【人とくるまのテクノロジー展:その4】ドデカいトラック&エンジンたち!!
5月24日~26日開催の「自動車技術展:人とくるまのテクノロジー展 2017 横浜」(パシフィコ横浜)を取材、自動車メーカーやパーツサプライヤー、そのほかさまざまな自動車に関するテクノロジーをシリーズで紹介する。
今回は、国内大型車メーカーのトラックやビッグなエンジンたちを紹介しよう。
いすゞは唯一大型トラックを展示
大型車メーカーは今回3社が出展。その中で、いすゞが唯一大型トラックの実車を展示した。同社の中型トラック「フォワード」と共に、平成28年度排ガス規制と燃費基準への対応や安全性能の向上を行い、4月27日にマイナーチェンジ車として発表した「GIGA(ギガ)」シリーズの「TRACTOR(トラクタ)」だ。
いすゞの大型トラック「GIGA」シリーズの「トラクタ」。全長5610mm×全幅2490mm×全高3235mm。ホイールベース3180mm。車両重量7100kg。
GIGA TRACTORを斜めから。タイヤは、前が「295/80R22.5-153/140J」で、後ろが「275/80R22.5-151/148J」。
GIGA TRACTORを後方から。駆動方式4×2、サスペンションは4バッグエアサスペンション。
GIGA TRACTORのキャビン後方。外からは見づらいが、キャビン下方の黒い部分の奥にエンジンがある。搭載されているディーゼルエンジン「6WG1-TCC」は1万5681cc。最高出力も338kW/1700rpmと高いが、最大トルクはなんと2289N・m/900-1300rpm。
運転席。ドライバーの居眠り・わき見運転を防止するような先進的な予防安全システムなどは研究は進められているそうだが、現行モデルは搭載されていないとのこと。
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いすゞのCNGエンジン「6UV1-TCN」に迫る!
国内自動車メーカー初の大型CNGエンジン「6UV1-TCN」
GIGA TRACTORと合わせていすゞが展示したのが、オットーサイクルのCNGエンジン「6UV1-TCN」だ。2015年12月に、いすゞが国内メーカーとして初めて市場に投入した大型CNG(圧縮天然ガス)トラック「GIGA CNG車」に搭載。オットーサイクルということは、ディーゼルエンジンではなく、ガソリンエンジンの仲間である。大型になると、一般的には、ディーゼルエンジンの方が小型で効率がよいため、このサイズのオットーサイクルは、珍しいエンジンともいえる。
【6UV1-TCNスペック】
総排気量:9839cc
最高出力:243kW/1800rpm(*ネット値)
最大トルク:1390N・m/1200-1400rpm(*ネット値)
燃料:都市ガス・13A
点火方式:オットーサイクル(火花点火)
CNGエンジン「6UV1-TCN」。CNGエンジンの大きな特徴がクリーンなこと。中でもNOxは0.30、PMは最低検出レベル以下だ。
6UV1-TCNの機構的な特徴のひとつが、「CNG-MPI(マルチポイントインジェクション)」。インジェクター(燃料噴射装置)をエンジンの気筒ごとに配置したことで、LPGエンジンで従来より使われてきたガスミキサー方式と比べて燃料の噴射量や噴射タイミングを細かくコントロールすることが可能となった。
アイドリングストップは乗用車では一般的だが、トラックでも導入が進んでおり、GIGA CNG車でもアイドリングストップが搭載されている。
日野は「プロフィア」と「レンジャー」のエンジンを展示
日野は、平成28年度排出ガス規制に適合させた2基の新型ディーゼルエンジンを展示。4月にモデルチェンジした大型トラック「プロフィア」に搭載した「A09C」(8866cc)と、同じく4月にモデルチェンジした中型トラック「レンジャー」に搭載されている「A05C」(5123cc)だ。
まずはA09Cから紹介。低圧と高圧の2段ターボを搭載し、シリンダーライナー(ピストンが接するシリンダーの内面)にディンプル(窪み)を設けることで摩擦抵抗を減らして燃費を向上させる新技術「ディンプルライナー」が特徴だ。
【A09Cスペック】
総排気量:8866cc
最高出力:279kW/1700rpm
最大トルク:1765N・m/1100-1400rpm
新型A09C。市販車ではプロフィアに搭載されているが、ダカールラリー参戦用レンジャーにも搭載されており、タフな環境で鍛えられている。
一般的にエンジン自体のサイズや重量などは公表されないが、A09Cは公表されており、全長1414mm×全幅884mm×全高1191mm、乾燥重量953kg。(1)「EGR(Exhaust Gas Recirculation:排気再循環)バルブ」。(2)高圧コモンレールシステム。(3)サプライポンプ。
右側にあるのが、上が低圧段、下が高圧段の2段ターボそれぞれのインタークーラー。なお両ターボの切り替えには、「電動バタフライバルブ」が用いられている。
プロフィアの先代モデルでは、日野のフラッグシップエンジン「E13C」(1万2913cc)のみが搭載されていたが、17年4月のモデルチェンジからは排気量が4L強小さいこの新型A09Cがメインとなった。新型A09CはE13Cと比べて出力で23kW、トルクで392N・m劣るが、約300kgも軽く、結果的に同等の運動性能を実現しているという。
新型レンジャー用の「A05C」はカットモデルを展示
4月にプロフィアと共にモデルチェンジしたレンジャーに搭載されたディーゼルエンジンのA05Cは、カットモデルが展示された。A09Cの小型版の位置づけで、A05Cも2段ターボとディンプルライナーが特徴となっている。
【A05Cスペック】
総排気量:5123cc
最高出力:140~191kW/1800~2300rpm
最大トルク:706~882N・m/1400~1600rpm
A05Cのカットモデル。4月にモデルチェンジしたレンジャーから搭載されている。A09Cの5L版である。
A05Cを横から。(1)はEGRバルブ。(2)エンジンリターダー。(3)高圧コモンレールシステム。(4)2段リップ燃焼室。ここをのぞき込むと、ディンプルライナーが見られるようになっていた。(5)サプライポンプ。
A05Cも低圧と高圧の2段ターボ。展示ではインタークーラーが装備されていないが、A09Cと同様に実車では装備されている。
2段ターボ。赤丸で囲ったのが低圧段ターボ。黄丸で囲ったのが高圧段ターボ。
排ガス浄化システム「DPR+尿素SCR」
プロフィアと、レンジャーの高出力仕様車(177・191kW)に搭載されている排ガス浄化システム「DPR(*1)+尿素SCR(*2)」もカットモデルが展示された。レンジャーの低出力仕様車(140・155kW)は、尿素を使わない「DPR-II」(DPR+HC-SCR(*3)の構成)が採用されている。なお、DPRはトヨタが開発した技術だ。
*1 DPR=Diesel Particulate active Reduction system:ディーゼル微粒子浄化システム
*2 SCR=Selective Catalytic Reduction:選択(的)触媒還元
*3 HI-SCR=Selective Catalytic Reduction by Hydrocarbons:炭化水素SCR
「DPR+尿素SCRシステム」のカットモデル。なお、排気は(4)から(1)へと流れる。(1)第2マフラーの尿素SCRユニット。第1と第2マフラーの間で尿素水が噴霧され、NOxを窒素と水に分解する。(2)尿素SCR触媒。(3)後段酸化触媒。(4)第1マフラーのDPRユニット。(5)前段酸化触媒。(6)DFRフィルター。
UDトラックスは大型トラック「クオン」のエンジンなどを展示
UDトラックスが展示したのが、4月にモデルチェンジしたフラッグシップの大型トラック「クオン」に搭載された、1万836ccの「G11」ディーゼルエンジンのカットモデル。G11シリーズは以前からクオンに搭載されてきたが、今回のものは平成28年度排出ガス規制に対応したものである。
【G11スペック】
総排気量:1万836cc
最高出力:265~309kW/1600rpm
最大トルク:1750~1900N・m/900-1550rpm
G11のカットモデル。今回出展した国内大型車メーカー3社が展示したエンジンの中では最大の排気量。サイズも最大で、迫力があった。
G11を真横から。この新型G11では、ユニットインジェクター式とコモンレール式双方の長所を活かした新型燃料噴射装置を採用したほか、吸排気系・ピストンの燃焼室形状の見直しなどが行われた。
新型G11は、従来のG11よりもすべての馬力帯で従来のG11よりも約10馬力ほどアップしたという。
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12段電子制御オートマ「ESCOT-VI」とは?
省燃費運転に貢献するオートマ「ESCOT-VI」
「ESCOT-VI(エスコット・シックス)」はUDトラックスの電子制御オートマチックトランスミッション「ESCOT」の最新版で、12段式となった(マニュアルモードでドライバーが選べるのは6速なので、名称はトゥウェルブではなくシックス)。
ESCOT-VI。大型トラックもオートマ化が進み、新型クオンは2ペダル。マニュアルシフトさせたいときは、Hig/Low付きの6段変速。
ESCOT-VIを別角度から。ギアレシオは1stギアから12thギアまでで11.729~0.785。
近未来のクオンのスケールモデル「クオン・ビジョン」
「クオン・ビジョン」は、UDトラックスのビジョンである「スマートロジスティクスの実現」に向けたシンボルで、2015年の第44回東京モーターショーで公開されたコンセプトモデルだ。今回は、そのスケールモデルが展示された。
省燃費走行を実現するシステムや運転支援システムなど、そのコンセプトは新型クオンに引き継がれているという。
2017年6月14日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)