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最終更新日:2023.03.23 公開日:2023.03.23

もし一般ドライバーが「サーキットを走る能力」を手に入れたら──『私のAE86物語』中編

サーキット走行の技術や経験は、一般ドライバーにも役に立つのか? モータージャーナリストの大谷達也が初代"ハチロク"を使って運転レッスン。公道でも役立つ情報をお届けします。今回はその中編。

文=大谷達也 写真=田村 弥

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【前編を読む】

どんなクルマを買って、どんな風に練習したらいい?

前編はこちら

「私のAE86物語」が本格的に始動することになったきっかけは、前編の最後でご説明したとおり、モータージャーナリスト・山田弘樹さんへの一本の電話にありました。それは「どうしてもクルマの運転がうまくなりたいので、協力してもらえないか?」という内容でしたが、夜も眠れないほどに悩み続けてきたそれまでの3日間に、自分なりの答えは見つかっていました。

「ドリフトができるクルマを自分で買って、サーキットで練習する」

 もう、これ以外に答えはありません。ただし、どんなクルマを買って、どんな風に練習したらいいかがわかりませんでした。そこで、そういったサーキット走行のイロハを、山田さんに教えてもらおうとしたのです。

 山田さんは包み隠さず、私が望むモノをすべて教えてくれました。彼は、私が考えていたとおり自分でクルマを買ってサーキットで練習することがいいこと、そのためにはトヨタAE86が最適であることを教えてくれたうえで、自分がコーチ役を務めると約束してくれました。それだけでなく、どこでAE86を買えばいいかも教えてくれたのです。

コーチ役を務めた山田弘樹さん(左)と著者本人(右)

 筑波サーキットの近くに、輿水モータースポーツというガレージがあります。その代表の輿水好則さんは元レーシングドライバーで、いまはAE86を中心とするスポーツカーのメンテナンスやレストアなどを専門に行っています。その輿水モータースポーツに、出物のAE86があるという情報を、山田さんは教えてくれました。

 まあ、それはボディのいたるところにサビが浮いていて、人によってはポンコツと呼びたくなるクルマでしたが、もともとレーシングカーだっただけあってサーキット走行用のサスペンション、ロールケージ、LSD(リミテッドスリップデフ)などがすでに組み込まれていました。まさに、私の目的にはうってつけです。しかも、昨今のAE86ブームから考えれば、値段はおそろしく手頃で、中古の軽自動車と大して変わりませんでした。

 私はすぐにこのクルマを買って、山田さんと一緒に筑波サーキットのコース1000で練習を始めました。「コース2000よりもコース1000のほうが、安全かつ効率的に運転を練習できる」 そう山田さんが教えてくれたからです。

 正直にいえば、私が山田さんと筑波サーキットを訪れたのは、この2年少々でおそらく10回ほどです。それでも、山田さんが的確なアドバイスをしてくれたおかげで、私はAE86でオーバーステアやアンダーステアをコントロールしながらサーキットを走れるようになりました。これには、輿水さんが仕立ててくださったAE86がバツグンに運転しやすかったことも大いに関係しています。

クルマの状態を感じ取る力とは?

見た目は多少ボロいが、サーキットを走らせるにはAE86が最高の教習車だという

 私がなにを教わったかを書くと話が長くなるので省きますが、サーキットで練習を積んだおかげで、私のなかで大きな変化がありました。

 それがなにかといえば、クルマの状態を感じ取る力が格段に向上したのです。

 タイヤが滑りそうになる兆候をいち早くつかみ取れるようになったのが、そのなかでも最大のポイントですが、それ以外にも、たとえばコーナリング中にクルマがどれくらい傾いていて、前後左右のタイヤにそれぞれどんな力がかかっているかも感じ取れるようになりました。

 サーキット走行というと、後輪が流れ始めたときにカウンターステアをあててこれをコントロールする能力が大切なように私は考えていましたが、いざやってみると、後輪が流れ始めてからカウンターステアを切っても大抵の場合は間に合いません。人間の反射神経は、そこまで鋭敏ではないからです。

 では、どうすればいいかというと、後輪が滑り始める兆候を掴み獲らなければいけないのです。そうすれば早めにカウンターステアをあてられて、自分の理想に近い形にクルマをコントロールできるようになる。山田さんに教わったのは、要はそういうことでした。

なぜ、サーキットで練習すると運転がていねいになる?

練習場となった、筑波サーキットのコース1000にて

 これは私の仕事にも大いに役立つことですが、それだけでなく、公道を乗用車で走る多くのドライバーにとっても有用なことです。クルマやタイヤがどんな状況にあるかをあらかじめ知ることができれば、いざというときにも、事故を回避できる可能性が高まります。つまり、安全運転に役立つのです。

 もっとも、そういった鋭い感受性が安全運転に役立つ機会は、1年に1回とか、ひょっとしたら10年に1回くらいしか訪れないかもしれません。でも、それ以上に普段のクルマの運転に役立つのが、「クルマの操作がていねいになる」ことにあります。

「サーキットで練習するとクルマの運転がていねいになる」と聞くと、多くの方々は不思議に思われるかもしれませんが、クルマの限界を的確に引き出すには、なによりもていねいな運転が重要なのです。先ほども申し上げたとおり、人間の反射神経はそれほど鋭敏ではありません。だから、乱暴な運転をして唐突にタイヤのグリップが失われた場合、これに対応するのは至難の技です。そうではなく、ていねいに運転するとタイヤのグリップも「ジワリ」と変化するようになり、より容易にカウンターステアなどをあてられるようになります。

乱暴な運転はむしろできなくなる!

 この、ていねいに操作できる力は、普段の運転でもとても役に立ちます。きっと、アナタの隣に座った人は「あれ、●●さん、運転がとっても優しくなった」と感じるはずです。

 しかも、無理してていねいな運転を心がける必要はありません。なぜなら、サーキットで運転を練習した人は自然とていねいな運転になって、乱暴な運転はむしろできなくなるからです。

 つまり、サーキットで運転を練習すると、より安全で、同乗している人に優しいドライバーになれるのです。

 こんな風に生まれ変わった私が、どうしてレースに出ることになったのか? そして、それまでにどんな準備をしたかについては、後編でご紹介することにしましょう。

【後編につづく】

サーキットでのトレーニングを積み、次回いよいよレースに挑む!

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