2021年12月25日 06:00 掲載

交通安全・防災 ここの歩行者は“横断不感症”!?|
長山先生の「危険予知」よもやま話 第6回


話・長山泰久(大阪大学名誉教授)

信号無視が多いと、守る方の精神が不安定に!?

長山先生:また、この道路のように道路を好き勝手に横断する人が多いと、それにつられる人も出てくる危険性があります。今ではかなり良くなっていますが、大阪ではしばしば赤信号でも交差点を渡る歩行者がいて、皆が渡るところで一人だけ信号を守っていると、心理的に何とも言えない不安定な気持ちになるものです。

編集部:それは分かります。正しい行動をしている自分がバカみたいに感じて、周囲から浮いてしまう気持ちになりますね。

長山先生:そうですね。赤信号を無視して渡る人が大多数を占めれば、ルール的には間違った行動にもかかわらず、"皆が行っている行動をしない自分"となり、周囲の人に適応しない不安定さを感じてしまいます。以前、転勤で東京から大阪に来た人から「大阪では電車に乗るときに列を作らない」「赤信号を無視する」という話が出て、「自分にはそれはできない」と話していたのですが、1年経って再び会って話を聞くと、「自分も同じことをしてしまっている」と話してくれました。そうしないと精神的に疲れてしまうようで、その行動が正しいかどうかは関係なく、人は社会規範から外れた行動は取りにくいのです。

編集部:"郷に入れば、郷に従え"なんですかね? ただ、交通ルールのように、事故に結び付く規範にそれが適用されてしまうと、本当に無法地帯になってしまいますよね。たとえ自分で安全確認していても、安全判断の基準は人それぞれで、車を見落としていたり、車の速度を見誤っていれば、事故に直結してしまいます。また、分別ある大人同士ならともかく、安全かどうかの判断がつかない子供に間違った行動を真似される危険もあると思います。

長山先生:そのとおりです。誤った社会規範による弊害は大きく、それを止めることが重要です。それには、人の"良心"が重要な役割を果たすことを私は東北から来た女子学生に教えられました。その学生は大阪に来て、「大阪では赤信号で渡っていきますが、私の良心がそれを許しません」とレポートに書いたのです。彼女も周囲の人が赤信号を無視して横断する行動を見て、少なからず心理的に不安定な気持ちになったかと思いますが、彼女の良心がそれを上回り、現場の規範に流されることなく、交通ルールを守ったのです。通常の道路では、歩行者をはじめ、自転車利用者や二輪車、四輪車のドライバーなど、すべての道路利用者の良心があって初めて、事故のない円滑な交通となることを、皆さん忘れないでいただきたいですね。

『JAFMate』誌 2015年4月号掲載の「危険予知」を元にした
「よもやま話」です


【長山泰久(大阪大学名誉教授)】
1960年大阪大学大学院文学研究科博士課程修了後、旧西ドイツ・ハイデルブルグ大学に留学。追手門学院大学、大阪大学人間科学部教授を歴任。専門は交通心理学。91年より『JAF Mate』危険予知ページの監修を務める。

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