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最終更新日:2017.06.09 公開日:2017.06.09

燃費モードがJC08から世界標準のWLTCに変更

今年の夏ぐらいから登場する新車に、新たな燃費試験方法「WLTCモード」が採用されるという。これまでの「JC08モード」からどう変わるのか?

 クルマのオーナーはもちろん、一度でも購入を考えてカタログを見たことがある人なら、「10・15(じゅうじゅうご)モード」や「JC08(ジェイシーゼロハチ)モード」という単語をご存じだろう。1L当たりどれだけの距離を走れるかで燃料消費率(燃費)を示すために、日本が独自で策定した燃費試験の際の走り方(モード)のことだ。どのクルマも同一条件の下に走らせて燃費を測定し、それをスペックのひとつとして公表しているわけだ。

 10・15モードは、それまでの10モードにかわり、1991年に日本で導入された測定試験方法である。しかし、その10・15モードも現実の走行実態と大きな差異があるとされ、2011年4月にはJC08モードが導入された。JC08モードは10・15モードとの併用期間を経て、13年3月以降は単独で用いられている。

 JC08モードは導入されて6年。まだ比較的新しい感もあるが、この夏に早くも新たな測定方法「WLTCモード」が登場するという。WLTCモードとはどのような測定方法なのだろうか?

WLTCモードの特徴は?

 WLTCとは「Worldwide harmonized Light duty Test Cycle」の略称で、日本語では「世界統一試験サイクル」と呼ばれる。その誕生の経緯は後のページに譲るとして、まずはWLTCモードの特徴を紹介する。

 日本におけるWLTCモードの対象となるクルマは、車両総重量が3.5t以上で乗車定員が10人以上のものを除いた乗用車と、車両総重量3.5t以下の貨物車で、ガソリン車・ディーゼル車・LPG車に導入される。

 WLTCモード最大の特徴は燃費値が4種類表示されること。「市街地」、「郊外」、「高速道路」の3種類の走行モードの燃費値と、それらを平均的な使用時間配分で構成した「WLTCモード」で表される。要は、ユーザーの走行状況により近い燃費値を知ることができるというわけだ。

 それぞれの走行モードの特徴は、まず「市街地」が、信号待ちや渋滞などの影響を受ける都市部での比較的低速な走行を想定したもので、最も低い値となる。「郊外」は、信号や渋滞などの影響をあまり受けない比較的スムーズな走行を想定した値だ。そして最後の「高速道路」は、高速道路などの自動車専用道路での高速走行を想定した最も燃費のいい値となる。

JC08モードとWLTCモードの表示イメージの比較。経済産業省、国土交通省、日本自動車工業会が共同で作成したPDF資料より抜粋。

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WLTCモードはJC08モードよりも厳しい!?

WLTCモードはJC08モードよりも低い燃費値が出る

 WLTCモードはJC08モードと比較して条件が厳しい部分があるため、JC08モードよりも低い燃費値が出ることが多く、よくてもJC08モードと同等ということも特徴のひとつ。

 その理由のひとつが、試験自動車重量がJC08モードよりもWLTCモードの方が重いということ。

JC08モードでの室内計測のイメージ。走行抵抗は、実際にテストコースなどでの走行を行って計測し、それを室内計測時に反映させる。イラスト部分は、経産省と国交省が15年6月に共同発表したPDF資料「乗用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法(WLTP)の概要について」から抜粋。

 JC08モードは、「エンジンおよび燃料装置に燃料、潤滑油、冷却水などの全量を搭載し、さらに当該車両の目的とする用途に必要な固定的な設備を設けるなどの走行に必要な装備をした状態」での「車両重量」に、ドライバーとそのほか搭乗者の計2名を想定した110kgを一律に追加した合計が「試験自動車重量」だった。それに対し、WLTCモードでの試験自動車重量は以下のような計算式から導かれる。

 この式が意味するところだが、まず「非積載状態の重量」。搭乗者が乗らず、また荷物も搭載せず、なおかつ燃料、冷却水および潤滑油の全量を搭載した「走行可能な状態の空車」の重量に、メーカーが定める工具およびスペアタイヤを含む付属品すべて(オプション装備の重量)を搭載した重量の合計をいう。なお燃料の全量搭載とは、燃料の量がタンク容量の90%以上を指す。JC08モードの車両重量にほぼ等しいが、燃料がタンク容量の90%でも認められており、その分軽くてもいいことになる。

 これにドライバー1名相当75kgと手荷物25kgを加えたものを、ここでは「A」と表した。

 そして、「最大許容重量」とは、そのクルマに搭載可能な最大重量のこと。「最大許容重量からAを引いたものに積載率(乗用車:15%、貨物車:28%)をかけた重量」とは、簡単にいうと、ドライバー1名と手荷物以外に、搭乗者もしくは搭載荷物があることを表している。

 最大許容重量からAを引くと、そのクルマにあと何kgの重量物を載せられるかがわかる。結果、そこからおおよそ何人乗れるかということもわかる。

 ただしフル乗車したり、限界まで荷物が搭載されたりすることは割合として少ないと考えられるので、乗用車の場合はその内の15%、貨物車の場合は28%の重量となる人が搭乗するか荷物が搭載されるという想定である(これを「B」とする)。次ページでは、実際に例を用いて計算してみる。

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試験自動車重量を実際に計算して比較してみる

試験自動車重量を実際に比較してみる

 それでは、実際に例を用いて計算して、WLTCモードとJC08モードの試験自動車重量の違いを比較してみよう。計算しやすくするため、ここでは仮に最大許容重量が2t、非積載状態の重量が1.5tというスペックの乗用車を例としてみる。

 WLTCモードの場合は、1500+75+25+(2000-1600)×0.15=1660kgだ。Bは60kgとなり、だいたい成人男性1人か、その重量の荷物がドライバーや手荷物以外にも搭乗しているか搭載されていることになる。

 JC08モードは1500+110=1610kgで、WLTCモードの方が50kgほど重い。50kgといえばおおよそ女性1人に等しく、WLTCモードはそれだけ重くなった分だけ燃費に影響するのは間違いないだろう。

 またWLTCモードでは、同じ非積載状態の重量の場合は最大許容重量が重いか軽いか、または同じ最大許容重量の場合は非積載状態の重量が重いか軽いかでBの値が変わり、試験自動車重量も変化してくる。

 例を用いて計算してみると、掲載状態の重量が1.5tで最大許容重量が2.5tというクルマだとBは135kgとなり、試験自動車重量は1735kgだ。逆に最大許容重量が1.8tで非掲載状態の重量が1.5tだとすると、Bは30kgなので、1630kgとなる。

 つまり、非掲載状態の重量に対して最大許容重量が多いクルマ、つまりそれだけ人が搭乗できたり荷物を搭載できたりするクルマほどB(下図では(3))が増し、試験自動車重量が重くなるというわけだ。

WLTCモードとJC08モードの試験自動車重量の比較。同じクルマであっても、試験自動車重量の算出の仕方が異なる。WLTCモードの非掲載状態の重量とJC08モードの車両重量がほぼ一緒とした場合、(1)と(2)の合計は10kgほどJC08モードの方が重いが、WLTCモードはそこにさらにクルマの乗車定員数や積載量に合わせて(3)が追加されるため、その分重量が増す。非掲載状態の重量に対して最大許容重量の大きいクルマ、要は乗車定員が多かったり、積載量の大きかったりするほど試験自動車重量が増すのがWLTCモードなのである。

※乗車人員または積載物品を乗車または積載せず、かつ、燃料、冷却水および潤滑油の全量を搭載し、メーカーが定める工具およびスペアタイヤを含む付属品をすべて搭載した状態の重量(燃料の全量搭載とは、燃料の量がタンク容量の90%以上を指す)。
※※(3)は、最大許容重量から(1)と(2)を引いた残りの重量に対して、乗用車の場合は15%、貨物車の場合は28%をかけたもの。乗車定員数や貨物の最大積載量などによって変化する。
※※※走行するために必要な装備をした状態(エンジンおよび燃料装置に燃料、潤滑油、冷却水などの全量を搭載し、さらに当該車両の目的とする用途に必要な固定的な設備を設けるなどの走行に必要な装備をした状態)での重量

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そのほかにもWLTCモードとJC08モードは違いがある

より燃費に厳しい条件のコールドスタートが100%に

 もうひとつ、JC08モードよりも厳しい条件となるのが、コールドスタートが100%となることだ。コールドスタートとは、前回の乗車から十分に時間が経って外気温と同等にまで冷えた状態からまたエンジンを始動して、暖機運転をせずにそのまま走り出すということをいう。

 エンジンは十分に温まっていない状態だと、物理的な理由などから本来の燃費性能を発揮できない。しかしエンジンが十分に温まらない状態での発進が少なくない。そこでJC08モードもそれを想定し、4回の内1回は朝の気温が低めの時間帯にクルマを利用することがあるだろうという考えで、コールドスタートが25%、ホットスタート(暖機運転を十分に行った状態から測定開始)75%という条件の下に測定が行われている。

 しかしWLTCモードではより厳しい条件が採用され、常に暖機運転を一切行わない、コールドスタートのみで測定試験が行われることになったのである。

 これはつまり、冷えた状態でもきちんと燃費性能を発揮できるように作られているエンジンほど、燃費面では優秀ということになる。逆に、暖機運転をして条件を整えた状態にならないと性能を発揮できないエンジンをWLTCモードで測定すると、JC08モードよりも低い燃費値が出るというわけだ。

WLTCモードとJC08モードは走行距離なども異なる

 両モードを比較した違いは、ほかにも複数ある。JC08モードが日本の都市部に即した、発進停止の多い都市内走行を中心に構成されているのに対し、WLTCモードは郊外や高速道路での走行頻度が高くなっている(後ほど説明するが、策定する際に他国のデータも使用されているため)。WLTCモードはJC08モードよりも最高速度が高い上に高速走行の時間も長く、アイドリング時間の比率も半減することから、平均速度も1.5倍高い。

 またJC08モードは1204秒間に11のショートトリップという設定なのに対し、WLTCモードは1477秒間に7のショートトリップという設定。要は、発進停止の頻度も少なくなっており、日本の都市部よりもスムーズな走行をしているイメージとなっている。

 JC08モードとの比較は、下の表の通りだ。なおクラス3aと3bとは、WLTCモードではクラス分けという考え方が導入されている。パワーウェイトレシオの逆で、最高出力を車重で割るPMR(Power to Mass Ration)でもって、22未満はクラス1、22以上34未満がクラス2、それ以上がクラス3となる。さらに、クラス3は最高時速120kmを境に、それ未満をクラス3a、それ以上をクラス3bとする。

 実は日本車はほぼすべてがクラス3で、クラス2は乗用車と貨物車が1車種ずつなので、すべてのクルマに対してクラス3が適用されることとなった(そのため、クラス1と2の数値は掲載していない)。

WLTCモード(クラス3aと3b)とJC08モードの最高速度などの比較。WLTCは走行時間が3分30秒ほど、走行距離では倍近くになっている。

 このほかに両モードの違いとしては、最新のシャシーダイナモメーターがステップレスな「等価慣性重量」の設定が可能となったため、JC08モードはステップ状に設定されていたが、WLTCモードではステップレスになる。なお等価慣性重量とは、測定試験を行う際にシャシーダイナモメーターに設定する負荷のことをいう。

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WLTCモード誕生の経緯は?

世界標準の測定試験方法が求められていた

 最後は、WLTCモードが誕生した理由をまとめておく。

 自動車メーカーの多くが世界規模で展開するようになった結果、メーカーにとって難題となってきたのが、燃費を初め排ガス規制や安全基準など、国や地域ごとに法制度が異なること。メーカーは同じクルマに対しての測定試験をそれぞれの国や地域ごとに行っており、その結果を受けて場合によっては国・地域別に仕様変更も実施している。そのため、コスト、時間、労力など、メーカーの負担が大きくなってしまっており、そこで世界標準の燃費測定法を定め、1回の試験で済むようにしようということになったのである。

 具体的には、国連欧州経済委員会(UN-ECE)の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)において、08 年より策定に向けた活動がスタート。そして14年3月開催の第162回WP29において、「クルマなどの国際調和排出ガス・燃費試験法」を意味する「WLTP(Worldwide harmonized Light duty driving Test Procedure)」の世界統一技術規則第15号が採択された。このWLTP内に含まれている「試験サイクル」がWLTCというわけだ。

 なぜWLTPモードとはいわずにWLTCモードというのかという理由は、燃費測定は統計学的な分野であることが大きい。燃費データはグラフで表現されるため試験サイクルを当てはめる方が的確であるということから、WLTCモードと呼ぶことになったという(まだ呼称が確定する前は、WLTPモードと呼んでいる資料もある)。

WLTC策定に利用されたデータはどのようなもの?

 WLTCの策定に際して、日本もJC08モード策定時のデータを提供した。そのほか欧州や米国、インド、韓国なども各国の基準で計測した燃費データを提供している。そのため総合データは、日本の走行実態と比較すると、高い速度・高い加速度の使用頻度が含まれているのが特徴だ。

 そこで、Low、Middle、High、Extra-high(ExH)という4種類のフェーズの内、最も高い速度域のExHフェーズは各加盟国のオプションとすることで決着、日本ではExHフェーズは距離ベースの交通量比として全走行の5%しかないことから使用しないことになった。

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日本でのWLTCモードのスケジュールは?

日本では乗用車は2020年9月からWLTCモードに完全移行

 日本でのWLTCモードに関するスケジュールは、16年10月に法規として正式採用され、17年4月からは各メーカーが風洞内に設置したシャシーダイナモメーターにおいて、実際に屋内測定試験を実施できるようになった。

 WLTCモードでの表記が義務づけられている時期は、乗用車の新型車(フルモデルチェンジ車および完全新型車)が18年10月からで、継続車は20年9月からとなっている。

 ただし、実際には17年夏ぐらいから登場する新型車から採用され始める模様だ。実際、マツダが6月2日付けで、新型ガソリンエンジン「SKYACTIV-G 2.0」を搭載した「CX-3」(今夏発売予定)が、WLTCモードで認可を取得したことを発表している。

 なおこれらの義務づけは、正確には燃費表示のために定められたものではなく、排出ガス規制のためのものだ。実はWLTCモードは燃費の測定試験方法であると同時に、排出ガスの測定試験方法でもある。

 ちなみにJC08モードは2020年以降も併記してもよく、車種によってはカタログ状で5種類の燃費値が並ぶこともあるだろう。WLTCモードのみの表記になる時期はまだ決まっていない。

 そのほか貨物車に関しては1.7t以下の軽量車の新型車が18年10月からで、継続車は20年9月から。1.7t以上3.5t以下の中量車は、乗用車や軽量車と比較するとWLTCモードではより条件が厳しくなる傾向にあることから、追加的な排出ガス低減技術の開発が必要ということで、新型車は19年10月からで、継続車は21年9月となっている。

2017年6月9日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)

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