わってしまいました。しかし、ダブルデッキバスをロンドンで運転できた日本人は何人もいないのではないかと、満足な気持ちを持ったものです。

編集部:そうですよね。今でこそ観光用の2階建てバスを都心などで見ることはありますけど、本場で実際に運転した人はまず居ないですよね。では、スウェーデンでも運転したのですね?

スウェーデンでは、“人間ABS”に挑戦!?

長山先生:スウェーデンではストックホルムでスキッド訓練を体験しました。これは運転免許取得資格と関連して行われるもので、訓練所でブレーキとタイヤの回転に関しての学科教習が行われたのち、ブレーキ技能訓練が行われました。

編集部:運転免許試験のオプションみたいな感じですかね。でも、滑りに対応する訓練が運転免許取得時に関連して行われているのは、北欧の国ならではですね。

長山先生:そうですね。この訓練のポイントは、ブレーキ訓練に合格したのちに、ブレーキとタイヤの回転について再度理論的に理解させる点です。ヨーロッパの教育施設では、“theory and practice(理論と実践)”の同時学習の重要性を何度となく聞かされました。すなわち教育・訓練をする場合には、実際に体験させるだけではなく、理由・理論を同時に学ばせる方法を取らなければならないということです。

編集部:たしかに体験するだけでなく、なぜこうなるのか? といった原理などを理論的に教わると、より理解が深まり記憶にも強く残りそうですね。

長山先生:おっしゃるとおりです。日本の自動車学校でも「学技一体」と称して、学科教習と技能教習は関係づけて学ぶ必要があるとして、特に「危険予知」に関しては、道路上で「危険を予測した運転」の技能講習を受けた直後に、教室で「危険予測ディスカション」の学科教習が行われます。

編集部:私が免許を取った時代とだいぶ違いますね。ところで、スウェーデンでのブレーキ訓練はどのようなものだったのですか?

長山先生:周回コースの一部が摩擦係数の低い滑りやすい路面になっていて、時速40km以上でその部分に入って停止するという課題でした。自動車の屋根にブレーキの踏み込み量を示すランプが3つ付いていて、外からインストラクターがそれを見て、運転者に無線で「もう少しブレーキを強く」「ブレーキを弱く」と指示していました。

編集部:滑りやすい路面での正しいブレーキングを習得する訓練ですか? ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)がまだなかった時代で、“人間ABS”を習得する訓練みたいですね。

長山先生:そうですね。踏みすぎるとランプが3つ点灯し、弱すぎると1つしか点灯せず、2つの場合がちょうど良いようになっているのです。早い人は数回試みる間に滑ることもなく最短距離で止まれるブレーキをマスターしていましたが、私は5回ほど体験したものの、インストラクターが指示するスウェーデン語が分からず、路面とタイヤが最適に噛み合うブレーキの程度を把握できないまま訓練が終わってしまいました。

編集部:屋根のランプでは自分で確認できないので、加減が分りませんよね。でも、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)が出るまでは、ドライバーがそんな微妙な踏み加減ができることが大切だったのでしょうね。

長山先生:雪道や凍結路面を走る北欧の運転者には、このような訓練は必要なことだったのでしょう。ただし、研究者の間ではこのようなブレーキングをマスターした者の事故が減少するという意見がある一方で、若者が短い停止距離を過信してスピードを出して走行するので逆に事故を起こしやすいという意見もあり、論争になっていたのも事実です。

『JAF Mate』誌 2017年2・3月号掲載の「危険予知」を元にした「よもやま話」です

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