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クルマ最終更新日:2021.05.24 公開日:2021.05.24

ハイエースが全日本ラリーでクラス9位完走も、ドライバー・国沢光宏が絶句した訳は?

モータージャーナリストの国沢光宏がドライバーを務めるCAST RACINGのハイエースが、全日本ラリー第3戦ツールド九州2021 in 唐津でデビューを果たした。百戦錬磨のラリーカーに混じって、「商用車」のハイエースは見事完走したものの、ドライブした国沢は驚きの連続だっという。いわば異種格闘技戦に挑んだハイエースはどんな走りを見せたのか!?

文・国沢光宏(モータージャーナリスト)

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ついにハイエースが全日本ラリーにデビュー

ハイエース,全日本ラリー

全日本ラリーで全開走行するハイエース 写真:丸徳商会

 ハイエースの全日本ラリー参戦は、予想をはるかに超える反響があった。デビュー戦となった全日本ラリー第3戦ツールド九州2021 in 唐津(以下 唐津)の2分少々の走行動画は、全くアピールしていないのに再生回数12万回という状況。ネガティブな評価も多いかと思っていたのに嬉しい限りだ。一方で車の仕上がりが遅れ、テスト走行すらできない状況で本番を迎えたため、実戦ではさまざまな問題が出てくることとなった。

ぶっつけ本番で見えてきたハイエースの課題

ハイエース,全日本ラリー

CAST RACINGハイエースのデビュー戦のドライバー&コドライバーを務めた面々(左からSANKO号の喜多見孝弘ドライバー、同号の木原雅彦コドライバー、MARUTOKU号の国沢光宏ドライバー、同号の大西恵理コドライバー) 写真:丸徳商会

 問題の1つ目は常識外れの前後重量バランス。スポーツモデルを作る際、コーナリングや運動性などを考え前後の重量バランス5050を目指す。しかしハイエースときたら重量物は前輪の上に集中しており(さらにロールケージも前輪の近所)、前後の重量配分といえば7525くらい。ブレーキをかけると前輪への荷重がさらに増えてしまう。

 実際、下り坂で急ブレーキをかけたら後輪が浮いたほど! 下り坂ではないところでもブレーキをかけたら簡単にロックしてしまうほどだ。そのためラリー当日に前後のブレーキバランスを見直さなければならず、サービスパークでのスタッフたちはけっこうな重作業のせいでドタバタな状況だった。しかしラリーカーの全開走行時は、前後の荷重配分を常時考えていないと思ったように走ってくれないので、前後の重量配分とブレーキバランスは、次までに改善すべき大きな課題でもある。

 2つ目にギアレシオ。ハイエースの1速ギアは、商用車なので重い荷物を積んでも走り出せるようギアレシオが低い。自転車でいえば急な坂を上るための一番軽いギアというくらい低い。そして2速ギアも、普通の乗用車でいえば1速と2速の中間くらいのギアレシオで低めだ。加えて3速ギアは、乗用車の6速マニュアル車でいえば普通の3速と4速の間くらいのギアレシオだったりする。

 これで上り下りがある山中のスペシャルステージを走るとどうなるか? 1速はあっという間にエンジンが吹けきるので、すぐさま2速へシフトチェンジするも、すぐにエンジン回転数はレッドゾーンに入ってしまう。じゃ3速だ、とシフトアップするや、5速にシフトミスしたのかと思うくらいエンジンの回転数が落ちてしまう。実際の唐津での動画を見ると、2速から3速へシフトアップしようとしたときに、何度か「ババババ!」とレブリミッターに当たっている。3速に入れるより、レッドゾーンに入るほうが早かった。

<全日本ラリー第3戦ツールド九州2021in唐津でのハイエース動画>

RALLY 丹後2021に向けた対策

 ということで522日から始まる全日本ラリー第5戦のRALLY 丹後2021(以下 丹後)に向け、いくつか対策を行うことに。今回投入する「新兵器」は3つ。まずクロスレシオのミッション。といってもハイエース用の競技ミッションなど存在しないため独自開発となる。間に合えばデビュー戦の唐津で使おうと思っていたのだけれど、前述のとおり車を仕上げるのでギリギリだった。

 クロスミッションは耐久テストする時間がないためトラブルの原因になる可能性もあるけれど、モータースポーツは基本的に走る実験室。テストで壊れない部品だって本番で壊れる。壊れたら対策すればいい。またノーマルのミッションは頑丈に作られている反面、反応が鈍い傾向。なお新開発したクロスレシオのミッションは、シフトチェンジも滑らか&早いので、大きな改良になることを期待している。

 続いてサスペンション。唐津で使ったダンパーは1セット59000円というベーシカルなタイプ。丹後からサブシリンダー(別タンク式ともいう)式にグレードアップ。ベーシカルタイプでも十分な性能を実現できていたけれど、サブシリンダー付きの大容量タイプなら一段とタイヤの性能を引き出せると期待している。

 同時に丹後はハイスピードコースなので、それに備え車高を10mmくらい落とすなど、全体的な味付けも見直す。見直す理由は前輪の荷重配分が75%もあるので、驚くほど早くフロントタイヤが摩耗していくためだ。競技区間が80kmに満たない唐津ですら、レギュレーションで定められているタイヤ使用制限の6本ギリギリだったほど。丹後は競技区間が120kmでタイヤ使用制限は8本だが、ハイスピードなので不安である。

 そしてブレーキ。デビュー戦は準備期間が短かったためノーマルのブレーキにラリー用パッドを組み合わせただけ。そのため下り坂でオーバーヒート気味になった。なにしろ車重1700kgもあるハイエース。16インチサイズのディスクブレーキだと競技用として考えたら完全に容量不足だと思う。ということで丹後からブレーキも大幅に強化される。

 投入するパーツは、スポーツモデルにも使われる対向2ポッドのモノブロックキャリパーのブレーキシステム。標準のキャリパーは片側の1ポッド(ピストン)が押すだけ。しかもキャリパー本体の部品構造が左右分割になっている。それで強いブレーキを頻繁に掛けるとキャリパーやブレーキディスクが「しなって」しまい、ブレーキの微妙なコントロールが難しかった。対向2ポッドのモノブロック(キャリパー本体の左右が1つの部品で分解できない構造)なら両側からブレーキディスクを挟むので、しならずに安定して利くはずだ。

ハイエース,全日本ラリー

唐津のサービスパークで整備中のフロントブレーキ 写真:丸徳商会

 3つの改良でどのくらい速くなるのか全く予想できないが、狙い通りの仕事をしてくれたらキッチリとタイムを削れると思う。前回の唐津では1つのスペシャルステージのみ既存のラリー車より良い(最下位ではない)タイムを出せたけれど、それが増えたら嬉しい。それにハイエースが速くなるアイテムはまだまだあるのだ。

ハイエース,全日本ラリー

唐津のサービスパークで整備を受けるCAST RACINGのハイエース 写真:丸徳商会

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