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最終更新日:2022.03.22 公開日:2022.03.22

【体験記】ショベルカーを運転したい! 災害時にも役立つ小型重機の運転教育を受講してみた。

ショベルカーを運転したい! でも一体どうすれば? モータージャーナリストの会田 肇氏が教習所に通い、小型重機を運転・操作できる特別教育にチャレンジ。その体験レポートをお届けする。

文=会田 肇 取材協力=コベルコ教習所

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小型車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削用)運転特別教育の実技講習風景

小型重機でも運転できる人は意外に少ない?

 住宅地などの工事現場でもよく見かける小型のショベル。”働くクルマ”としても身近な存在だが、この重機を操作するにはどんな資格がいるのだろうか。調べてみると機体質量が3t未満のミニショベルは、労働安全衛生法で定められた特別教育を修了する必要があることがわかった。今回はその教育を修了するまでの体験をレポートしたい。

 そもそも、小型重機に関心を抱いたきっかけは、2019年10月に発生した台風19号による長野県の千曲川堤防決壊だ。筆者も復興支援などでボランティアで参加する意思はあったが、還暦を過ぎて現場での作業はだんだん辛くなってきているのも事実。ならば大型重機はできなくても、小型重機を操作して後方支援に回るのが、現場での足手まといにならずに済む方法ではないか。そう考えるようになった。

 ただ、千曲川堤防決壊の時は全国から多くのミニショベルなどが集められたそうだが、驚いたことにその多くが使われず終わったという。その理由は、小型重機を操作・運転できる有資格者、教育修了者が少なかったことにあった。実は、重機のうち例えば3t未満のミニショベル(以下ミニショベル)を操作・運転するには、労働安全衛生法で定められた特別教育を修了する必要がある。この特別教育を修了したものでないと操作・運転はしてはいけないことになっているのだ。

 仮にこれを修了せずに操作・運転をした場合、事業者には「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」が、作業者には「50万円以下の罰金」がそれぞれ科せられる。意外に厳しい罰則が科せられるのだ。ボランティア活動を依頼する多くが自治体であることから、有資格者か、修了証の交付を受けた者でないと作業を依頼されない可能性も考えられる。「資格は取っておくべき」。そう思ったのはこの時だ。

 でも、小型重機の操縦なんて一度もしたことがない。現場も知らない人間がこの教育を受けることはできるのか。調べてみると、この教育を修了するための講習は「小型車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削用)運転特別教育」と呼ばれるもので、全国の重機系の資格取得を取り扱う教習所で誰でも受講できることがわかった。

さまざまな重機の資格取得のための講習が行われている「コベルコ教習所・市川教習センター」

受講枠は満席。キャンセル待ちで受講枠をGET!

 そこで私が住んでいる千葉県内の教習所へ申し込み方法を問い合わせてみた。これが1月初旬の話。しかし、驚いたことに、数軒、連絡したどの教習所もスケジュールが立っている3月まですべて受講枠がいっぱいだという。唯一、キャンセル待ちを受け付けてくれたのが、今回お世話になった「コベルコ教習所・市川教習センター」だった。

 聞けば、市川教習センターでは月2回ほどこの講習がスケジュールに組まれているが、同じく3月まですべて埋まっているという。問い合わせた電話口では「年度の変わり目でもあり混雑してるのかもしれないが、最近は申し込み数が増えている」との話だった。

 とはいえ、キャンセル待ちができるとのことなので、ダメ元で2月中のキャンセル待ちを申し込んだ。そして、それから1週間ほどが経ち、「2月の1回目で空きが出た」との返事。さっそくここで受講申し込みをすることにした。

 申し込み書類のやり取りは、市川教習センターの場合、郵送でも対応できるがFAXかメールでも構わないとのことだったので、申し込み書をPDFにしてメールで申し込みを済ませた。ただ、写真は修了証に反映するため、所定サイズの写真を貼った申込書の原本を、初日に必ず持参するよう指示された。受講費用はテキスト代込みで1万7000円(税込)。これは当日支払いでも構わないが、私は事前に銀行振込で対応した。

同じ敷地内の「コベルコ建機日本」では、整備や一時預かりのための重機が数多く置かれていた

小型車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削用)運転特別教育の学科講習。30名ほどが受講していた

定められた講習を受講すれば、原則全員に修了証を交付

 いよいよ講習当日を迎えた。集合時間は午前8時半。教習センターには大型の重機が所狭しと並び、それらの大半は販売会社のコベルコ建機日本が管理している機材で、メンテナンスや一時預かりのために置いているものだという。受付で手続きをするとテキストを受取り、受講する教室が案内された。

 教室へ入るとそこは普通の教室の風景で、大型の液晶モニターやプロジェクター設備が備えられていた。受講生は30名ほど。現場作業の服装で来ている人もいれば、きちっとジャケットを着ている人もいる。外国人も5~6人ほどいた。

 初日は学科(8:40-17:15)で、2日目は実技(8:40-16:20/修了式含む)。昼食時間を除き、10分の休憩を挟んで60分間の講習で進められる。学科は100ページほどのテキストを1日8時間をかけて一通り学習するため、うかうかしていると重要なポイントは聞きそびれてしまいそうになる。こんな密度の高い講義を長時間にわたって受けるのは久しぶりだ

学科講習のスケジュールは8時半から昼を挟んで17時15分までビッシリ組まれている

トラクターショベルの操作はまず学科講習で学習するが、実技を体験しないとなかなかイメージが湧かない

 とはいえ、今回受講した特別教育は、学科試験・実技試験がなくこの受講のみで修了証は交付してもらえる。ただ、冒頭、講師からは「時間は超過しても早く終わってもダメ。なので、遅れずに着席するように。もし、遅刻が目立った場合には修了証は交付できないこともある」と釘を刺された。厳しいところはビシッと締められるようである。

 受講にあたっての服装は基本的に普段着で構わないが、実技ではヒラヒラとした服装は機材に絡まる恐れがあるのでNG。靴は安全靴が理想だが、スニーカーでも構わない。この日は作業着で来ている人も多かった。また、実技ではヘルメット着用が義務付けられており、手持ちがない人には貸し出してくれる。しかし、昨今の事情を踏まえると作業用ヘルメットを自前で用意するのがベター。この日も借りる人は数人しかないなかった。

100ページほどあるテキスト。内容を理解するためにも、学科講習の前にしっかり読んで置くことをお勧めする

講習では2日間をフルに使って学科と実技を学習

1日目の学科の詳細は、大きく分けると以下の4つで進められる。

(1)小型車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削用)の走行に関する装置の構造及び取扱いの方法に関する知識<3時間>

(2)小型車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削用)の作業に関する装置の構造、取扱い及び作業方法に関する知識<2時間>

(3)小型車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削用)の運転に必要な一般的事項に関する知識<1時間>

(4)関係法令<1時間>

 講義は進行優先で割と淡々と進められるため、時折、眠気も襲ってくる。特に昼食後が辛かった。周囲を見ると何となく眠そうにしている人もいた。ただ、冒頭で釘を刺された注意事項を思い出し、気を取り直して講義に臨んだ。受講した時は2月であったため、教室内は暖房が効いていて喉がからからになる。必要に応じて水分を補給するといいだろう。

実技講習では講師が自ら実技例を教えてくれるのでわかりやすい。これは走行時のショベルの状態を示している

走行は簡単でも、ミニショベルの操作は経験が欠かせない

 一方で、実技は2班に分けられ、一日中、屋外で行われる。そのため、真冬の2月は北風が吹くとかなり寒い。一応、暖房設備のあるコンテナハウスも用意されており、必要に応じてそこで見学することはできる。しかし、未体験者にとっては他人の所作も参考になることもあるので、ここに入ってしまうとその様子も感じられないまま重機に向かうことになる。なので、筆者は屋外で他の人の動きを観察することにした。となれば防寒対策はしっかりしておくことは欠かせない。

 実技には教育修了後に運転ができるミニショベルが使われた。前半は走行練習で、ここではレバーを動かしてミニショベルの基本的な動かし方を学習する。

講師が触れているのが前/後進レバー。前に押すと前進し、手前に引くと後進する

走行練習では簡単なスラロームコースを作り、重機を左右に曲がれるよう学習した

 運転席前には2本のレバーが備えられ、これは左右のクローラー(馴染みがある「キャタピラー」はアメリカのキャタピラー社の登録商標)を動かすためのもの。さらに運転席左側にはキャビンを左右に回転させたりアーム操作をするレバーが、右側にはブームを動かしたり、バケットでかき込むためのレバーが備えられている。これらを状況に応じて使い分けることで、ミニショベルは作動するのだ。

 結論から言えば前/後進は特に悩まず簡単に操作できる。最初はついレバー操作を恐るおそる動かそうとするため、クルマでクラッチつなぎに失敗したときのようなガックンガックンとした動きになってしまう。しかし、何度か試しているうちにそれにも慣れてスムーズに走れるようになる。ターンも特に悩むことなくスムーズに操作することができた。

 難しいのは掘削時の操作だ。このショベルで穴を掘って、別の位置に土を移して、そこでもまた穴を掘って最初の場所に戻す作業を繰り返すが、これがなかなかうまくいかない。左右のレバーを使い分けて操作するのだが、左右のレバーの動かし加減が思うように扱えないのだ。

 講師からは「初めはみんなそうだから気にしなくていい」と言われるが、せっかく掘り出した土を指定場所に落とせなかったりすると「何やってんだろ」と自己嫌悪に陥ったりする。何度もトライして何とか土を指定位置に運んだが、これは経験を積まないと扱うのはかなり難しいと実感した次第だ。

ショベル操作の本番とも言える掘削作業。左右にあるレバーを使って調整するが、これが結構難しい

災害救援のボランティアグループに所属しながら救命講師としても活躍する阿部博志さん(72歳)。年齢を重ね、力仕事ができにくくなってきたことも受講の理由だそうだ

まとめ

 まったくの素人が2日間の特別教育を終え、無事、小型車両建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削用)運転特別教育の修了証を取得。これにより3t未満のミニショベル、トラクターショベルなどの操作・運転が可能となったわけだが、やはり経験を積んでいかないと本当の意味で”取得した”ことにはならない。あくまで基礎・基本を学んだという認識だ。

 では、そうした経験が詰めるプログラムはあるのだろうか。この点についてコベルコ教習所に聞くと「大半の人が現場で経験していくので、そういった対応はしていない。週末のアルバイトで経験を積んでいく人もいるようだ」との回答だった。

 また、今回の講習を聞いて感じたのが、学科についてはオンラインでの講習も可能ではないかということ。時節柄、この状態で多数の人が講習を一緒に受けることには不安があるからだ。ただ、コベルコ教習所によれば、厚労省からオンライン化への指針は示されている段階で、今後の検討課題としていきたいとのことだった。

 この経験が役立つ災害が起きないことを祈るが、とはいえ災害はいつ発生するかわからない。そんな非常時に有資格者がいれば、復興に向けた作業が効率よく進むことが期待できる。また、技術を学ぶことで作業の手配にも役立つことだろう。体験する気持ちで資格の取得や教育を受けてみてはいかがだろうか。

特別教育を受講して取得した修了証。永年に渡って有効となる

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