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最終更新日:2021.02.25 公開日:2021.02.25

絹糸の強度アップにセルロースナノファイバー(CNF)。カイコにCNFを食べさせてみた東北大学

植物由来の樹脂の補強材として、セルロースナノファイバー(CNF)を混ぜるグリーンコンポジットが注目されている。しかしCNFを樹脂に均一に分散させることが難しく、これまで課題となっていた。そうした中、東北大学は2月3日、植物繊維をナノレベルに解繊(かいせん)したCNFをエサに混ぜてカイコに与え、CNFが一方向に配列した蚕糸(絹糸)を作り出すことに成功したと発表した。

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 近年、車体の軽量化を主目的として、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics:炭素繊維強化プラスチック)の導入事例が増えてきている。かつては非常に高価な素材だったが、近年はコストダウンも進み、高級車(主にスーパーカー)の外装パーツとして採用されたり、アフターパーツが市販されたりしている状況だ。

 クルマにとって軽量化は、燃費や運動性能の向上、タイヤやブレーキ、さらにはサスペンションなどへの負荷が減るなどメリットが多。CFRPは、鉄などの金属と同等の強度を維持しつつ大幅に軽量化を図れることから、さまざまなパーツを金属からCFRPに置き換える研究が続けられている。

 しかし一方で、CFRPは環境面での課題を抱えている。焼却処分が難しいため、廃棄する際はそのほとんどが埋設処分されているのだ。CFRPの普及が進み、もしコンパクトカーや軽自動車といった普及価格帯の車種にも採用されるようになったらどうだろうか。処分の問題は顕在化してくることになるだろう。

 そうした、現在開発が進められているのが、植物由来の強化繊維であるセルロースナノファイバー(CNF)と、植物由来の樹脂で作るグリーンコンポジット(環境に優しい複合材料)だ。グリーンコンポジットなら焼却処分もしやす。このような経緯から、近年、CNFと、それを補強材としたグリーンコンポジットが注目されているのだ。

 ただしCNFは発展途上の素材であり、その生産に関してはまだ課題が存在している。そのひとつが、樹脂などに均一に分散させる技術が確立されていない点だ。樹脂の中でCNFが偏ってしまうと、強化繊維としての役割を果たしにくい。しっかりと補強効果を発揮するためには均一に分散する必要があり、それを実現するための技術や、特性を評価するための検査技術などの開発が現在進行形で進められている。

カイコの力を借りてCNFを一方向に配列させた複合絹糸の開発に成功

 今般、東北大学 大学院環境科学研究科(工学部材料科学総合学科)の成田史生教授と栗田大樹助教らの研究チームは、昆虫のカイコ(幼虫)の力を借りて、CNFを一方向に配列させるという手法を開発した。これまでCNFを一方向にそろえて材料を強化する技術は確立されていなかったが、成田教授らは生物の力を借りることでそれを編み出したのである。

 どのようにCNFを一方向に配列させるかというと、まずCNFをエサに混ぜてカイコに食べさせる(画像1a)。あとはカイコが蚕糸でもってマユを作るのを待つだけだ。CNFを食べたカイコはフンとして排泄してしまうのではなく、蚕糸に含めて産生する。こうして作られたマユから蚕糸を紡げば、CNF入り複合絹糸の完成である。植物繊維をナノレベルに解繊(かいせん)してCNFを作る部分は技術がいるにしても、それ以外に特殊な装置や技術を必要としない点が大きな特徴だ。

画像1。CNFを混ぜたエサをカイコに食べさせて(a)、作られたマユ(b)からCNF入り複合絹糸が採取された。そして、引張試験が行われた(c)。

エサに対してCNFを混ぜる割合は重量含有率で5%が望ましい

 成田教授らは今回、CNFの重量含有率で5%と10%の2種類のエサを作り、それぞれ個別のカイコに与えて2種類のCNF入り複合絹糸を採取した。そして、その2種類の絹糸と通常の絹糸とで引張試験を実施(画像2a)。引張試験のグラフは横軸にひずみ、縦軸に引張応力が取られており、5%複合絹糸は、通常の絹糸と10%複合絹糸に対し、引張応力が約2倍あることがわかる。それだけ引っ張られる力に強いということだ。

 そして画像2bの縦弾性係数(※1)に関しては、5%複合絹糸は、通常の絹糸のおよそ2倍の、10%複合絹糸よりも約1.5倍を示した。さらに引張強さ(画像2c)では、5%複合絹糸は、通常の絹糸と10%複合絹糸よりも1.5倍以上高い数値となった。このほか、5%複合絹糸は比強度(※2)も増大していたという。

※1 縦弾性係数:一様な太さの棒を引き伸ばし、縦軸に単位面積当たりの力を、横軸に単位長さ当たりの伸びをプロットした時に描かれる曲線の初期の傾き(比例定数)のことで、ヤング率ともいわれる
※2 比強度:引っ張り強さを密度で割った値。この値が大きい材料ほど、軽くて強いことを意味する

画像2。引張試験の結果。(a)引張試験のグラフ。(b)縦弾性係数のグラフ。(c)引張強さのグラフ。

 この3種類の絹糸を走査型プローブ顕微鏡で観察すると、複合絹糸では一方向にCNFが配列していることも確認できた(画像3)。これにより、CNFを添加することによって絹糸の機械的性質が向上することが明らかとなった。なお10%複合絹糸は、CNFが多すぎるためか、ところどころにCNFの凝集が見られ、均一にはなりにくいようだ。

画像3。画像左から普通のエサ、5%のCNFが混入されたエサ、10%のCNFが混入されたエサを食べたそれぞれのカイコが産生した複合絹糸の走査型プローブ顕微鏡観察画像。

 蚕糸は、カイコの体内にある左右一対の「絹糸腺」と呼ばれる器官で生成される。1本の蚕糸の70%を構成するのが、「フィブロイン」という2本の多孔質繊維状のタンパク質だ。残りの30%を占めるのが、フィブロインの周囲に存在する「セリシン(絹膠)」である。フィブロインとセリシンを分離した状態で試験を行う方が数値はよくなるようだが、今回はそれらを分離させずに試験を実施。それでも、優れた結果を得られたとしている。

 成田教授らは、これまで困難だったCNFの一方向配列をカイコの力を借りることで達成できたことから、CNF入り複合絹糸と植物由来の樹脂を組み合わせることで、CNFが均一に分散してなおかつ一方向に配列したグリーンコンポジットの開発が期待されるとした。また、CNFをエサに含有してカイコを育て、CNF入り複合絹糸を大量生産することで用途が広がれば、養蚕農家などの絹糸業界の活性化も期待できるだろうと述べている。

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