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最終更新日:2021.07.16 公開日:2021.07.16

「アムールトラ」|第31回アニマル”しっかり”みるみる

世界中から集まったさまざまな動物たちを、間近で見て・感じられる施設がサファリパーク。そんなサファリパークで動物たちの世話をする飼育員さんに、知っておくとちょっぴり動物通になれるポイントを、 "しっかり" ご指導いただきました。富士山の自然豊かな環境にある富士サファリパークの動物展示課飼育担当関さんに、「アムールトラ」を解説してもらいました。

文・上條 謙二

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獲物近くまで忍び寄って仕留める

「アムールトラ」は、体形的に胴長短足で、四肢ががっしり太いのが特徴。

 食肉目ネコ科の動物の中で最大である「トラ」。金網などにつかまって体を起こした姿を一度目にして、その大きさと迫力に驚かれた方も多いことでしょう。園内で飼育されているのは、そんなトラの中でも最も体の大きい「アムールトラ(別名シベリアトラ)」と呼ばれる種類です。オスの体長は2.7~3.1m、体重は180~260kgほど、メスの体長は2.4~2.8m、体重は130~160kgほどになります。中国北部からロシアにかけての森林地帯や背の高い植物の生える草原などに生息していますが、生息地環境の悪化や密猟などにより個体数は減っており、現在野生下では世界中に500頭前後しかいないと言われています。

 野生下でのアムールトラは、繁殖期以外はオスもメスも単独で暮らします。同じネコ科のライオンが集団で狩りをするのと違って、アムールトラの場合は単独で行動するので、狩りは獲物の近くまで忍び寄り襲いかかって捕らえるという方法です。「アムールトラの身体的特徴は、そんな狩りに向いた体のつくりになっていること」(※関さん以下同)です。

 獲物を長い距離追いかけるのではなく、近寄って瞬時に捕らえる方法をとるところから、瞬発力が求められるので全身の筋肉が大きく発達しており、どの方向にも5~6m程度はジャンプできます。特に四肢の筋肉と肩の筋肉は発達しています。

 牙と共に大きな武器となる爪は、鋭く頑丈な鉤爪(かぎづめ)になっており、捕らえた獲物をしっかりと押さえ込むことができます。「園内には、爪研ぎ用の丸太が用意してあるのですが、アムールトラが爪研ぎした後、爪跡が深く刻まれているのを目にするとその威力のほどを感じる」そうです。木の幹などに爪で傷をつける行動は縄張りの主張でもあります。爪は必要なとき以外は収納しているので、獲物に近づくときは音を立てずに忍び寄ることができます。

 特有の体の模様も、森林や草原の中で獲物に近づいたり、草や木の陰などに隠れて待ち伏せするときに周りの景色に溶け込ませる効果があると言われています。 またその体形ですが、正面から見ると体高に比べて体の幅が狭くなっており、障害物の多い森林や草原の中でも楽にすり抜けて移動できるようになっています。

水遊びが好きな理由は?

「アムールトラ」は、木登りをすることがある。園内の個体は、木に登ってそこで長い時間を過ごすというよりも、登って遠くを眺めるような、偵察活動の一環として行っている。

 アムールトラは、ネコ科の動物としては珍しく水に入ることを好みます。水に入るのは、暑さをしのいで体温調整する目的以外に、狩りのとき近づいた獲物に臭いで気づかれないようにするために行っているとも言われています。「園内の個体は、朝や夕方に水に入ることが多いです。園内で水遊びをする場合は、泳ぐというより、ゆっくり浸かる感じです。オスの方がメスよりも頻繁に水に浸かる」そうです。

 アムールトラは、排尿によるマーキングをこまめに行います。自分の縄張りを主張するための行動で、マーキングは決まった場所で行います。このマーキングですが、霧状の尿を木などに散布するように飛ばします。「メスもマーキングは行いますが、回数はオスに比べて少なく、量もチョロチョロという感じで多くありません。それに比べ、オスは回数が多く、排尿する量も多い」そうです。またトラが近づいてきてお尻を向け、尻尾を上げたら、それは排尿のサインなので、霧状の尿をひっかけられないようにくれぐれもご注意を!

 単独行動が基本のアムールトラでも、コミュニケーションは取ります。その一つが鼻を鳴らすようにしてからすり寄る方法です。「ブフフッ」という鼻の中で空気をためて鳴らす特徴のある音で、友好的な感情を持つ個体に対して発します。「ときには飼育員に対しても発することもある」そうです。

 また鳴き声を上げて自分の感情を表すこともあります。寂しいとき(園内での場合、急に仲の良い個体の姿が見えなくなって、1頭だけ取り残されてしまったときなど)に、遠吠え的な「アオーン」という鳴き声を出します。ライオンの咆哮にも似ている鳴き声ですが、アムールトラは自分の存在を強く主張するために鳴くようなことはしません。ただ威嚇するときには、低い唸り声や、「シャー」という鳴き声を出すことはあります。そんなときは姿勢を低くして、耳を横に倒します。そんな様子は同じネコ科の動物であるネコとも共通しています。

それぞれに落ち着ける場所がある

「アムールトラ」は、上下に2本ずつ大きな犬歯がある。犬歯は、獲物を捕らえるときの重要な武器となる。

 そんなアムールトラは、どんな性質の動物なのでしょうか? 新しい場所や初めて体験する物事に対してとても警戒心が強く、慎重に対応する動物です。「例えば、園内に設置される電動ゲートが動くのを初めて見て、とてもビックリしたことがありました。個体差はありますが、成獣であっても神経質に警戒する対応をとり続けます。これは人間に対しても同様で、新任の飼育員など見慣れていない人に対しては、威嚇をするわけではなく警戒心からじーっと凝視していることがある」そうです。

 最後に「アムールトラあるある」についても伺いました。

 それは「それぞれの個体ごとに、自分の落ち着ける場所が園内にちゃんと決まってあること」です。アムールトラはどんな場所でリラックスすることができるのか、機会があればよく観察してみてください。

「アムールトラは、音に敏感な動物です。音がするとすぐその方向に耳(耳介)を傾けます。とくにエサ箱の音に敏感ですが、いつも周りの音を注意して聞いている感じです」と飼育担当の関さん。

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