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最終更新日:2023.06.14 公開日:2022.05.17

吉田 匠の『スポーツ&クラシックカー研究所』Vol.11 FIAT 500eと、愛すべきその先代たち。その1:FIAT 500e

モータージャーナリストの吉田 匠が、古今東西のスポーツカーとクラシックカーについて解説する連載コラム。第8回はイタリアの国民車、「フィアット 500(チンクエチェント)」を大特集。初回は、電気自動車として登場した最新モデル「500e」の試乗レポートをお届けする。

文=吉田 匠

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EV時代に生まれたチンクエチェント

フィアット 500e|Fiat 500e

「500」をイタリア語読みして「チンクエチェント」とも呼ばれるフィアット500。その最新モデルとしてバッテリー駆動の電気自動車、「500e」が最近日本でも発表されたが、実はこれ、フィアット500として4代目のクルマになる。初代フィアット500はなんと戦前の1936年に発表された愛称「トポリーノ」というクルマ、2代目が1957年に登場したリアエンジンの500、3代目が今も現役として世界中で人気の500、別名チンクエチェントで、その次世代モデルとして登場したのが500eというわけだ。

500eはバッテリー駆動の電気自動車=BEVだが、もっと簡単に表現するといわゆるEVで、写真を見れば一目瞭然なように、そのボディは現行モデルのチンクエチェントの一部をデザイン変更しただけのように見える。けれども実は、500eのシャシーとボディはEV用に新設計されたまったくの新型で、そのサイズも全長3630×全幅1685×全高1530mm、ホイールベース2320mmと、エンジン車の現行フィアット500よりひと回り大きい。

電動ソフトトップを開いた500e Openの半戸外的居住空間。

 横浜をベースに開かれた試乗会で現車を見てみると、雰囲気はチンクエチェントにそっくりだが、サイズは確実に大きいことが実感できる。とはいえ、上に書いたようにそのボディは幅は1685mmと5ナンバーサイズに収まるものだし、全長も3.6m強しかないから、依然として今日のクルマとしては、軽を除けばもっともコンパクトなもののひとつに違いない。で、そのボディの床下にリチウムイオンバッテリーを収め、フロントのボンネット内に電気モーターを配置して、前輪駆動=FWDのEVとしているのだ。

日本で発売された500eには、Pop=450万円、Icon=485万円、Open=495万円の3モデルがあるが、実はそれらは通常の販売形式を採らない。いわゆるサブスクリプションもしくはリースというカタチで500eに乗ることになり、支払金額にはメインテナンス費用なども含まれていて、最終的にはディーラーにクルマを返却することになる。EVという未知の領域のクルマを所有するリスクをユーザーが負わなくて済む、というわけだ。

輝く500らしさ

電動ソフトトップの屋根を開ければ、開放感溢れる空間が広がる。

 上記3モデルのなかから試乗に借り出したのは最も高価なモデル、電動開閉式ソフトトップを備えるカブリオレボディのOpenだった。さっそくコクピットに収まると、エンジンの500より未来的なデザインのダッシュボードや、FIATのロゴを配したシートなど、500より一段とモダンで高級感のある印象。しかもステアリングを調整してみて驚いた。エンジンの500ではティルトするだけだったが、ステアリングを前後方向に調整するテレスコピックも可能になっていて、好みの運転ポジションが手に入り易くなっている。

さっそく横浜みなとみらいから首都高に乗って大黒PAを目指す。前輪を駆動する電気モーターの性能は、最高出力が87kw(118㎰)/4000rpm、最大トルクが220Nm/2000rpmというもので、車重はコンパクトなことが効いてEVとしては軽い1360kg。しかも起動した瞬間に最大トルクを発生する電気モーターの特性ゆえに加速は活発で、走り出すと同時に街中を軽快に縫っていく。今回は東名のような高速道路を走る場面はなかったので100km/hから上の加速は不明だが、首都高レベルのスピードなら充分活発に走る。

500e Openのモダンにして上質なインテリア。

 それに加えて印象的だったのが、ボディの剛性感、しっかり感だった。205/45R17という扁平タイヤを履いているためもあって乗り心地はやや硬めだが、それでも決して不快感はなく、路面の凹凸をスムーズに乗り越えていく。しかも、床下にバッテリーを積んだ低重心が効いて、クルマ自体の背が高いわりに身のこなしは安定し、大黒PAからベイブリッジに上がるタイトなコーナーの連続も、気持ちよく駆け上がってしまった。

試乗車はソフトトップのセミオープン仕様で、屋根の部分が大きく開く構造だが、それでもボディ剛性の不足を感じることはなく、路面の悪い部分でもあくまでカッチリとした印象をキープする。だからこの電動ソフトトップ、閉じていれば普通のボディと大差ない密閉感を味わえる一方で、開ければバルコニーにいるような半戸外的開放感を味わわせてくれるのが気持ちいい。この500e Open、クローズドボディのIconとの価格差は10万円だから、頭上が抜けた気持ち好さを好むなら、選ぶ価値は充分にあると思う。

こんなにもカワイイEVがあっただろうか

充電中の500e Open。

 500eには、「NORMAL」「RANGE」「SHERPA」の3つの走行モードが備わっている。もっとも標準的な「NORMAL」では、エンジン車に近い自然な運転感覚が得られる一方で、「RANGE」にするとアクセルを閉じた際の回生ブレーキが強くなり、充電効率が上がると同時に、ブレーキペダルを踏まなくても減速するEV独特のドライビング感覚が味わえる。最後の「SHERPA」は、アクセルレスポンスを弱めたり、シートヒーターをオフにするなどして、航続距離を伸ばすためのモードとして使える。

EVで最大の関心事である一充電走行距離は、WLTCモードで最大335kmと公表されている。これまでの経験から推測すると、200km台が確実な走行距離だろう。となると、途中充電なしで遠出をするのは不安だが、この500e、ボディサイズやスタイリングの雰囲気、大人が4人乗るには狭いけれど子供2人ならイケそうなリアシートからいっても、都会やその周辺の足として使うシティラナバウトとして乗るには、絶好のクルマだろう。ちなみに急速充電は、日本国内で広く普及しているCHAdeMO方式を採用している。

街乗り専用に1台持てる駐車スペースおよび金銭的な余裕と、自宅で200Vの普通充電が可能な環境に住んでいるなら充分検討に値する、イタリア生まれのチャーミングな街乗り小型車が出現したわけである。

【記事の続きはこちらから!】
その2:初代FIAT 500「トポリーノ」
https://kurukura.jp/car-life/-vol8-fiat-500efiat-500.html

その3:2代目FIAT 500「ヌォ―ヴァ チンクエチェント」
https://kurukura.jp/nostalgic-cars/2022-0609-60.html

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