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道路・交通最終更新日:2023.06.20 公開日:2021.08.21

自転車側も注意して事故防止|長山先生の「危険予知」よもやま話 第2回

JAF Mate誌の人気コーナー「危険予知」の監修者である大阪大学名誉教授の長山先生に聞く、危険予知のポイント。本誌では紹介できなかった事故事例から脱線ネタまで長山先生ならではの「交通安全のエッセンス」が溢れています。

話・長山泰久(大阪大学名誉教授)

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自転車側は交差点と認識していない!?

編集部:今回の問題はドライバーではなく、自転車の立場からの問題です。自転車で交差点を直進するケースですが、ポイントはどこにありますか?

長山先生の「危険予知」よもやま 第二回|問題写真|くるくら

矢印

長山先生の「危険予知」よもやま第二回|結果写真|くるくら

長山先生:まず、問題のような小さな交差点では、交差点の存在に気づかなかったり、気づいても問題と感じずに無意識のうちに走ってしまう傾向がありますね。

編集部:交差点であることは、さすがに気づくんじゃないでしょうか?

長山先生:問題の場面をじっくり見てしまうと、そのようなことは信じられないかもしれませんが、片側1車線の道は自転車にとってわずか一漕ぎで通過できてしまいます。歩道を走っている自転車にとって、ほんの一瞬だけ車道に降りて、すぐにまた歩道を走ることになるので、交差点を通過しているという意識は希薄です。

編集部:たしかにそうかもしれません。問題の場所はわずかに下っているので、一漕ぎすらしないで、惰性で通過できそうですし。

長山先生:そうです。漕ぐこともなければ、なおさら無意識のうちに通過することになります。しかも、問題の場面では、車用の信号機が電柱の陰に隠れていますし、歩行者・自転車専用の信号はかなり右側に設置されているので、信号のある交差点であることも認識しづらくなります。

編集部:信号が正面にないので、初めて通る場合、見落としてしまうかもしれませんね。

長山先生:初めて通る場合もそうですが、最近問題になっている携帯電話やスマートフォンを操作しているような場合、その可能性が高くなりますね。まあ、携帯などを操作しているのは論外ですが、たとえふつうに自転車に乗っている場合でも、交差点や信号があることを認識しづらい状況と言えます。

編集部:交差点であることさえ認識していないなら、今回の「右折車との危険性」を予測するのはかなり難しいですね。

長山先生:まさにそのとおりです。自転車に乗る人は、まず交差点であることを認識し、信号の色が何色なのかを意識化することが大切です。それができたうえで、さらに「右折車が曲がってくる可能性」を予測できることが重要です。

ドライバーのミスが事故に直結する事例

編集部:でも、交差点だと認識できても、自転車に乗る人が右折車のことまで意識するのは難しいのではないでしょうか? 私も自転車の立場なら、信号の色くらいしか見ないで、交差点を渡ってしまうような気がします。特に運転免許を持たない人の場合、右折車に注意する意味がよく分からないかもしれませんが。

長山先生:たしかに免許を持っていない人が右折車の動きと自分の関係性まで考えるのはなかなか難しいことですが、交差点での事故を調べると、右折する四輪車と横断中の自転車や歩行者が衝突する事故は多く発生しているので、車と歩行者の信号が別々になっている分離信号でない限りは、自転車・歩行者専用信号が青でも、右左折してくる車があることを知っておく必要があります。

編集部:でも、自転車や歩行者の立場で考えると、右折するドライバーが自転車や歩行者に注意すべきと考えるのではないでしょうか?

長山先生:もちろん、右折するドライバーが注意するのは当然ですが、右折するドライバーは、対向車の有無や対向車の速度など、右折可能かどうかの判断に意識が集中し、前ばかり注意してしまいがちです。つまり、後ろから走り込む自転車に対する注意はかなり手薄になってしまう傾向があります。

編集部:つまり、より見落とされやすい状況なんですね。

長山先生:そうです。だから、事故が起きた場合の責任問題はともかく、自分の身を守るためには、相手の注意力に頼れない状況と言え、通常よりさらに自転車や歩行者側がそれを補って注意する必要があるのです。

ドライバーとのアイコンタクトが重要!

編集部:では、今回の場合、自転車側は具体的にどのように走ればいいのでしょう?

長山先生:まず、交差点を渡る際の速度を十分落とします。先ほど、後方から走り込む自転車は見落とされやすい点に触れましたが、自転車の速度が高ければ高いほど、より遠い位置から走り込むことができ、ドライバーからは見落とされやすくなります。そして、自転車横断帯や横断歩道に差し掛かったら、右折待ちをしている車のドライバーがこちらを見ているか確認します。これが「アイコンタクト」です。ドライバーの目線と自分の目線を合わせることで、相手の意図を読み取るのです。対向車が途切れたら、右折車は曲がってくる可能性が高いので、そのようなタイミングで渡る場合、必ずアイコンタクトを取ってから渡ります。

編集部:相手の意図とは、自分に気づいて止まってくれるのかどうか?という点ですね。

長山先生:そうです。しっかりこちらを見て、速度も落ちていればそのまま渡れますが、ドライバーがこちらを向いていなかったり、ガラス越しで顔がよく見えない場合、相手の意図が判断できないので、右折車の動きに注意しながら、慎重に渡ります。アイコンタクトが取れず、右折車の減速も確認できない場合、こちらに気づいていない可能性が高いので先に行かせましょう。

編集部:交差点を渡る際は速度を落として、ドライバーとアイコンタクトを取ることが大切なんですね。

長山先生:速度を落とすことは、交差点を渡るときだけではありません。今回のように歩道を走る際も重要です。道路標識で指定された場合や子供や高齢者が自転車に乗る場合など、例外的に歩道を自転車で走ることができますが、歩道では車道寄りを徐行する義務があるので、横断歩道前後の歩道でもすぐに止まれる速度で走らないといけません。

右折車は横断歩道の前で徐行か一時停止を!

編集部:右折するドライバーについては、曲がる際のライン取りと横断歩道や自転車横断帯の手前で徐行か一時停止することが重要になるんですね。

長山先生:そうです。対向車が続いて来ていたり、対向車が多いのに右折の矢印信号が出ない交差点では、対向車のわずかな隙間でも無理に曲がろうとしがちです。また、急いでいると、対向車が来ていても先に右折してしまおうと、あえてリスク(危険)を取ることもありますが、急いだり焦って行動すると、十分な確認はできず、事故の確率も高くなります。「risk-taking(リスクを取る)=事故の危険性大」なのに対し、「risk-avoiding(リスクを避ける)=安全への傾向性大」であることを覚えておき、対向車との関係で”少しでも危ない”と思う行動は絶対に取らないようにしましょう。あと、右折待ちの際に横断歩道付近を確認していても、すぐ曲がれない場合、確認したときとまったく状況が変わってしまうことにも注意が必要です。

編集部:たしかに、いざ曲がろうとしたら、さっきまでいなかった自転車や歩行者が「いつの間にか出てきた!」というケースがありますね。

長山先生:そうです。特に自転車は速度が出るので、確認したときは遠くにいても、短時間で近づいていることがあります。また、交差点の角にあるコンビニエンスストアなどから、急に買い物客が出てくることもあるので注意が必要です。

編集部:コンビニから出てくる”新キャラ”まで予測することはできませんね。

長山先生:ある意味、いつどこから自転車や歩行者が出てくるか分かりませんから、曲がる直前で横断歩道に差し掛かりそうな自転車や歩行者を確認するのに加えて、誌面で解説したように横断歩道や自転車横断帯の前で必ず徐行か一時停止をして、改めて左右の確認をしてから通過しましょう。ただし、小さな交差点では、横断歩道の手前で停止すると、車の後部が対向車線にはみ出して、対向車に衝突されるおそれもあります。

編集部:そんな危険性もあるので、対向車の短い車間をぬって曲がるようなrisk-takingをしてはいけないんですね。

月刊『JAFMate』 2014年11月号掲載の「危険予知」を元にした
「よもやま話」です


【長山泰久(大阪大学名誉教授)】
1960年大阪大学大学院文学研究科博士課程修了後、旧西ドイツ・ハイデルブルグ大学に留学。追手門学院大学、大阪大学人間科学部教授を歴任。専門は交通心理学。91年より『JAF Mate』危険予知ページの監修を務める。

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