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連載最終更新日:2023.08.08 公開日:2023.08.07

『イタリア発 大矢アキオの今日もクルマでアンディアーモ!』第41回 発進!オペル愛好会。普通すぎるからこそ好きになる!

イタリア・シエナ在住の人気コラムニスト、大矢アキオがヨーロッパのクルマ事情をお届けする連載企画。第41回は、熱狂的「オペル」愛好家たちよって発足したばかりのオーナーズクラブにお邪魔。イタリア人はなぜドイツ車がお好き? その理由を探った。

文・写真=大矢アキオ(Akio Lorenzo OYA)

写真・動画=大矢麻里(Mari OYA/Akio Lorenzo OYA)

オペルの「立ち位置」

2023年5月28日、イタリア北部エミリア・ロマーニャ州で催された第1回「オペル・クラシカ走行会」で。1969年「オペル1900GTクーペ」は、元GM欧州法人に勤務していたアウレリオ氏のお宝。

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かつて日本では東邦モータース、いすゞ、そしてヤナセで販売されたあと、2006年に市場から姿を消したドイツ・ブランド車「オペル」を覚えておられるだろうか。その後を説明すれば、2009年に親会社である米国ゼネラルモーターズ社(GM)の経営破綻。自力再建を試みた時期を経て、2017年にはプジョー・シトロエンなどを擁する旧グループPSAに買収された。

続いて2021年、そのグループPSAは、フィアットやクライスラーなどのブランドをもつ旧FCAと合して「ステランティス・グループ」が誕生。それにより、オペルは英国向けブランド「ヴォクスホール」とともに、同グループが抱える14ブランドのひとつとなって現在に至っている。

筆者が住むイタリアで、オペルは極めてポピュラーな存在である。筆者の記憶では2000年前後、国産ブランドのフィアットに魅力あるラインナップが乏しかったとき、オペル各車はそれに代わる選択肢として、おおいに存在感を増した。PSA系となってからは、一部のプジョー販売店にオペルのスペースがみられるようになった。さらにステランティス系となった現在、オペルはフィアット販売店のユーズドカーセンターにも、認定中古車として並んでいたりする。

直近のデータである2023年1-5月のイタリア新規登録台数を見ても、オペルは約2万2千台を記録し、12位に入っている。その約半分である11,989台を占めるのは、コンパクトカー「コルサ」である。ちなみに、本稿を書いている我が家の窓からも、簡単に2台のオペルを発見できる。

イタリアとオペルの深い関わり

開発・生産の視点からみても、オペルはイタリアとつながりがあった。1991年「カデット・カブリオ」など、オープンモデルの生産をトリノのベルトーネ社に委託していた。またベルトーネは、オペルをベースにしたコンセプトカーを製作している。

かつて約40年にわたりオペルのデザイナーとして数々のヒット作を送り出した児玉英雄氏によれば、オペルのサテライト・デザインスタジオがベルトーネ社内に設けられていた時期さえあった。筆者が付け加えれば、一部オペル車の試作工程においては、同じくトリノを本拠とする著名なエンジニアリング会社・旧「ストーラ」もおおいに関与していた。

オペルは、ラリーや各国のツーリングカー選手権など、さまざまなカテゴリーで戦績を残してきたため、モータースポーツ・ファンには、そうした時代の姿を記憶している人もいる。また、ブランドの故郷ドイツでは「テヒノクラシカ・エッセン」といった古典車ショーで、オペル愛好会のスタンドを毎年見ることができる。

ところが趣味の対象という観点からすると、他のドイツ系ブランドと比較して、愛好者は限られていたといってよい。

旧GM時代からフリート需要に強かったことにより、レンタカーの定番という印象も強い。約十年前、それを逆手にとったテレビCMも欧州で放映されたくらいだ。貸し出しカウンターでオペルと聞いた途端、複雑な表情を浮かべる男性客に、スーパーモデルのクラウディア・シファーが背後から「私なら(オペル)借りるけど」と声をかける、ある種の自虐ストーリーだ。

ランボルギーニの創始者、フェルッチョ・ランボルギーニの故郷でもあるフェラーラ県チェントで。一番左は1990年代末の「ヴェクトラB」におけるスポーツ仕様「i500」。

イタリア東部ゴリツィアからやってきた1972年「レコルトD 1700S リュクス」と、オーナーのパオロ氏。

1972年レコルトD 1700Sリュクスのインテリア。シートはレカロが奢られている。

後部ドアのウィンドウに貼られたステッカー。

「レコルト」は第二次大戦後のオペルにおける看板車種のひとつであった。これは最後のモデルである「レコルトE」の前期型。1980年式。

オペル・クラシカ会長のヴィットリオ・インブリアーニ氏と、ハッチバックをもつ1982年「アスコナC CC1.6SR」。

ヴィットリオ会長のアスコナは走行会当日、指揮車として活躍した。ドライバー側に湾曲させたダッシュボードの造形にも注目。

イタリアのオペル愛好家が集結

そうしたなか「オペル・クラシカ」と名付けられたクラブが2022年、有志の手によってイタリアで発足した。原則として車齢20年以上のオペル車およびオーナーが入会条件だ。

クラブの目的は、「主にイタリアでオペル・ブランドの文化を広め、その歴史を示し、イベントの開催、協力関係の構築、そして技術的知識の交換促進を通じて、ファンの結集を奨励することである」と記されている。

現在、登録台数は32台。当面の目標は、イタリアでヒストリックカーの愛好会を統括する「古典4輪2輪協会(ASI)」への加盟である。

そのオペル・クラシカが2023年5月28日、イタリア北部エミリア・ロマーニャ州で初の走行会を催した。朝9時に集合。モデナ-ボローニャ-フェラーラ3県をめぐるツアーだ。実は同じ月の前半、一帯は大雨に見舞われた。しかし彼らの熱意が天まで通じたのか、当日は夏を思わせるような好天に恵まれた。

初回ということもあり、台数は十数台にとどまった。にもかかわらず、ロードマップはカラーコピーではなく4色オフセット印刷のものが用意され、中身にはランチのフルコース・メニューまで解説されていた。これだけでもブランドへの思いが伝わってくる。

当日は、気合の入ったロードマップが用意された。表紙デザインはイタリア自動車クラブ(ACI)の公式まップを模したもの。

当日の最古参は、モンツァ・ブルーと名づけられた美しい青の1969年「GT」であった。聞けばオーナーのアウレリオ氏は元GMの欧州法人で、北イタリア地域統括責任者を務めた人だった。「これは退職の際、自分へのプレゼントとして、手に入れたのです」と嬉しそうに教えてくれた。

ちなみに、リトラクタブル・ヘッドランプは、センターコンソールにあるレバーを介した、メカニカル・リンケージ方式である。操作には若干の力を要するが、信頼性と低コストを優先した、オペルらしい選択といえる。

だが参加車のなかで、オペルを愛好するきっかけとして最も多かった答えは、「幼い頃、家族が乗っていたから」だった。そして彼らは各自の思い出を熱心に語ってくれた。ある参加者は、オペルの魅力を「堅牢な設計と高い信頼性、納得できる価格」と定義した。

実用車としての基本をときには自然体で、ときには愚直なまでに守ってきたからこそ、フィアットがあるイタリアでも、気がつけばファンを醸成していたのである。

東部トリエステのステファノ氏が運転してきた美しいボルドー色の1991年「カデットEステーションワゴン1.9i GT」。

アグレッシヴなデサインのホイールが印象的な1996年「ヴェクトラB」。

1997年「コルサB 1.2ヴィヴァ」。児玉英雄氏による傑作のひとつである。コルサは日本で「ヴィータ」の名前で販売されていたので、ご記憶の方も多いだろう。オーナーはクラブで広報を担当するマッテオ氏。

この日のために制作されたプレート。

2000年「ティグラA」。コルサをベースにした小粋なクーペで、これも児玉氏の名作である。

2002年「アギラ(アジラ)A 1.0コンフォート」。当時GMと提携関係にあったスズキの「ワゴンR+」がベースである。

サウンドまで収録&公開!

当日筆者は、ドイツ在住の児玉英雄氏から頂戴しておいたメッセージを携えて臨んだ。

「親愛なるオペル・クラシカのメンバーの皆さんへ。この度はイタリアでオペル・クラシカが発足された事にお祝いを申し上げます。1966年に当時オペル・スタイリングに参加をした私は40年を共にしました。10数カ国のデザイナー達と楽しく仕事を進めて今回集まって下さったモデル達をはじめいくつものモデルをデザインしたのはとても良い思い出です。ステランティス・グループの一員となったオペル・ブランドですが、ドイツ車オペルの良き性格を持つプロダクトを送り出してほしいですね。応援を宜しくお願い致します。児玉英雄」

受け取ったメンバーたちが歓喜したのは、いうまでもない。

児玉英雄氏からのメッセージを手にするヴィットリオ会長。

帰宅してから、驚くべきものを発見してしまった。クラブ公式サイトの1ページである。メンバーたちが各自愛車のエンジン音とホーン音を収録。ボタンをクリックすると誰でも“鑑賞”できるようになっているではないか。

サウンドまで楽しんでしまうとは、フェラーリやランボルギーニに近い崇め方だ。彼らによる、このドイツ・ブランドへの愛情をあらためて感じたのだった。

解散時刻。別れを惜しみながらも、再会を約束し合うメンバーたち。

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